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第2部 第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第14話 翁曰く。~いくうばっしょう~
しおりを挟む「も、もんこれ?」
「アニキ、いつの間に人間やめてたんでヤンスか?」
知らねーよ! なんか漠然とした感覚はあったが、何が出来るかまではわからなかった。あの技の完成が意味していたこととは一体?
「奥義の完成に必要なものは、人を制し、地を裂き、天を破る、事にある。人を知り、大地に身を委ね、天に耳を傾ける、とも言い換える事も出来る。」
天、地、人。三皇の精神。戦技一0八計を極めるために必要とされる精神だ。俺はこの前の戦いでこの境地に到達してしまった。奥義だけを極めただけだと思っていた。
「奥義が使えるようになったから出来るようになったのではない。次元の境目を認識でき、異次元に介入する。それがあの奥義完成の絶対条件じゃ。即ち“異界渡り”が出来るようになっておるからこそ、全てを斬ることが出来るのじゃ。」
「でじもん?」
“異界渡り”? まるで聞いたことのない単語が飛び出てきた。そんな魔法のようなことが本当に出来るんだろうか?
「お主もこの空間の性質を薄々感じ取っておるんじゃないか? この空間は人間の記憶を元に作られておるようじゃぞ。」
「でじもん、あどべ?」
人の記憶? そんなものから作れんの? だとしたら、ここは誰の記憶だというのか? こんな物騒なものが出てくるなんて、よっぽど嫌な記憶を持っているのだろう。
「お主の伴侶じゃ。あの娘の記憶を元に作られておる。おそらくは二重に人質を取る狙いがあるのじゃろう。この空間を破壊すれば、あの娘の精神は崩壊する。」
俺がうっすらと感じた直感は当たっていたのか! 俺はこの空間を破壊する能力は持っているが、それが及ぼす影響が恐ろしい事態を引き起こすと、心がストップをかけた。下手をすれば、エルを傷付けてしまっていたかもしれないのだ。危なかった。
「それだけではないぞ。記憶を持つ本人に責め苦を与える目的もあるはずじゃ。負の記憶を増幅させて作ったのであろう。全く残酷なことをするモンじゃなぁ。妖術師っちゅうモンはえげつないことをしおるわ。」
そうだよな。あのオバサンはなかなかエグいことをする。どんだけエルを邪険にしたら済むんだろうか? 何があの人をそうさせているのか?
「とはいえ、あのおなごはいじめがいがありそうじゃ! 儂ぁ、昔から高飛車な女を手込めにするのが趣味なんじゃ。年頃も申し分ないわい! あのおなごの仕置きは儂が担当してやろう。」
「もんげん、もんげにうす!?」
「何かオジイチャンがとんでもない性癖をさらけ出したでヤンスぅ!?」
どういう趣味なんだよ、ジイさん……。まあいいや。殺したりはしないだろうから、多少は目をつむるか。そのかわり、エルとか、オバサンの実の娘が黙ってはいないだろうけど。何されても俺は助けないからな、ジイさん?
「ほれ、決まったところで早速実践じゃ。……天破奥義、異空跋渉《いくうばっしょう》!」
黄ジイは目の前の何もないところに対して、手刀を振り下ろした。すると、なにか空間に切れ目が入った。
「もんげろん、もんぐえあっ!?」
「空気が斬れたでヤンス!? どういう仕組みでヤンス?」
「ほれ、お主もやってみい!」
いや、やれとか言われても……。やり方がよくわからないんだけど? いきなり悟りを開けとか、空を飛べとか言われるようなもんである。超人絶技を見様見真似でやれとでも言うんですかねえ?
「ほれ!」
「も、ももや!」
出来んて! そんなこと簡単に出来たら、魔法なんていらへんかったんや!
「もしゃーっ!?」
もう適当に剣を振った。“いくうばっしょう”だったっけ? さっきのジジイみたいに。すると、スッと何かが斬れる感触がした。……で、出来た?
「ほれ見ぃ! できとるじゃないか。これが“異空跋渉《いくうばっしょう》”じゃ。憶えておくが良い。」
「な、なんか、あっしにも出来そうな気がしてきたでヤンス! ハイク・バショウっ!!」
タニシはエイ、ヤー、トォー、とかいいながらフレイルを振り回している。いや、さすがにお前は出来んだろ……。それ以前にハイク・バショウって何? 人の名前かな?
「となりの空間に行くぞい。ほれ、犬っころ! お主も行くんじゃ!」
「犬っころ!?」
ロクでもない呼び方だな。サヨちゃんといい、どうして年寄りはタニシをそんな扱いにするのだろうか? いや、ミヤコのワンちゃん呼びもたいがいか?
「異界渡り能力がないモンは先に行くんじゃ。儂ら能力者が通り過ぎたら閉じてしまうからの。」
空間に出来た裂け目にジジイはタニシを押し込む。見るからに幅が足りてないので入るように見えない。でも、構わずにジジイは無理矢理押し込もうとしている。
「ら、らめぇ! 無理に押し込んだら、爆発するヤンスぅ! ム、ムギゥぅぅぅ!!!」
何か、裂け目に吸い込まれるかのように、体が引き延ばされつつあった。タニシ・のびのびーの再来である。オフトンに出来そうなくらい伸びている。
「ムギゥゥゥゥゥン!!!」
とうとう吸い込まれた。行ってらっしゃい。次は俺らの番だ。さあ、入ろう。
「もぎゃん!」
吸い込まれるような感覚が全身を覆う。妙な感覚だ。そりゃそうか。おかしなコトしてるもんな。
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