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第2章 黒騎士と魔王

第83話 さらば友よ!また逢う日まで!!

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「いやあ、ギルド長にあんな過去があったなんてなあ!」


 祝賀会ムードに包まれた冒険者ギルドを後にしながら余韻に浸っていた。主に、ギルド長の武勇伝の、だけど。


「もう、やめましょうよ。ギルド長がかわいそうです。」

「そう言うエルちゃんこそ、大笑いしてたじゃないか。」

「うう。見てたんですね。だって……もう、何年も笑った事なんてなかったから……。」


 そうか。エルちゃんの境遇からすると、そういうことになるのか。でも、笑えるような環境になってよかったね!


「それにみんな笑ってるだけじゃありませんでしたよ?自分もギルド長ほどではないけど、似たような経験があるって。ギルド長に親近感が湧いた、ってみんな励ましてました。」


 みんな、多かれ少なかれ、失敗ぐらいはしてるんだな。自分だけではなかったんだ。


「おっ!あれがクルセイダーズの支部所か!」


 次はクルセイダーズの支部所に用事があった。用事と言っても、今回、世話になった人たちに別れの挨拶をしにきたんだ。エドワードがメンバーを待機させているとのことだ。


「よう、相変わらず元気そうじゃねえか?」


 建物の前にはウネグがいた。向こうも相変わらず、ふてぶてしさ全開だった。


「おめえと別れる前に最後の挨拶をしておきたかったンだよ。あ、それと宣戦布告な!」

「宣戦布告!?」


 いきなり喧嘩売られたあ!よりにもよって、一番相手にしたくない人に!


「俺ァ、最初おめえのことをとんでもねえヘタレだと思ってたんだがよ。結局、蓋を開けてみれば、どうだ?そんなタマじゃなかったンだってことがわかったワケよ!」


 うう、やっぱ、なんでもかんでもハッキリ言いたいことを言う人だな。なんか目を付けられているらしいことはよくわかった。


「なんたって、魔王やエドの旦那とタイマン張りやがった!しかも、魔王を自分の女にしちまった上に、旦那に手加減して勝ちやがった!そんなヤツぁ、今まで俺は見たことがねえ!」


 随分、熱っぽく語るな。そんだけ、俺を評価してくれてるっってことか。……でも、ちょっと待って。エルちゃんはまだ俺の彼女ではない。そう見えるなら、嬉しいけど。


「そこでだ!俺とタイマンしようぜ!」


 なっ!?タイマン?無理無理!絶対無理!今の勢いで来られたら絶対負ける。


「……冗談だよ!本気にしてんじゃねえよ!どうせヤッても、俺は勝てねえ。今はな!」


 よかった。ホントにどうしようかと思った。


「今度会ったときは勝ってみせるぜ!そんときまで誰にも負けんじゃねえぞ!俺が勝つ価値がなくなっちまうからな。」


 結局、いつかは対決するハメになるのか。どうにかして会わなくてもいい方法を探さないと。


「それと最後に俺の舎弟を紹介しておこうと思ってよ。……おっ、ちょうど、ヤツがきたみてえだ。」


 誰だ?後ろを振り向くと、見覚えのあるヤツがいた。馬に乗った力士がそこにいた。ヴォルフ!ていうか今はスモウ・ライダーじゃねえか!


「顔はもう知ってるだろうがよ、コイツは俺と故郷が同じなンだよ。名前はチョンだ。お前らにはヴォルフって名乗ってるだろうけど、意味は同じでオオカミだ。」


 見た目と名前のイメージが違う。どちらかというと熊みたいなんだが。


「先輩、ウス!」


 馬から下りてきた力士はウネグの前まで行き、かしこまった様子で挨拶した。


「聞いたぜ?おめえ、コイツを一撃で倒したそうじゃねえか?コイツぁ、俺の舎弟の中じゃ一番タフなんだぜ?それを倒しちまうンだからよ。対したもンだぜ!」


「ウス!勇者ドンは強かったでゴワス!」

「おめえも強くなりたかったら、コイツを見習いな!おめえも東国で修行してきたみてえだけど、まだまだ強えヤツは山ほどいるからな。」

「ウス!!」


 様子を見てるとホントに仲のいい先輩、後輩のようだ。


「おっと、挨拶はこれぐらいにしとくか。後ろもつっかえてるしよ。俺らは旦那とは別れて、コイツの初陣がてら、一稼ぎしてくるつもりだ!」


 と言って、馬に飛び乗った。彼の馬はすごい派手な装飾の付いた馬具が取り付けられている。これなら遠目に見ても、彼だとわかりそうだ。


「じゃあな、アバヨ!!」

「うす!!先輩!」

「そなたまで、力士と同じ口調になってどうするのじゃ!」


 つい、つられてしまった。彼はそのまま、颯爽と走り去っていった。スモウ・ライダーと共に……。


「さて、次はジェイの番ニャ!」


 次は猫の人がやってきた。この人とはあまりからみがなかったが、見ていてすごい強いのがわかった。ウネグと同じぐらい敵に回したくない人だ。


「今回の任務は色々あったけど、楽しかったニャ。また、機会があればご一緒したいニャ。」


 と言って握手してきた。肉球の弾力がすごい!


「君みたいなヒーローは初めて見たニャ!子供達にあわせてあげたら、すごい喜びそうニャ!」

「え?子供がいるんすか?」


 この人のということは、間違いなく同じ猫人なんだろうけど、子猫ってことになるよな。想像しただけで、すごいかわいいだろうな、とは思う。


「この中では唯一の既婚者なのニャ。これから家に帰って休養を取るつもりニャ。」


 これから一稼ぎするウネグとは対照的だな。まあ、それは傭兵でも人それぞれってことか。


「では。さらばなのニャ!」

「バイバイにゃ!」

「だから、そなたまで同じになってどうする!」


 猫の人は去って行った。


「彼らも貴公のことを気に入ってしまったようだな。」

「ていうか、一名、喧嘩を売ってきたんだが?」

「ハハハ、彼なりの讃辞だと思っておきたまえ。彼らほどの実力者に認められたのだ。これほど、最大級の栄誉は他にない。」


 自分と同じ新人達からも慕われ、ベテランからも認められた。素直に嬉しい。とはいえ、その期待に負けないように、勇者としてがんばっていかなきゃいけない。


「エドワードはこれからどうするんだ?」

「私とクロエはこれから新たなる任務に付く予定だ。生憎、基本的に私には休みなどないのだよ。」

「大変だな。でもあんまり無理すんなよ。」

「ああ。次の目的地は遠い。その旅路で休息を取りながら向かうつもりだ。」


 忙しいなりにも、休み方をしっかりか考えているんだな。これがプロフェッショナルというやつか。


「それから、私の呼び方について。貴公と私の仲だ。これからはエドで構わんよ。」

「わかった。じゃあ、俺の方もロアって呼んでくれ。」

「そうだな。そうさせてもらおう。」

「最後に。君に一つ伝言がある。」

「へ?誰から?」


 俺からしたら、故郷を離れた以上、知り合いなんて数えるほどしかいない。誰からだ?まさか……、


「風刃の魔術師からだ。手が空いたら、ノウザン・ウェルまで来い、とのことだ。」


 ファルからだと?アイツからお声がかかるとは。というかそれ以前に、ノウザン。ウェルってどこ?俺、土地勘ないからわかんない。


「ノウザン・ウェルじゃと!あんな場所に呼び出すとは、ダンジョン攻略でもするつもりか?」

「ダンジョン!?」


 実在したんだ!本とかの資料でしか見たことがないシロモノだ。なんでも地下迷宮に入って、魔王なりドラゴンなりを倒して、お宝をゲットする話はよく見かけた。


「ダンジョンを甘く見ない方がよいぞ。特にお前のような駆け出しの冒険者はな。ベテランじゃろうと一歩間違えれば、即、死じゃ!」


 なんかまた、やっかい事に巻き込まれそうな予感がしてきた。今度は強敵を倒すとかじゃない。罠とかその他恐ろしい何かを相手にしなきゃならないのか。


「詳細は到着してから話す、とのことだ。あとは、覚悟を決めてから来い、とも言っていた。君なら問題ないだろう。」


 いやいやいや!問題あるって!未知の脅威が待ち受けてるのに。俺の奥義じゃ、アクシデントに対抗できないぞ。


「魔術師殿が無策で待っているとは思えん。その道のプロを雇っている可能性はある。胸を借りて、手取り足取り教えてもらうと良い。」


 その道のプロ、ダンジョンのプロがいるんだ?水先案内人みたいなもんか。


「何はともあれ、互いに行き先は違うが、健闘を祈ろうではないか!」

「ああ!そうだな!そっちも死ぬなよ!」

「君が石と一体化しないことを祈ろう!」

「なにそれ?どういう意味?」

「地下迷宮に挑むものにとってのお約束のようなもんじゃ。意味合い的には一寸先の闇に気を付けろ、という格言に似ておる。」

「……?」

「ハハハ!行けば、イヤというほど実感することになるさ!」


 意味を知らない俺にとってはなんのことやら、ちんぷんかんぷんだ。業界用語みたいなの言われてもわからん!でも、怖いな。「石と一体化」って何の意味があるというのか。


「では、また会おう!勇者ロア!」

「じゃあな!エド!」


 エドは背を向けて、去って行った。と見ていたところで誰かの視線を感じた。クロエだ。


「あなたに言っておきたいことがあります。」


 あいかわらず、冷ややかな目で俺を見ている。こわい。ヴァルとか圧倒的に強い奴らとはまた別の怖さがある。


「あなたのことはある程度、見直しました。イグレス様に勝ったことは認めてあげます。ですが次はイグレス様が絶対に勝ちます。それだけはお忘れなきよう。」

「んん、ああ、ハイ。」

「それと……、」


 クロエの目線の先にはエルちゃんがいた。なんか俺に対しての目つきとは明らかに変化させている。珍しく、優しそうな目で見ている。


「確か、エルという名前でしたね?あの娘を大切にしてあげなさい。心から支えてあげるのですよ。」


 そうか。エルちゃんに対して何も言ってなかったからわからなかったけど、この人なりに気遣ってくれてたのか。


「……返事は?」

「ハ、ハイ!もちろんですとも!」

「ワタクシにはそれが気がかりなのです。あなたにそれが全うできるかどうかが。……かつて、エドが私にそうしてくれたように……。」


 最後のほうは聞き取りづらかったな。もしかして、この人自身のことを言っているのか?


「何でもありません。最後の方は聞かなかったことにしておいて下さい。では、お達者で。」


 彼女は駆け足でエドの後を追いかけていった。


「フフ、なかなか味なことをしおるわ、あの女。そなたらはあの二人を見習うがよい。良い手本じゃ。」


 手本ねえ?見習えとかいわれても、なあ?エルちゃんはともかく、俺はエドとキャラが違いすぎる。俺は、あんなイケメンとは違う。俺みたいなブサメンじゃアイツみたいにはなれそうにない。でも……俺なりに強くなってみせるさ!


「じゃあ、次の目的地も決まったことだし、支度しに行こうぜ。」

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