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第4章 勇者の剣と剣の巫女

第186話 剣の里“ソード・ラン”

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「ようやく着いたぜ。剣の里に!」


 俺たちは剣の里“ソード・ラン”にやってきた。町の入り口には「ようこそ!剣の里へ!」という横断幕が掲げられていた。


「しっかし、派手でヤンスなあ。目がチカチカするでヤンス。」


 町のあちこちには客引き用の看板などが過剰に装飾されていた。そんなのがいっぱいある。


「当然じゃ。ここら一帯では有名な観光地じゃからの。ノウザン・ウェルとはいい勝負じゃ。こっちは一般人の割合が多いがのう。」


 そうだった。あっちはダンジョンの町という関係上、冒険者が多かった。こっちは見るからに冒険者の割合が少なく見えた。店も冒険者向けの物より土産物屋が目立つ。


「いろいろ目移りするでヤンス。まずは“ソード焼き”が食べたいでヤンス!」


 そこらの土産物屋にはソード焼きの幟が必ずと言っていいほど、立てられていた。知らなくても、一目見れば名物料理なんだろうなということはわかる。


「ええ?そんなのより、俺は早く剣を作ってもらいたいんだけど。」

「なんじゃ?珍しいのう。いつもなら食べ物にがっつくのはそなたの方じゃろう?何を焦っておるのじゃ?」


 そんなことを言われるのは心外だった。ここに来たのは剣を作ってもらうためだ。早く手に入れたい、というより手にしなければならない。なにかそういう思いだけが先行している。


「焦っても仕方がないぞ。行ったところですぐに作れるわけではないからのう。ここは焦らずに一休みしてからでも良かろう?」

「そういうのじゃないんだよ。そんなことしに来たわけじゃないだろ。それこそ後回しでもいいじゃないか。」


 そんなことは後からでも出来る。剣が出来てから楽しめばいい。今やることじゃない。


「もういい!俺だけで行ってくる。それなら文句ないだろ!」


 つい語気を荒げてしまった。俺の中のイライラが爆発してしまったんだ。


「落ち着け。ここは焦らずに休んでからにせい。」

「知らねえよ!お前らだけで、勝手に楽しんでりゃいいだろ!」


 俺は勢いに任せて駆け出した。みんなを置いて振り返らずに駆け出した。


「勇者様!」


 後ろからエルちゃんの悲痛な呼び声が聞こえた。でも振り返らない。今はただ、剣を手に入れるために急ぎたかった。
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