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量は質を凌駕する
ベテランエンジニア
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派遣というビジネスをご存じだろうか?
お客様が不足していると感じているスキルを持つ人間を提供し、対価に金銭を頂く。
この働き方を個人でやればフリーランスと呼ばれ、法人に所属して行えば派遣と呼ばれる。
今でこそ派遣法だの何だのが整理されてきているが、長年この業界に身を置いている身としては、安心感は出てきた一方でやり難さも感じている。
「工藤君。ここの設計が間違っている。もっと全体を見ながら図面を作りなさい」
私、神城剣はエンジニアとして大手メーカーに派遣され、設計の業務に従事していた。設計者としてのキャリアはもう40年を超えた。派遣という言葉がない時代からお客様先に出向いて商品の設計をしていたものだ。世にあふれる当たり前の製品の一部分ではあるが自分も一員となって創り上げてきたことは最高の誇りであり、後輩たちには『またか。』と耳にタコができるほど宴席の場では話した自慢話でもある。
今ではお客様先の若手に設計の指導をするレベルまで信頼感を頂いている。それもそのはず、今の開発部長が新入社員の時にもこの会社でお世話になっていた。数年間一緒に仕事をしていた記憶が懐かしい。当時の出鱈目な設計図を描いていたペーペーが今では部長とは……と自然に笑みを浮かべる。
「……派遣のおっさんの癖に」
やりづらいと思い始めたのはいつ頃からだろう。指導をする立場にキャリアを作れたのは良いことだ。しかし、世の中からの評価は冷たい。『派遣』という言葉に対しての冷たい勘違いが当然の認識として蔓延している。
技術力で判断をされず『派遣』という肩書で判断される。特に今の若手からの評価は顕著である。今までにも「直接雇用にならないか」と声を掛けられたことは山ほどある。しかし、自分の性格から同じ職場で数十年も同じ業務をすることが苦痛に感じてしまうだろうと、丁寧にお断りさせていただいていた。
後悔は全くしていない。お陰で無数にある業界の知識を学ぶことが出来たし、代え難い経験をさせていただけた。時代に合わせた製品を複数業界で開発できたのは自らの誇りであった。
「永年のご勤務お疲れさまでした。今年の三月末で社内規則に則り定年退職となります。勤続40年越えですので退職金も期待できますね!盛大に送り出しますよ!ちなみにどんなお店が良いですか?」
今年65歳を節目に現職を離れ、第二の人生がスタートすることになっているが、目星は立たない。この世界ではそこそこのレベルまで技術を磨いた自負はある。そしてこれからも必要とされれば技術を奮いたいとも考えているのだが……
営業担当の若手が定年退職以外の道を選択させなかった。そして会社としても私を引き留める素振りを見せなかったのである。大学の先輩に誘われ創業メンバーとして今の会社を大きくしてきたし、上場もできるほどの信頼性も得てきた。紆余曲折もあり、苦労しながらも楽しく充実した社会人人生だったのだろう。
役員に就いていた創業メンバーたちは訳あって私より三年早く会社を去ったが彼らの功績を正しく評価する者は今の会社には少ない。きっと彼らからすれば私の評価もさほど高くない「飲み屋の奥で延々と話しているおっさんの一人」なんだろう。一から育てた我が子のような会社の躾が上手くいかなかった。家庭を顧みずに働き、先に捨てられた私は公私とも同じような結末を送るしかないのか。人とは学習しない生き物である。
晴れて第二の人生で虚無を送ることになった私だが、75歳を超えたある日。人生を変える出来事が起きた。いや、正確には本当の意味で人生が変わったのである。
≪SYSTEM MESSAGE.. TRIP FOR___error__e;e/..≫
お客様が不足していると感じているスキルを持つ人間を提供し、対価に金銭を頂く。
この働き方を個人でやればフリーランスと呼ばれ、法人に所属して行えば派遣と呼ばれる。
今でこそ派遣法だの何だのが整理されてきているが、長年この業界に身を置いている身としては、安心感は出てきた一方でやり難さも感じている。
「工藤君。ここの設計が間違っている。もっと全体を見ながら図面を作りなさい」
私、神城剣はエンジニアとして大手メーカーに派遣され、設計の業務に従事していた。設計者としてのキャリアはもう40年を超えた。派遣という言葉がない時代からお客様先に出向いて商品の設計をしていたものだ。世にあふれる当たり前の製品の一部分ではあるが自分も一員となって創り上げてきたことは最高の誇りであり、後輩たちには『またか。』と耳にタコができるほど宴席の場では話した自慢話でもある。
今ではお客様先の若手に設計の指導をするレベルまで信頼感を頂いている。それもそのはず、今の開発部長が新入社員の時にもこの会社でお世話になっていた。数年間一緒に仕事をしていた記憶が懐かしい。当時の出鱈目な設計図を描いていたペーペーが今では部長とは……と自然に笑みを浮かべる。
「……派遣のおっさんの癖に」
やりづらいと思い始めたのはいつ頃からだろう。指導をする立場にキャリアを作れたのは良いことだ。しかし、世の中からの評価は冷たい。『派遣』という言葉に対しての冷たい勘違いが当然の認識として蔓延している。
技術力で判断をされず『派遣』という肩書で判断される。特に今の若手からの評価は顕著である。今までにも「直接雇用にならないか」と声を掛けられたことは山ほどある。しかし、自分の性格から同じ職場で数十年も同じ業務をすることが苦痛に感じてしまうだろうと、丁寧にお断りさせていただいていた。
後悔は全くしていない。お陰で無数にある業界の知識を学ぶことが出来たし、代え難い経験をさせていただけた。時代に合わせた製品を複数業界で開発できたのは自らの誇りであった。
「永年のご勤務お疲れさまでした。今年の三月末で社内規則に則り定年退職となります。勤続40年越えですので退職金も期待できますね!盛大に送り出しますよ!ちなみにどんなお店が良いですか?」
今年65歳を節目に現職を離れ、第二の人生がスタートすることになっているが、目星は立たない。この世界ではそこそこのレベルまで技術を磨いた自負はある。そしてこれからも必要とされれば技術を奮いたいとも考えているのだが……
営業担当の若手が定年退職以外の道を選択させなかった。そして会社としても私を引き留める素振りを見せなかったのである。大学の先輩に誘われ創業メンバーとして今の会社を大きくしてきたし、上場もできるほどの信頼性も得てきた。紆余曲折もあり、苦労しながらも楽しく充実した社会人人生だったのだろう。
役員に就いていた創業メンバーたちは訳あって私より三年早く会社を去ったが彼らの功績を正しく評価する者は今の会社には少ない。きっと彼らからすれば私の評価もさほど高くない「飲み屋の奥で延々と話しているおっさんの一人」なんだろう。一から育てた我が子のような会社の躾が上手くいかなかった。家庭を顧みずに働き、先に捨てられた私は公私とも同じような結末を送るしかないのか。人とは学習しない生き物である。
晴れて第二の人生で虚無を送ることになった私だが、75歳を超えたある日。人生を変える出来事が起きた。いや、正確には本当の意味で人生が変わったのである。
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