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第四章 浮かび上がる影
18. ほんの少しの
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『俺は奴を殺すことになるって言ってもお前は手伝うつもりなのか?』
予想だにしていなかったその言葉は、蒼の心の中にずしんと重くのしかかった。
――本気だ……。
漠然とそう感じて、慌てて否定する言葉を探す。
「何を……私を怖がらせようと思ったって無駄ですよ? 探してるのは聖杯を奪うためって、さっき自分で言ってたじゃないですか」
「奴がただ聖杯を持ってるだけならな」
それだけ言うと、朔はそっと視線を落とした。蒼には何かを考えているように見えたが、今となっては彼の考えが分かる気がしない。殺すことになる――その言葉が重すぎて、どういう感情で言っているのか想像もつかなかった。
「何故殺すことになるかは、教えてくれないんですよね?」
この答えは分かる、とどこか自嘲気味に蒼は尋ねる。「ああ」と、予想していた通りの返事に、思わずぎゅっと目を瞑った。
寂しいのか、悲しいのか。不思議と怖いとは思わなかったが、それでも仄暗い感情が蒼の中に渦巻いて、それはやがて沸々と湧き上がる何かへと変わっていった。
「朔さんは自分勝手です」
「……ああ」
「『ただ聖杯を持ってるだけなら』奪うだけで殺さないってことは、そうじゃなかったら元々殺すつもりだったってことじゃないですか」
「そうだな」
「なんでそれを今言うんですか? どうせ最後まで言うつもりはなかったんですよね。言わないまま程々に巻き込んで、適当なところで『はい、さようなら』ってするつもりだったんだろうってことくらい、私にだって分かります。きっと私がどうなろうが知ったこっちゃなかったんですよね? でも今それを言うってことは……そうやって手を引けって言うってことは、私を危険に巻き込まないようにしてくれてるってことじゃないですか……!」
一気にそう捲し立てると、蒼は自分の目に涙が浮かぶのを感じた。
泣いてたまるかと必死にその涙を堰き止める。そこで漸く、蒼は自分が悔しさを感じていることに気が付いた。
ある程度身の安全を考えてもらえる程度には朔に受け入れられているはずなのに、蒼自身がそれを知った途端それ以上踏み入ることを拒絶された。それが人を殺すという言葉に対する恐怖よりも、ずっと強く蒼の心を締め付けた。
「レオニードの名前が出てくるとは思わなかったんだよ」
朔は蒼の顔を一瞥すると、すぐに目を逸らして苦々しくそう呟いた。
「今まで生き残りのことを調べてて、一度も奴の名前が出たことはなかった。振礼島に関わってる人間なら大抵奴のことは知ってるんだ。それなのに名前を聞かないってことは、とっくに奴も死んでるかロシアに帰ったもんだと思ったんだよ――」
珍しく口数多くそう言った朔は、どこか言い訳をしているようにも見える。その言葉は蒼に向けたものというよりは、独り言のような響きを含んでいた。
「――でも奴がいるなら、しかも俺と同じようにあの日を生き残ったなら、あの時リョウに聖杯を盗ませたのはもしかしたら……」
そこまで言って、朔は文字通り頭を抱え込んだ。
――レオニードがリョウに聖杯を盗ませたのなら、見返りの金なんてきっともらえない。それどころか用が済んだら殺されてた可能性だって……。
自分の大切な人間が利用されたことに怒りを覚えたが、結局彼はもう死んでしまったのだとやり場のない想いが朔の中に込み上げた。
強い怒り、悲しみ、無念――朔が何を考えているかなど知るはずもない蒼だったが、それでも彼から滲み出るそれらの感情は彼女の肌を突き刺すようだった。自身の感情も高ぶっているからか、それがまるで自分のことのように感じられて、きつく唇を噛み締める。
「――朔さん、教えて下さい。レオニードとの間に何があったんですか?」
「何もねぇよ……」
――何もないわけがない。
それは彼の雰囲気が物語っていたが、それ以上にその腕には彼の動揺を如実に示すものが現れていた。
「気付いてないんですか? その腕……」
蒼に指摘されて初めて、朔は自分の身に起きている異変に気付いたらしい。驚いたように彼が見つめる先には、左腕を覆うようにしてあの痛々しい火傷が現れていた。
――あの時と同じだ。
蒼はミハイルの小屋での朔を思い出し、この火傷は彼が冷静さを失うと勝手に現れてしまうのだと気が付いた。しかも痛みがあると言っていたのに今まで気付かなかったということは、それほど朔の動揺が激しいということなのだろう。
このままではいけない。せめて少しでもその動揺を吐き出さなければ、この火傷はきっと朔を飲み込んでしまう。そう不安を感じた蒼の脳裏には、ミハイルの最期の姿が浮かんでいた。
「こうしましょう。レオニードと朔さんの間に何があったかだけ教えて下さい。そうしたら、無闇に首を突っ込まないとお約束します」
「……本当に何もねぇんだよ」
「なら何を考えているんです? 彼との関連性を疑っていることがあるんじゃないんですか?」
「それは……」
――確信がないから、この人は余計に苦しんでいるのかもしれない。
確信がないから、その感情の向け先が分からないのだろう。朔の中ではまだすべてが憶測で、しかしその憶測は確実に彼の中の暗い感情を引きずり出そうとしている。
仕舞い込んだはずの感情が表に出ようとしているのに、そのぶつけ先が分からなければただただ彼を苦しめるだけなのだ。
「大丈夫ですよ」
黙り込んだ朔に、一文字一文字噛みしめるようにそう伝える。
「大丈夫です。どんなに荒唐無稽な話でも、朔さんの話なら信じます」
暫しの間訪れた沈黙に、やがて観念したような深く息を吐く音が響いた。
「何もないと、思ってた……」、ぽつりぽつりと朔が静かに言葉を紡ぎ始める。それはやがて早口になり、震えを含んで蒼の耳に彼の感情を届けた。
「何もないと思ってたんだ。でも考えてみたらレオニードの奴しかいないんだよ、ヴォルコフに喧嘩売るような馬鹿は。あの馬鹿息子が親父の聖杯を盗んだんなら、あの夜のことはきっと奴が引き起こしたんだ。だとしたらリョウは無駄に俺を裏切ったし、皆奴に殺されたようなもんなんだよ……!」
そこまで言って、朔は糸が切れたかのように項垂れた。
黙り込んでしまった朔を見ながら、蒼はその言葉の意味を必死に考える。彼の発言の内容の殆どは情報が少なすぎて意味を理解することはできなかったが、朔にとってレオニードが彼の大切な人達の仇なのかもしれないということは汲み取れた。
あの夜というのはおそらく振礼島が滅んだ日のことだろう。そうするとレオニードという人物がそれを引き起こしたとも考えられたが、とてもじゃないが人一人にどうにかできるものとは思えなかった。
だが蒼は、自分が振礼島で起こったことを何も知らないと自覚していたし、朔という自分の常識から逸脱した存在がいるということも知っている。
だからだろうか、彼女の中には不思議と朔の発言を疑う気持ちは一欠片も生まれなかった。ただ、朔が自分のことを話してくれた――その事に対する安堵が蒼の胸の中には広がっていた。
暫くすると、朔はよろよろと立ち上がりキッチンの方へと歩いていった。コンロを背にだらりと座り込むと、ひどく緩慢な動きで煙草に火を付ける。深く吐き出される煙と共に、彼の左腕は元の状態へと戻っていった。
それを見て蒼も立ち上がると、少しだけ間を空けて、そっと朔の隣にしゃがみこんだ。
「……なんだよ」
「お隣が空いてたので」
「……煙草臭くなっても知らねぇぞ」
「なら明日の洗濯は朔さんにお願いしましょうかね」
「……あ?」
「働かざるもの食うべからずですよ。宿を提供しているので少しは貢献してください」
「……何のために同じ家にしたと思ってんだよ」
「あ、もしかしてそういうことですか? 自分で家事したくないっていうダメ息子みたいな発想だったりするんですか?」
ダメ息子という発言が気に触ったのか、ジロリと朔が蒼を睨みつける。
蒼はその目が少し赤いことに気が付いたが、見なかったふりをして「カツ丼代ですよ」とにんまりと笑った。
