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第1章 英雄と竜帝
第27話 勇者、受領する。
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「クエレのやつから事情は聞いたんじゃな。」
「ああ。一通り、な。」
クエレ・ブレとは竜帝の腹心だった竜族で、つい先ほどまでロアに一部始終を説明した男性である。
「それと、さっきのはゴメン。さっきは悪のりしすぎた。」
「……そんなことは、もう良い。」
サヨは眉をピクリとは動かしたものの、平静な表情をしていた。どうやら機嫌はなおしてくれたようだ。
「それより、あの技についてなんだけどよ……、」
「先にそなたに渡しておかねばならぬものがある。着いて参れ。」
彼女はそう言い、集落の方へと歩いていく。どこへいくのかはわからないので、とりあえず言われた通り着いていくしかない。彼女は集落内をどんどん進んでいく。集落内は人間の基準からすると、ずいぶんと古めかしい住居ばかりだった。ほとんどが山の岩壁をくりぬいて作られている。長命な彼ら同様、長い年月を経ているのだろう。
ロアからすれば、古代遺跡の中を歩いているかのように思えていた。彼らは本来の姿をとっていないためか、老人や子供の姿がない。クエレが一万歳と言っていたにも関わらず、人間の3、40代程度にしか見えなかったことを考えると、彼らにとっての老いの概念は人間とは大きくかけ離れているのかもしれない。
「着いたぞ。ここに入れ。」
サヨがひときわ大きくくりぬかれた住居入り口の前で立ち止まった。ロアに入るよう指示をしてから、すぐに中に入っていく。立派な門構えからすると、族長の家、いや竜帝の城といったところだろうか。中に入っていくと、簡素な作りながらも、品のある内装になっていることがわかった。人間の王宮は絢爛豪奢な作りになっていることが多いが、それとは対称的だった。やはり、人間の価値観とは大きく違うことが窺い知れた。
「確かここにあったはずじゃが……、」
大きな玉座のある部屋に案内された。すぐさま、サヨは玉座の後ろの方で何やら、がさごそと物を探し始めた。なにか渡すとは言っていたが、ロアにはそれが何なのかさっぱり見当がつかなかった。
「おお、あったぞ!これじゃ!」
彼女は一本の剣をとりだした。見た目は竜殺しの魔剣のように特別な感じではなく、むしろ、簡素な作りの剣に見えた。だが何か不思議と馴染み深さを感じさせた。
「この剣は?」
「この剣はカレル、先代の勇者から預かっていたものじゃ。次の代の勇者が現れた時にこれを渡せ、とな。」
ロアは剣を受け取った。初めて見た時と同様、何か、ずいぶんと懐かしい様な、もともと自分の持ち物であったかのような感じがする。
「これは先代勇者愛用の剣なのか?そうだよな。」
「そなたがそう感じるのであれば、そうなのであろうな。そなたというよりは額冠がといった方が正しいかもしれん。」
額冠に秘められた記憶がそう感じているのかもしれない。いまだ、勇者の技が一つつかえるぐらいしか、額冠の力を引き出せていないロアは勇者としての実感が湧かないままでいた。この剣を手にしたとき、初めてその実感がしたような気がした。
「愛用の剣がここにあるってことは、あのとき自分の剣を使っていなかったってことか?」
「そういうことじゃ。カレルがヴァルのやつと戦う前、父上にこの剣を預けていったのじゃ。もし、自分が敗れたときにそなたへ託すためにな。いや、はじめから勝てないことを予感しておったのかもしれぬな。」
「もし、先代がこの剣で戦っていたら勝てたんじゃないのか?」
「いや、それはない。その剣はそこまでの力はない。その剣は何の変哲もない剣じゃ。」
だったら何故、この剣を預けていったのだろうか?ロアには理解できなかった。
「とはいえ、そなたら勇者にとっては特別な剣じゃ。特にカレルとそなたとの記憶の架け橋とするために残したのじゃろう。」
架け橋?ロアにはまださっぱりわからなかった。
「額冠の記憶を少しでも引き出せるように、鍵として残したということじゃ。愛用の品を渡してその記憶を共有するためじゃろう。実際どうじゃ?それを初めて見ても、昔から知っている様な感じがしたじゃろう?」
確かにサヨの言う通り、懐かしさを感じた。何か忘れていた自分の記憶を急におもいだしたかのようだった。
「額冠の力を少しでも引き出す手助けにはなるであろう。とはいえ、すぐには無理ではあろうがな。」
彼女は手についた埃を払いながら言う。
「これはあくまで気休め程度にしかならんじゃろう。じゃが、本命はそなた自身が身に付けてきた技じゃ。」
「でも、どうやってやるんだ?あの技は一度見たことがあるだけで、やったことはないんだぜ。」
一度見ただけの技を再現できるのだろうか?普通の技ならともかく、あの技は流派梁山泊が誇る究極の奥義なのである。一朝一夕に出来る技ではない。師父でさえまだ極めていないとさえ言っていた。
「妾に任せるのじゃ。そなたの記憶を引き出してみせようぞ。その記憶を頼りに技の再現を目指すのじゃ。」
ロアは記憶をまた覗かれるのかと思うとぞっとしたが、ヴァルに勝つためには手段を選んではいられない。ヴァルの魔の手はすぐそこまで迫ってきているのだ。
「ああ。一通り、な。」
クエレ・ブレとは竜帝の腹心だった竜族で、つい先ほどまでロアに一部始終を説明した男性である。
「それと、さっきのはゴメン。さっきは悪のりしすぎた。」
「……そんなことは、もう良い。」
サヨは眉をピクリとは動かしたものの、平静な表情をしていた。どうやら機嫌はなおしてくれたようだ。
「それより、あの技についてなんだけどよ……、」
「先にそなたに渡しておかねばならぬものがある。着いて参れ。」
彼女はそう言い、集落の方へと歩いていく。どこへいくのかはわからないので、とりあえず言われた通り着いていくしかない。彼女は集落内をどんどん進んでいく。集落内は人間の基準からすると、ずいぶんと古めかしい住居ばかりだった。ほとんどが山の岩壁をくりぬいて作られている。長命な彼ら同様、長い年月を経ているのだろう。
ロアからすれば、古代遺跡の中を歩いているかのように思えていた。彼らは本来の姿をとっていないためか、老人や子供の姿がない。クエレが一万歳と言っていたにも関わらず、人間の3、40代程度にしか見えなかったことを考えると、彼らにとっての老いの概念は人間とは大きくかけ離れているのかもしれない。
「着いたぞ。ここに入れ。」
サヨがひときわ大きくくりぬかれた住居入り口の前で立ち止まった。ロアに入るよう指示をしてから、すぐに中に入っていく。立派な門構えからすると、族長の家、いや竜帝の城といったところだろうか。中に入っていくと、簡素な作りながらも、品のある内装になっていることがわかった。人間の王宮は絢爛豪奢な作りになっていることが多いが、それとは対称的だった。やはり、人間の価値観とは大きく違うことが窺い知れた。
「確かここにあったはずじゃが……、」
大きな玉座のある部屋に案内された。すぐさま、サヨは玉座の後ろの方で何やら、がさごそと物を探し始めた。なにか渡すとは言っていたが、ロアにはそれが何なのかさっぱり見当がつかなかった。
「おお、あったぞ!これじゃ!」
彼女は一本の剣をとりだした。見た目は竜殺しの魔剣のように特別な感じではなく、むしろ、簡素な作りの剣に見えた。だが何か不思議と馴染み深さを感じさせた。
「この剣は?」
「この剣はカレル、先代の勇者から預かっていたものじゃ。次の代の勇者が現れた時にこれを渡せ、とな。」
ロアは剣を受け取った。初めて見た時と同様、何か、ずいぶんと懐かしい様な、もともと自分の持ち物であったかのような感じがする。
「これは先代勇者愛用の剣なのか?そうだよな。」
「そなたがそう感じるのであれば、そうなのであろうな。そなたというよりは額冠がといった方が正しいかもしれん。」
額冠に秘められた記憶がそう感じているのかもしれない。いまだ、勇者の技が一つつかえるぐらいしか、額冠の力を引き出せていないロアは勇者としての実感が湧かないままでいた。この剣を手にしたとき、初めてその実感がしたような気がした。
「愛用の剣がここにあるってことは、あのとき自分の剣を使っていなかったってことか?」
「そういうことじゃ。カレルがヴァルのやつと戦う前、父上にこの剣を預けていったのじゃ。もし、自分が敗れたときにそなたへ託すためにな。いや、はじめから勝てないことを予感しておったのかもしれぬな。」
「もし、先代がこの剣で戦っていたら勝てたんじゃないのか?」
「いや、それはない。その剣はそこまでの力はない。その剣は何の変哲もない剣じゃ。」
だったら何故、この剣を預けていったのだろうか?ロアには理解できなかった。
「とはいえ、そなたら勇者にとっては特別な剣じゃ。特にカレルとそなたとの記憶の架け橋とするために残したのじゃろう。」
架け橋?ロアにはまださっぱりわからなかった。
「額冠の記憶を少しでも引き出せるように、鍵として残したということじゃ。愛用の品を渡してその記憶を共有するためじゃろう。実際どうじゃ?それを初めて見ても、昔から知っている様な感じがしたじゃろう?」
確かにサヨの言う通り、懐かしさを感じた。何か忘れていた自分の記憶を急におもいだしたかのようだった。
「額冠の力を少しでも引き出す手助けにはなるであろう。とはいえ、すぐには無理ではあろうがな。」
彼女は手についた埃を払いながら言う。
「これはあくまで気休め程度にしかならんじゃろう。じゃが、本命はそなた自身が身に付けてきた技じゃ。」
「でも、どうやってやるんだ?あの技は一度見たことがあるだけで、やったことはないんだぜ。」
一度見ただけの技を再現できるのだろうか?普通の技ならともかく、あの技は流派梁山泊が誇る究極の奥義なのである。一朝一夕に出来る技ではない。師父でさえまだ極めていないとさえ言っていた。
「妾に任せるのじゃ。そなたの記憶を引き出してみせようぞ。その記憶を頼りに技の再現を目指すのじゃ。」
ロアは記憶をまた覗かれるのかと思うとぞっとしたが、ヴァルに勝つためには手段を選んではいられない。ヴァルの魔の手はすぐそこまで迫ってきているのだ。
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