358 / 401
第2部 第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第16話 被験者一号
しおりを挟む「どうするヤンス? 加勢するヤンス?」
「もげら?」
「ふむ。むずかしいところじゃのう。この空間、他の者の思惑で記憶が拡張されておる。危険を覚悟して、尻尾を掴むのも手かもしれんな。」
とにかく、あの人形女が怪しいのはわかった。一号とかいう少年を助けるとどうなるのかはわからないが、目の前で死なれたりするのは困る。助けつつ、女を倒すんだ!
「もっ、がーっ!」
俺は思いきって斬りかかっていった。すると手前側にいた少年が反応して動きを見せる。しまった! 彼からも敵対されるかもしれないのに、それを失念していた。
「クソッ、他に手下を連れてきていたのか!」
俺を敵と認識して斬りかかってきた。早い、俺に意識を向けてからの切り返しが瞬く間に行われた。先に攻撃を仕掛けた俺が防御体勢にはいらないといけなくなった。
「もがみっ!」
(ガギィィィィン!!)
重い! 細い体からは想像できない重さの一撃だった。相手の剣は両手持ちの大型剣だ。少年の体格には少々大きすぎると感じたが。無理なく、俺への攻撃を放ってきたあたり、かなり強いはず。俺に剣を受けられるのを見て、そのまま体重をかけて押し込んできた。俺の体勢を崩そうとしている!
「どいつもこいつも、いつも俺たちの邪魔をする! 俺たちをどれだけ虐げれば済むんだ!」
尋常じゃない力が込められている。ただの殺気だけじゃない。怒りとか憎しみが剣には込められている。その感情のエネルギーが、少年に力を与えているのかもしれない。
「も、む、ああ!」
「チッ、何言ってんだよ! 言いたいことがあるなら言え!」
言葉で説得しようにも、今はそれを封じられている。非常にもどかしい。これじゃ対処のしようがない。実力行使以外の手まで封じられてしまうとは……。
「この野郎、ロクにしゃべれないくせに出しゃばるんじゃねえぞ!」
少年は怒りにまかせて俺を蹴飛ばして間合いを空ける。だが、次の攻撃の準備に入っている。多分このまま間髪入れずに、大技を仕掛けてくるはず!
「死ねぇ!!」
動きはまだ拙いが、アイツの戦法に似ていると思った。……ヴァル・ムングに! ヤツならここでシャイニング・アバランチャーを仕掛けてくる。力で押して、力で粉砕する。アイツの戦法そのものだった。
「もうめみもみん!」
空隙の陣、と言いたいが現状ではこれが精一杯だった。相手の大技に合わせて反撃をする。戦いを長引かせたくはなかったので、峰打ちで無力化する!
(ガツンッ!!)
紙一重で技を躱し、瞬時に脇へと移動し一撃する。少年は反応できずに峰打ちをまともに食らった。
「……ぐっ、あっ!?」
彼は倒れた。まだ荒削りな部分はあったが、確かにヴァルの戦法を習得していた。体格に恵まれたヴァルに比べて体格の劣る少年が、無理なく再現していたところに天賦の才を感じた。自分とは正反対の……天才だと素直に思った。そんな彼が何故、被検体にされているのだろう? まともな社会で成長していれば、クルセイダーズに入団していたかもしれない。こんな少年が悪の人体実験に晒されていることが気の毒に思えた。
「お主……悪鬼の類いか? 僵屍鬼《きょうしき》(※キョンシー、東洋におけるゾンビのこと)にしてはやけに生々しいのう。」
「ホホホ、あなたの方こそ人の身を捨てた存在なのではないですか? 私にわからないとでも?」
黄ジイと人形女が対峙している。俺と少年が戦っている間に何度か打ち合ったのだろう。周囲や床にその痕跡が残っている。それを見れば激しい戦いだったのが一目でわかった。さっきの物陰からタニシが覗いているが、ガタガタ震えながら口を開けたままにしている。それだけでも十分に二人の恐ろしさが垣間見えた。
「お主、この件の手を引いている黒幕じゃな?正体を見せい! さもなくば、儂が力尽くであぶり出すぞい!」
「……人の子風情が良く吠えること。私の計画は誰にも邪魔はさせない。私の作り出した魂の牢獄の中でせいぜい足掻きなさい。我ら魔族の恐ろしさ、とくと味わうがいい……。」
意味深な事を言い残して、人形女はスウッと消えていった。しかも最後だけ、急に声質が変わった。別人の様な声だ。しかも纏っていた、どす黒いオーラはまるで……魔王だった。間違いない。前に戦った虎の魔王と似た気配だ。
「ままままっま、魔族ぅ~!? ヤバイヤンス! 魔王が関わっていたでヤンス! 恐いヤンスぅ!」
タニシはビビリ散らしている。アイツも虎の魔王を見たことがあるので、あのときの事を思い出したんだろう。尻尾がクルンと体の前に出てきている。怖がっている犬の仕草と同じだ。
「魔王じゃと? 冥府魔道の力を持つ悪神どものことか? 確かに気質は蚩尤《しゆう》どもと似ておるな。質の悪い連中を相手にせねばならんとは。」
黄ジイはヒゲをさすりながら、考え事をしている。何か独特の表現が多いが、“蚩尤《しゆう》”という言葉が出てきたのが気になる。宗家が忠告したという、悪逆の一族と関係あるんだろうか?まあ、それはともかく今回の一件には魔王が関わっているのは確実になった。エルの里帰りのはずがかなりの大事になってきたぞ!
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる