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第5章 完成!究極の超次元殺法!!

第317話 五覇奥義、一指空遷

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「技を覚えたての貴様と私では差がありすぎる。私がその気になれば、一瞬で片が付く。だがそれでは面白くない。私は行動に制限を付けるとしよう。」

「……!?」


 舐められている……。でも、それは仕方ない。本当に彼と私の経験の差は絶望的に大きい。それなら、私は油断の隙を狙って勝ちを目指すしかない。


「私は“これ”しか使わないと宣言しよう。」


 彼が“これ”と目の前に差し出したのは……小指だった。一瞬、ふざけている様にも感じた。でも、この人は冗談を言うような人じゃない。その小指からでさえも、背筋の凍るような殺気が放たれているから。


「驚くべき宣言です! 小指だけで彼はどう戦うのでしょうか! 聞いたことがありません。どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!」


 司会の方は気付いていないみたいだ。私自身も稽古を付けてもらうようになって、次第にわかるようになってきただけだから、当然なのかもしれない。


「行きます! ……霧中光燐!!」


 流れるような動きで、攻撃を仕掛ける。縦に、横に、斜めに、時には下からすくい上げるように大鎌をなぎ払った。正確に相手を狙っているが、狙っている部分から逸れてしまう。大鎌が意志を持って相手を避けているみたい。幻術で幻惑されているかの様な錯覚を覚えた。


「どうして!? 何故当たらないの!?」


 当たらなくても必死に攻撃を続けた。それでも当たらない。でも、少し違和感に気付いた。目の端で相手の腕が一瞬だけ動きを見せていた。一瞬なので、何をしているのかまではわからない。何らかの動作で攻撃を逸らされているのは間違いなかった。


「ようやく気付きつつあるようだな。あと一歩だ。」


 彼は瞬時に少し間合いを空け、片手で手招きするような仕草をした。気付きつつあることでさえ感付かれている。私は完全に彼の手の平で踊らされているんだ。悲しい。ここまで無力だなんて。


「鳳翼旋!」


 無力な自分への怒りを力に変えて、全力の一撃を振り下ろした。当たらなくても、彼の動きを見定めるため、敢えて振りの大きい攻撃にした。彼の体に到達する直前で動きがあった。一瞬だけ大鎌に向けて小指を差し出していた。そのわずかな動きで、攻撃の軌道を変えられていた。逸れた攻撃はそのまま地面に打ち落とされてしまった。


「気付いたか? これは五覇奥義、一指空遷。相手の攻撃軌道を最小限の動きで逸らし、翻弄する技だ。格下相手ににしか使えぬ技だが、弟子の教育には役に立つ。思い上がった者の心を折ってやるには丁度良いのだ。」

「小指だけでそんなことを! 私を侮辱するなんてあんまりです!」


 悔しかった。こちらは人の命を守るために戦っているのに、遊び半分でそんなことをされるのは心外だった。自分だけじゃなくて、彼のことまで侮辱されているみたいだ。


「小指だけと言ったな? 武闘家にとって小指は重要な部位だ。鍛えれば技の精度を上げ、力を込める際の要点ともなる。たかが小指と侮る者は未熟者の証拠。貴様に実践を以て、教育してやっているのだ。決して受けだけでないぞ。攻めにおいてもこのような使い方も出来る!」


 私の腹部に向かって、高速の突きが繰り出された。速すぎて反応できなかった。為す術もないまま、私は吹き飛ばされた。


「この通り、小指のみの貫手だ。もちろん手加減はしている、安心するがよい。ひとたび本気で繰り出しておれば、貴様の内蔵は破裂し、絶命していたであろう。」

「ゲホッ、ゲホッ!!」


 一瞬、行きが出来なかった。攻撃を受けた腹部に鋭い激痛が走ったのだ。素手で、しかも小指のみで打たれたとは思えないほどの威力だった。この一撃で悟った。彼には決して勝つことが出来ないことを……。


「力の差は歴然だ。今の一撃で良くわかったであろう? もう止めておけ。貴様には勝ち目などない。観念して、おとなしく私の弟子となれ。このまま続けても、見世物にもならぬわ。」


 それでも、引き下がるわけにはいかない。ここであきらめたら……彼とは永遠にあえなくなってしまう。


「私は諦めません! このまま、どんな手段を使ってでも、あなたを止めてみせます!」


 私は禁断の力を使うことにした。この戦いでは、悟られない程度の最小限の使用に制限していたけれど、勝てない程の相手なら、形振りかまっていられない。持てる力の全てを使い尽くしてでも勝たなきゃいけないんだ!
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