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第1章 英雄と竜帝
第34話 勇者、参上!
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「くらえっ!!」
またしても、ジュリアの渾身の一撃が躱されてしまう。二人がかりでヴァル・ムングを攻め続ける。だが、いくら攻撃を加えようと、難なく躱されるか、受け止められ無効化されてしまう。埒があかない。以前とは違い、二人の体勢は万全で挑んでいる。しかし、現実には以前にも増して、差が開いてしまっているように思える。
「どうした?もう終わりかね?」
何度も攻撃を凌がれ、正直、手詰まりになりつつあった。そして、思わず攻撃の手を止めてしまった。
「ひょっとして、貴様らは今、こう思っているのではないかね?以前にも増して攻撃が通じないと。」
「むう!」
見透かされている。ファルが現実に考えていることをそのまま言われてしまった。確かに以前、洞穴内で戦ったときは洞穴崩落の恐れから本気を出していないと言ってはいた。現に少し本気を出してロアを攻撃した際は、崩落を起こしてしまった。そして、今は崩落の危険は皆無と言ってもよかった。それにもかかわらず、回避や防御のみで未だにあちらからはほとんど攻撃をしてきていない。まだ本気で戦っていないとみるべきだろう。
「もしも、本当に私が以前より強くなっているのだとすれば、どうするね?」
「なにを馬鹿なことを!」
ジュリアがヴァルの戯れ言に対して反論する。
「私は竜帝の力を手に入れてから、たった数日しか経過していないのだよ。それがどういう意味かわかるかね?」
「何が言いたいんだ?」
「魔術師の貴様ならば、わからぬ訳ではあるまい?」
ヴァルの言うように、本当はわかりかけてはいた。その可能性に目を背けている。
「日を追うごとに、竜帝の血は私の体に馴染みつつある。それに加えて私は竜帝の力を使いこなしつつある。」
「そんな!」
ジュリアは青ざめていた。そのような事実を突きつけられたら、動揺せざるを得ない。
「どんなものであろうと、短期間で使いこなしてみせるのが、私の流儀でね。貴様らには勝ち目はないのだよ。」
ヴァルは威風堂々としている。もうすでに勝敗は決してしまっていると言わんばかりに。
「これは最終勧告だ。おとなしく負けを認め、我が傘下に入れ。ここで殺してしまうには惜しい。」
以前のように、部下になれと言う。余程、二人の実力を認めているのだろう。だが、あくまで上からの目線で人を見ているのには変わりない。そのうな人間を信用できない。
「前と答えは変わらん。断る。」
「右に同じよ!」
提案を撥ね除けた。二人の答えは同じだった。
「残念だな。有能な者ほど意地を張りおる。あの先代勇者も同じだった。ならば、たっぷりと後悔させてやろう。」
ヴァルはさらに鋭い殺気を放ち始めた。先ほどまでよりも遙かに強い。片手を前に出し、手のひらを大きく開いた。
「あの技だ!」
ファルは瞬時に思い出した。ドラゴン・ハンド。竜の闘気で対象を握りつぶす、あの技だ。一カ所に集まっていては二人同時にやられてしまう。ファルはすぐさまヴァルの正面から離れ、左から回り込むようにヴァルへと向かった。ジュリアも同じ判断をしたのか、ファルとは反対方向から同様に攻めようとしている。しかし、ヴァルはそのまま正面を向いたままでいた。絶好の機会だ。左右同時に一撃を加えれば、対処は難しいはずだ。
「甘いな。そんな攻撃は通用せんよ。」
あいかわらず、ヴァルはそのままの体勢だった。二人とも自分の攻撃の間合いに入り、攻撃を仕掛けた。確実に相手を捉えた。二人ともそう思った。
「フン!」
正面を向けていた右手をファルの方に向けた。一瞬である。