「あれ奢りじゃねぇのかよ」
「そんなこと一言も言ってません」
「くっそ……」
そう言って煙を一つ吐き出した朔の口元は、緩く弧を描いていた。
予想だにしていなかったその言葉は、蒼の心の中にずしんと重くのしかかった。
――本気だ……。
漠然とそう感じて、慌てて否定する言葉を探す。
「何を……私を怖がらせようと思ったって無駄ですよ? 探してるのは聖杯を奪うためって、さっき自分で言ってたじゃないですか」
「奴がただ聖杯を持ってるだけならな」
それだけ言うと、朔はそっと視線を落とした。蒼には何かを考えているように見えたが、今となっては彼の考えが分かる気がしない。殺すことになる――その言葉が重すぎて、どういう感情で言っているのか想像もつかなかった。
「何故殺すことになるかは、教えてくれないんですよね?」
この答えは分かる、とどこか自嘲気味に蒼は尋ねる。「ああ」と、予想していた通りの返事に、思わずぎゅっと目を瞑った。
寂しいのか、悲しいのか。不思議と怖いとは思わなかったが、それでも仄暗い感情が蒼の中に渦巻いて、それはやがて沸々と湧き上がる何かへと変わっていった。
「朔さんは自分勝手です」
「……ああ」
「『ただ聖杯を持ってるだけなら』奪うだけで殺さないってことは、そうじゃなかったら元々殺すつもりだったってことじゃないですか」
「そうだな」
「なんでそれを今言うんですか? どうせ最後まで言うつもりはなかったんですよね。言わないまま程々に巻き込んで、適当なところで『はい、さようなら』ってするつもりだったんだろうってことくらい、私にだって分かります。きっと私がどうなろうが知ったこっちゃなかったんですよね? でも今それを言うってことは……そうやって手を引けって言うってことは、私を危険に巻き込まないようにしてくれてるってことじゃないですか……!」
一気にそう捲し立てると、蒼は自分の目に涙が浮かぶのを感じた。
泣いてたまるかと必死にその涙を堰き止める。そこで漸く、蒼は自分が悔しさを感じていることに気が付いた。
ある程度身の安全を考えてもらえる程度には朔に受け入れられているはずなのに、蒼自身がそれを知った途端それ以上踏み入ることを拒絶された。それが人を殺すという言葉に対する恐怖よりも、ずっと強く蒼の心を締め付けた。
「レオニードの名前が出てくるとは思わなかったんだよ」
朔は蒼の顔を一瞥すると、すぐに目を逸らして苦々しくそう呟いた。
「今まで生き残りのことを調べてて、一度も奴の名前が出たことはなかった。振礼島に関わってる人間なら大抵奴のことは知ってるんだ。それなのに名前を聞かないってことは、とっくに奴も死んでるかロシアに帰ったもんだと思ったんだよ――」
珍しく口数多くそう言った朔は、どこか言い訳をしているようにも見える。その言葉は蒼に向けたものというよりは、独り言のような響きを含んでいた。
「――でも奴がいるなら、しかも俺と同じようにあの日を生き残ったなら、あの時リョウに聖杯を盗ませたのはもしかしたら……」
そこまで言って、朔は文字通り頭を抱え込んだ。
――レオニードがリョウに聖杯を盗ませたのなら、見返りの金なんてきっともらえない。それどころか用が済んだら殺されてた可能性だって……。
自分の大切な人間が利用されたことに怒りを覚えたが、結局彼はもう死んでしまったのだとやり場のない想いが朔の中に込み上げた。
強い怒り、悲しみ、無念――朔が何を考えているかなど知るはずもない蒼だったが、それでも彼から滲み出るそれらの感情は彼女の肌を突き刺すようだった。自身の感情も高ぶっているからか、それがまるで自分のことのように感じられて、きつく唇を噛み締める。
「――朔さん、教えて下さい。レオニードとの間に何があったんですか?」
「何もねぇよ……」
――何もないわけがない。
それは彼の雰囲気が物語っていたが、それ以上にその腕には彼の動揺を如実に示すものが現れていた。
「気付いてないんですか? その腕……」
