【R18】略奪王女と堅物夫の秘密 〜我々は鍵と鍵穴である〜

小判鮫

文字の大きさ
19 / 23

17 豊穣祭 〜婚姻三ヶ月〜

しおりを挟む
 
 エシモワ王国王城では、秋の豊穣を祝う宴が開かれている。

 玉座のある謁見えっけん場である日光間ヒカリのまと共に、隣接する蒼天間ソラのま碧海間ウミのまの仕切りを外し開放されていた。

 そうして王国全ての貴族家の当主と随行する一名が、序列に応じて次々に会場入りしていく。

「ワルエトージ侯爵、ヘルムーズ・ビアイシン閣下、アーナルヤ・ビアイシン夫人!御入場っ!」

 謁見の間への入り口で貴族の入場を宣言する侍従の声が響くと、謁見の間から音が消えた。

 当代の社交界の華たる第二王女が侯爵家へ降嫁したのは三月ほど前。その夫と共に現れた彼女に注目するのは、その場に居合わせた貴族たち。
 
 優雅な微笑みを浮かべて、夫にエスコートされながら会場を滑るように歩く元王女。
 父である玉座に座る国王と視線を交わし、夫婦揃ってこうべを垂れる。

「エシモワ王国の父たる陛下へ、御礼おんれいを述べるべく御前ごぜんまかり越しまして御座います。今年こんねんも実りの多きこと、これも全て陛下のご采配さいはいあっての賜物たまものぞんまつります。明日の我らの糧をお守り下さり感謝申し上げます」

 ヘルムーズがビアイシン一族特有の定型挨拶を口にした。

「うむ。相変わらずよな、ビアイシンの者は。して、嫁した姫からは言祝ぎはないのか?」

 苦笑混じりにも親しげな声が掛かると、夫婦は揃って顔を上げる。

「本年も収穫が多かったと聞きましたわ、お父様。あ!申し訳御座いません、陛下」

「何を他人行儀な。我が娘よ、恙無つつがなく過ごしておるか?」

 アーナルヤが失言を取り繕うかの様に慌てて頭を下げると、朗らかな笑い声で父としての言葉を掛けられた。

「はい。旦那様には大変良くして頂いておりますの」

 恥ずかしそうに頬を緩める娘に相好を崩し、国王は満足そうにヘルムーズへ視線を向ける。

「ふむ。良き縁であった様だ。これからも我が国の為、其方そなたも力添えを頼むぞ」

勿体もったいなきお言葉、ビアイシンの名に恥じることなく、これより一層精進しょうじんして参ります」

 国王が鷹揚おうように頷くと、三歩退しりぞき一礼、左に三歩進んで踵を返し、祝宴の場へと足を運んだ。

「アーニャ、陛下にあんなコトを言うなんて」

「ごめんなさい、ヘル。あなたと共にある幸運を、お父様にもお伝えしたかったのですわ」

 ヘルムーズは肩をすくめて苦笑する。

「仕方のない奥様だ」
 
 そう言いながら彼女の手を掬い取って指先に口付けた。

 途端に「ほぅ……」と会場のあちこちから吐息の様な溜め息の様な音を皮切りに、ざわざわしたおしゃべりが再開される。

 ヘルムーズ・ビアイシンは、第二王女に見染められたとは言え、特徴のある美形と言うほどではではない。
 更に言えば、家門同士の取り決めた婚約を白紙にしてまで、アーナルヤを娶った男である。

 当時は横恋慕王女や浮気野郎などと大層な醜聞もあったが、常に幸せそうな王女の様子が見られると、醜聞はあっさりと『真実の愛を貫いた王女と侯爵子息』の美談に変えられていった。

 それともない、この国では現在、真実の愛などと謳い、婚約解消や破棄、破談などが横行している。

 そして、美しい王女を娶った平凡な男をやっかむ者、社交界の華である立場を掠め取ろうとする者も現れ始め、その急先鋒イケニエにヘルムーズの元婚約者を担ぎ上げる者たちが水面下でうごめいていた。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...