「ドラゴン・ハンド!!」
ファルは見えない壁に衝突した。いや、正確には見えない竜の手に阻まれたと言った方が正確だろう。そのまま、ファルは吹き飛ばされ、住居の壁に叩きつけられる。ファルはそのショックで意識が遠のきそうになりつつも、ヴァルの方を見た。ヴァルは顔をファルの方に向けながら、ジュリアの攻撃を左手で受け止めていた。両者とも簡単にあしらわれていた。
「握りつぶすだけがドラゴン・ハンドではない。まさに竜の手の如く扱えるのだ。うるさいハエをたたき落とすこともできる。」
こちらを虫のようににしか思っていないのか。圧倒的な力だった。
「そして、破砕の戦姫といえど、私の前ではただの小娘にすぎん。竜の前では、蚊ほどにも感じんな。」
あいかわらず、ジュリアの方には顔を向けずにいた。そのまま、つかんだ戦槌ごと彼女を無造作に投げ飛ばした。
「きゃあああ!!」
ファル同様、住居の壁に叩きつけられ、悲鳴などめったに上げない勝ち気なジュリアが悲鳴を上げていた。ヴァルはジュリアの方を向き、背中に吊り下げていた魔剣をゆっくりと引き抜いた。
「せめてもの手向けだ。この剣でひと思いに殺してやろう。光栄に思うがいい。」
いけない。このままではジュリアがやられてしまう。助けなければならない。しかし、そんな思いとは裏腹に体が思い通りに動いてはくれなかった。思った以上にダメージが大きかった。ジュリアも同様にぐったりしたままで、ピクリとも動いていなかった。
「終わりだ!」
ヴァルは今まさに、剣を振り下ろそうとしていた。もう、間に合わない。だが、そのとき、体を断ち切る音ではなく、乾いた金属音が響き渡った。
「……た、ただいま、勇者参上!!」
「何!き、貴様は!」
そこには思いがけない人物がいた。勇者、ロアがそこにいた。ヴァルの攻撃を剣で受け止めていた。
「ようやく出てきたか。やはり生きていたか。しぶとい奴め。」
「生憎、俺は悪運が強くってな。死にたくても死ねないんだよ。」
あいかわらずの減らず口を叩いている。間違いない。あの男である。
「……生きていたのね。ホントに心配したんだからね。」
ジュリアは意識を取り戻したようだ。表向きはロアの生存を諦めていた彼女は本心ではやはり心配していたようである。
「ありがとよ!このまま後は任しとけ。」
ロアは受け止めた剣を押し返そうとしていた。
「一0八計の一つ、有隙の征!」
急にロアの姿が消えた。元々、剣で押していたヴァルは勢いを殺しきれずに、前方に体勢を崩すことになった。そして、ロアはいつの間にかヴァルの背後へと回っていた。
「小癪な真似を!」
瞬時にヴァルもロアの方へと向きを変える。そのとき、ヴァルの鎧の左側の肩当てが横半分に割れ地面に落ちた。
「何!貴様、何をした?」
「仕返しだ。あんたに肩を斬られたからな!」
ロアは自分が以前斬られた右肩をポンポン叩いて見せた。
「あ!でも逆だったな。左肩を攻撃しちまった。いててて!」
まだ、傷が治っていないのだろうか。ロアは痛がり、肩をさすっていた。そのとき、ヴァルの左肩から血が滲み始めた。
「ただの剣の一撃で私に傷を付けられるはずがない。どんな小細工を使った?」
「秘密!」
ロアはヴァルを小馬鹿にしたような、笑みを浮かべていた。完全に煽っている。
「いい度胸だ。傷も治っていないくせに、私に戦いを挑むとはな。よかろう、多少のハンデはくれてやる。傷を治せ。」
言いながらジュリアの方を指さす。治療魔法を使ってもらえということなのだろうか。
「なにその余裕!」
ロアは腹を立てているようだった。その間に、ジュリアがロアの元へ駆け寄る。
「おい、おまえは大丈夫なのか?」
ロアがジュリアの体を気遣っている。先ほどのダメージが残っているのではないだろうか。