蒼に指摘されて初めて、朔は自分の身に起きている異変に気付いたらしい。驚いたように彼が見つめる先には、左腕を覆うようにしてあの痛々しい火傷が現れていた。
――あの時と同じだ。
蒼はミハイルの小屋での朔を思い出し、この火傷は彼が冷静さを失うと勝手に現れてしまうのだと気が付いた。しかも痛みがあると言っていたのに今まで気付かなかったということは、それほど朔の動揺が激しいということなのだろう。
このままではいけない。せめて少しでもその動揺を吐き出さなければ、この火傷はきっと朔を飲み込んでしまう。そう不安を感じた蒼の脳裏には、ミハイルの最期の姿が浮かんでいた。
「こうしましょう。レオニードと朔さんの間に何があったかだけ教えて下さい。そうしたら、無闇に首を突っ込まないとお約束します」
「……本当に何もねぇんだよ」
「なら何を考えているんです? 彼との関連性を疑っていることがあるんじゃないんですか?」
「それは……」
――確信がないから、この人は余計に苦しんでいるのかもしれない。
確信がないから、その感情の向け先が分からないのだろう。朔の中ではまだすべてが憶測で、しかしその憶測は確実に彼の中の暗い感情を引きずり出そうとしている。
仕舞い込んだはずの感情が表に出ようとしているのに、そのぶつけ先が分からなければただただ彼を苦しめるだけなのだ。
「大丈夫ですよ」
黙り込んだ朔に、一文字一文字噛みしめるようにそう伝える。
「大丈夫です。どんなに荒唐無稽な話でも、朔さんの話なら信じます」
暫しの間訪れた沈黙に、やがて観念したような深く息を吐く音が響いた。
「何もないと、思ってた……」、ぽつりぽつりと朔が静かに言葉を紡ぎ始める。それはやがて早口になり、震えを含んで蒼の耳に彼の感情を届けた。
「何もないと思ってたんだ。でも考えてみたらレオニードの奴しかいないんだよ、ヴォルコフに喧嘩売るような馬鹿は。あの馬鹿息子が親父の聖杯を盗んだんなら、あの夜のことはきっと奴が引き起こしたんだ。だとしたらリョウは無駄に俺を裏切ったし、皆奴に殺されたようなもんなんだよ……!」
そこまで言って、朔は糸が切れたかのように項垂れた。
黙り込んでしまった朔を見ながら、蒼はその言葉の意味を必死に考える。彼の発言の内容の殆どは情報が少なすぎて意味を理解することはできなかったが、朔にとってレオニードが彼の大切な人達の仇なのかもしれないということは汲み取れた。
あの夜というのはおそらく振礼島が滅んだ日のことだろう。そうするとレオニードという人物がそれを引き起こしたとも考えられたが、とてもじゃないが人一人にどうにかできるものとは思えなかった。
だが蒼は、自分が振礼島で起こったことを何も知らないと自覚していたし、朔という自分の常識から逸脱した存在がいるということも知っている。
だからだろうか、彼女の中には不思議と朔の発言を疑う気持ちは一欠片も生まれなかった。ただ、朔が自分のことを話してくれた――その事に対する安堵が蒼の胸の中には広がっていた。
暫くすると、朔はよろよろと立ち上がりキッチンの方へと歩いていった。コンロを背にだらりと座り込むと、ひどく緩慢な動きで煙草に火を付ける。深く吐き出される煙と共に、彼の左腕は元の状態へと戻っていった。
それを見て蒼も立ち上がると、少しだけ間を空けて、そっと朔の隣にしゃがみこんだ。
「……なんだよ」
「お隣が空いてたので」
「……煙草臭くなっても知らねぇぞ」
「なら明日の洗濯は朔さんにお願いしましょうかね」
「……あ?」
「働かざるもの食うべからずですよ。宿を提供しているので少しは貢献してください」
「……何のために同じ家にしたと思ってんだよ」
「あ、もしかしてそういうことですか? 自分で家事したくないっていうダメ息子みたいな発想だったりするんですか?」
ダメ息子という発言が気に触ったのか、ジロリと朔が蒼を睨みつける。
蒼はその目が少し赤いことに気が付いたが、見なかったふりをして「カツ丼代ですよ」とにんまりと笑った。
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