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第3章 迷宮道中膝栗毛!!

第134話 賢者の講義。~鼠の王と首狩り兎~

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「そなたの体力について色々考察しておったのじゃが……、」


 ノウザンウェルへの旅の途中、お昼ご飯を食べるために休憩をしていた。勇者様が準備をしてくれている間、サヨさんが話しかけてきた。


「体力?何の話でしょう?」


 私には何の話か全く見当が付かなかった。


「そなたは2、3年の間、例の変態魔術師に監禁されておった。そして、その前、故郷におった時も禄に体力作りなどしておらんかったじゃろう?」


「ええ、そうですけど……。」


 私は幼い頃から魔術師の勉強ばかりしていたので、本当に体力作りなどの運動はしたことはなかった。運動が苦手だったことも影響してると思う。


「そうにも関わらず、難なく妾たちの旅に付いてきておる。そこで妾はある仮説を立ててみた。体力を闇の力で補っているのではないか、とな。」


 闇の力で……?闇の力が使えることはサヨさんから教えてもらった。でも、それが体力と何の関係があるんだろう?


「デーモン共は普通の生物とはかけ離れた姿をしておるじゃろう?あれの理由として一説には、闇の力は自らを変質させる力があると言われておる。そなたも闇の力を無意識に体力へと変換しておるのかもしれん。」


 変質の力がある?……確かにあの時、私の体には信じられないほどの身体能力が身についていたと思うし、醜い悪魔の姿にもなった。


「奴等はその力で自らが思う力を体現しておるのじゃ。じゃが現実には大げさな異形の姿をしている者ほどデーモンとしては弱い。デーモン・コアを持つ魔王ほど意外に、か弱い姿をしておる。」


 魔王戦役時代は十二人の魔王が世界を席巻していた話をいくつか書物で読んだことがある。最強の魔王はか弱いというか、かわいらしい外見をしていたというのを見た気がする。


「最強最悪の魔王として知られている、別名“悪夢の支配者”、ラット・キングあたりが有名じゃろう。他にも“血煙の殺戮者”、ラゴース・ザ・ヴォーパルという奴もおったのう。この辺はそなたも知っておろう?」


 知ってる。それぞれ、ネズミとウサギの姿をしていたそう。どちらも身の毛がよだつ様な恐ろしい逸話が残ってる。それを語るサヨさんの表情は苦虫を噛み潰した様になっている。もしかしたら、実際に彼らと対峙したことがあるのかもしれない。


「少し話が逸れてしまったが、強力なデーモンほど身体的な特徴を変えずに力を発揮しておるのじゃ。常に力を放出せずに、必要なときだけ瞬時に膨大な力を発揮しておる。それは肉体的なちからだけでなく、頭脳の面でも応用が利くようじゃ。特にラット・キングはそれに長けておった。」


 頭脳面にも影響……全く想像が付かない。そんな使い方をすることが出来るなんて。


「まあ、最初からそんな芸当をやれとは言わん。少しずつで良い。特にそなたは肉体的には優れているとは言えぬから、その力を利用すれば良い。」

「そんなことしたら、また、デーモンになってしまいませんか?」

「そなたにはデーモンの核や種子がない。奴等の邪悪な精神はその核や種子に宿っている。むしろ、奴等の本体はそれじゃ。じゃから、そなたは違う。精神ではなく力だけがその体に残っておるのじゃ。デーモン等にはならぬよ。」

「わかりました。いつか、使いこなせるように頑張ってみます!」

「その意気じゃ。精進するが良い。」


 決心したそのとき、勇者様が作り終えた昼食を持って私たちの所へやってきた。


「二人とも何話してたの?なんか面白そうな話っぽかったけど?」

「えーと、ちょっとした授業みたいな感じです。」

「そなたには決して理解できん話じゃ。聞けば、そなたの頭がパンクしてしまうわい。」

「なんだとお!俺の頭脳をなめんなよ!」

「せいぜい、金槌のかわりぐらいにしかならんじゃろう、そなたの頭は?」

「むきーい!じゃあ、メシはあげないからな!」

「ええい!さっさと渡さぬか!このたわけ!」


 その日はいつもよりも騒がしいお昼ご飯になりました。
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