「大丈夫よ。動けるぐらいまでは、さっきまでに自分で治してたのよ。」
ロアが時間稼ぎしている間に治療を自らに施していたようだ。ロアに対して即座に治療魔法を使い始めた。
またしても、ジュリアの渾身の一撃が躱されてしまう。二人がかりでヴァル・ムングを攻め続ける。だが、いくら攻撃を加えようと、難なく躱されるか、受け止められ無効化されてしまう。埒があかない。以前とは違い、二人の体勢は万全で挑んでいる。しかし、現実には以前にも増して、差が開いてしまっているように思える。
「どうした?もう終わりかね?」
何度も攻撃を凌がれ、正直、手詰まりになりつつあった。そして、思わず攻撃の手を止めてしまった。
「ひょっとして、貴様らは今、こう思っているのではないかね?以前にも増して攻撃が通じないと。」
「むう!」
見透かされている。ファルが現実に考えていることをそのまま言われてしまった。確かに以前、洞穴内で戦ったときは洞穴崩落の恐れから本気を出していないと言ってはいた。現に少し本気を出してロアを攻撃した際は、崩落を起こしてしまった。そして、今は崩落の危険は皆無と言ってもよかった。それにもかかわらず、回避や防御のみで未だにあちらからはほとんど攻撃をしてきていない。まだ本気で戦っていないとみるべきだろう。
「もしも、本当に私が以前より強くなっているのだとすれば、どうするね?」
「なにを馬鹿なことを!」
ジュリアがヴァルの戯れ言に対して反論する。
「私は竜帝の力を手に入れてから、たった数日しか経過していないのだよ。それがどういう意味かわかるかね?」
「何が言いたいんだ?」
「魔術師の貴様ならば、わからぬ訳ではあるまい?」
ヴァルの言うように、本当はわかりかけてはいた。その可能性に目を背けている。
「日を追うごとに、竜帝の血は私の体に馴染みつつある。それに加えて私は竜帝の力を使いこなしつつある。」
「そんな!」
ジュリアは青ざめていた。そのような事実を突きつけられたら、動揺せざるを得ない。
「どんなものであろうと、短期間で使いこなしてみせるのが、私の流儀でね。貴様らには勝ち目はないのだよ。」
ヴァルは威風堂々としている。もうすでに勝敗は決してしまっていると言わんばかりに。
「これは最終勧告だ。おとなしく負けを認め、我が傘下に入れ。ここで殺してしまうには惜しい。」
以前のように、部下になれと言う。余程、二人の実力を認めているのだろう。だが、あくまで上からの目線で人を見ているのには変わりない。そのうな人間を信用できない。
「前と答えは変わらん。断る。」
「右に同じよ!」
提案を撥ね除けた。二人の答えは同じだった。
「残念だな。有能な者ほど意地を張りおる。あの先代勇者も同じだった。ならば、たっぷりと後悔させてやろう。」
ヴァルはさらに鋭い殺気を放ち始めた。先ほどまでよりも遙かに強い。片手を前に出し、手のひらを大きく開いた。
「あの技だ!」
ファルは瞬時に思い出した。ドラゴン・ハンド。竜の闘気で対象を握りつぶす、あの技だ。一カ所に集まっていては二人同時にやられてしまう。ファルはすぐさまヴァルの正面から離れ、左から回り込むようにヴァルへと向かった。ジュリアも同じ判断をしたのか、ファルとは反対方向から同様に攻めようとしている。しかし、ヴァルはそのまま正面を向いたままでいた。絶好の機会だ。左右同時に一撃を加えれば、対処は難しいはずだ。
「甘いな。そんな攻撃は通用せんよ。」
あいかわらず、ヴァルはそのままの体勢だった。二人とも自分の攻撃の間合いに入り、攻撃を仕掛けた。確実に相手を捉えた。二人ともそう思った。
「フン!」
正面を向けていた右手をファルの方に向けた。一瞬である。
「ドラゴン・ハンド!!」
ファルは見えない壁に衝突した。いや、正確には見えない竜の手に阻まれたと言った方が正確だろう。そのまま、ファルは吹き飛ばされ、住居の壁に叩きつけられる。ファルはそのショックで意識が遠のきそうになりつつも、ヴァルの方を見た。ヴァルは顔をファルの方に向けながら、ジュリアの攻撃を左手で受け止めていた。両者とも簡単にあしらわれていた。
「握りつぶすだけがドラゴン・ハンドではない。まさに竜の手の如く扱えるのだ。うるさいハエをたたき落とすこともできる。」
こちらを虫のようににしか思っていないのか。圧倒的な力だった。
「そして、破砕の戦姫といえど、私の前ではただの小娘にすぎん。竜の前では、蚊ほどにも感じんな。」
あいかわらず、ジュリアの方には顔を向けずにいた。そのまま、つかんだ戦槌ごと彼女を無造作に投げ飛ばした。
「きゃあああ!!」
ファル同様、住居の壁に叩きつけられ、悲鳴などめったに上げない勝ち気なジュリアが悲鳴を上げていた。ヴァルはジュリアの方を向き、背中に吊り下げていた魔剣をゆっくりと引き抜いた。
「せめてもの手向けだ。この剣でひと思いに殺してやろう。光栄に思うがいい。」
いけない。このままではジュリアがやられてしまう。助けなければならない。しかし、そんな思いとは裏腹に体が思い通りに動いてはくれなかった。思った以上にダメージが大きかった。ジュリアも同様にぐったりしたままで、ピクリとも動いていなかった。
「終わりだ!」
ヴァルは今まさに、剣を振り下ろそうとしていた。もう、間に合わない。だが、そのとき、体を断ち切る音ではなく、乾いた金属音が響き渡った。
「……た、ただいま、勇者参上!!」
「何!き、貴様は!」
そこには思いがけない人物がいた。勇者、ロアがそこにいた。ヴァルの攻撃を剣で受け止めていた。
「ようやく出てきたか。やはり生きていたか。しぶとい奴め。」
「生憎、俺は悪運が強くってな。死にたくても死ねないんだよ。」
あいかわらずの減らず口を叩いている。間違いない。あの男である。
「……生きていたのね。ホントに心配したんだからね。」
ジュリアは意識を取り戻したようだ。表向きはロアの生存を諦めていた彼女は本心ではやはり心配していたようである。
「ありがとよ!このまま後は任しとけ。」
ロアは受け止めた剣を押し返そうとしていた。
「一0八計の一つ、有隙の征!」
急にロアの姿が消えた。元々、剣で押していたヴァルは勢いを殺しきれずに、前方に体勢を崩すことになった。そして、ロアはいつの間にかヴァルの背後へと回っていた。
「小癪な真似を!」
瞬時にヴァルもロアの方へと向きを変える。そのとき、ヴァルの鎧の左側の肩当てが横半分に割れ地面に落ちた。
「何!貴様、何をした?」
「仕返しだ。あんたに肩を斬られたからな!」
ロアは自分が以前斬られた右肩をポンポン叩いて見せた。
「あ!でも逆だったな。左肩を攻撃しちまった。いててて!」
まだ、傷が治っていないのだろうか。ロアは痛がり、肩をさすっていた。そのとき、ヴァルの左肩から血が滲み始めた。
「ただの剣の一撃で私に傷を付けられるはずがない。どんな小細工を使った?」
「秘密!」
ロアはヴァルを小馬鹿にしたような、笑みを浮かべていた。完全に煽っている。
「いい度胸だ。傷も治っていないくせに、私に戦いを挑むとはな。よかろう、多少のハンデはくれてやる。傷を治せ。」
言いながらジュリアの方を指さす。治療魔法を使ってもらえということなのだろうか。
「なにその余裕!」
ロアは腹を立てているようだった。その間に、ジュリアがロアの元へ駆け寄る。
「おい、おまえは大丈夫なのか?」
ロアがジュリアの体を気遣っている。先ほどのダメージが残っているのではないだろうか。
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