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第2部 第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第51話 未来への遺産
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「エレオノーラ、あなたも大切な人を見つけたのね。」
俺たちのやりとりを黙って見ていたエルのお母さんが突然口を開いた。見てみればさっきと容姿が変わっている。急に大人びた雰囲気を醸し出していた。
「エルフリーデさん、なんかキャラ変わってませんか?」
俺は率直に聞く。豹変ぶりがあまりにもあからさまだったからだ。これも何か意味があるに違いないと思ったから、そうした。
「そちらのラヴァンさんの推測通り、私の残した、この幻影が遺産の封印その物なのです。今、私の娘が封印解放の条件を満たしたので、正体を明かしました。」
「やはり、私は正しかったのではないか! 一体、何が条件になっていたんですか? 答えて頂きましょうか?」
それ見たことか、と言わんばかりにラヴァンが会話に割って入ってきた。俺に諦めが悪いとか言っときながら、この人も大概往生際が悪い。やれやれ。
「解放の条件……それは自分にとって大切な人を見つけるということです。」
「馬鹿な! 一時的にとはいえ、私を慕っていた時のエレオノーラも条件を満たしていたのではないのですか!」
「私の娘が心の底からそう思っていなかったからなのではないですか? 表面上はあなたを慕っていたとしても、心の奥底で此方の勇者様を愛していたのでしょう。あなたの策略がそれには及ばなかったのです。それは私の娘自身も言っていたでしょう? あなたは人の感情を軽視し過ぎたのがいけなかったのですよ。」
「……くっ!?」
親子それぞれから引導を突き付けられてしまったようだな。さすがにここまで言われてしまえば諦めもつくんじゃないか?
「ラヴァンさん、あなたがここに来たのは魔術師協会の意向もあるのでしょう? あなたも今回のことで懲りたのなら、彼らとは手を切るべきです。私も実際、過去に手を切りましたから。彼らは真理を追究するあまり、人その物を軽視しているところがあるのです。」
「他人にとやかく言われる筋合いはありません。私は協会に忠誠を誓った身、裏切ることは魔術を棄てるに等しい行為。私は今後も真理を追究することに命を捧げるつもりです!」
「そうですか。それは残念ですね。ならば私はこれ以上は何も言いません。」
魔術師協会? 新たな団体名が出てきたな。クルセイダーズやら処刑隊やら、色んな勢力があるんだな。俺らを狙う勢力と関係があるんだろうか?
「お母さん? 遺産というのは何? 私は一切、そんな話を聞かされていなかったの。叔母様から“あれ”を取り上げられた時も意味が理解できなかった。私に残そうとした物って何だったの?」
「話をする前にまず……これをあなたに渡しておかないと……。」
エルのお母さんは懐から一冊の本を取り出した。ところどころすり切れたところのある本、それは絵本だった。お母さんはエルにそれを手渡す。
「よかった。あの時のままだわ。やっと再開できた!」
どんな本なんだろうと、俺は横から題名の部分を見てみた。なんと“カエルの王子様”と書かれていた! 表紙にもお姫様とカエルの絵が描かれている。これは偶然なのか? そもそもこの本をエルが読んでいたから、俺をカエル呼ばわりしたのか? 内容が気になる。
「私にとってはこれがあればいいの。これがお母さんと私を繋ぐ大切な物なの。」
「そうね。それでいい。私と同じ考えになってくれて良かった。それこそが私たち親子にとっての大切な遺産。」
「ちょっとお待ちなさい! 遺産は? グランデ家に代々伝わる魔術の奥義書が遺産なのではないの?」
お母さんが加わってきたかと思ったら、次はオバサンだ。だけど、オバサンはまだ若い頃の姿のままだ。中身は現在のあの人のものだとは思うけど。
「ナドラ……。あなたはそんな物を求めていたの? 実は言うと、元々は存在していたわ。でも、魔術師協会と手を切ったときに合わせて処分したのよ。もうあれはこの世に存在しない。」
「何ということを! お姉様、あなたはグランデ家の家名に泥を塗るような真似をした! 恥ずべき蛮行よ! デーモンの件といい、あなたは一族の面汚しよ!」
「構わないわ。その様に思われても。魔術師協会と同じよ。あれは人として生きる上で必要の無い物なの。それよりも人の心に目を向けるべきだった。あなたにはそれが伝わらなかったみたいね。……私がもっと長く生きていれば、理解しあえたのかもしれない。」
エルのお母さんは魔術の奥義よりも人の心を選んだ。奥義の内容はわからないが、彼女の考えにはそぐわない物だったんだろうな。
「遺産は形のある物で残さなかったのだけれど、私の幻影をこの本に残したの。それはエレオノーラが大切な人を見つけた時に伝えたいことがあったから。」
「それは遺言みたいなもの?」
「遺言とも言えるけれど、あなたに直接伝えたかったから、文章等文字に起こした形では残さなかったの。」
普通、遺言状なら手紙みたいに紙に書いて残したりするもんだが、魔法が使えるならこういう手段もとれるらしい。わざわざ口頭で、娘のエルがある段階に到達するまで解禁しなかったのは何か大きな理由があるんだろう。
「エレオノーラ、あなたに伝えたいことは二つあるの。一つ目はあなたに謝らないといけないことなの。」
「謝る? お母さんが? お母さんが謝ることなんて何もないよ!」
「いいえ。あなたが今まで虐げられてきた原因の一端は私にあると思う。全ては私が魔術師協会と決別したことが始まりだと思うの。私が決別を決めた後、牛の魔王討伐に私を推薦したのが魔術師協会だった。私を体よく始末するためにね。」
あの一件にそんな裏事情があったとは。魔術師協会と揉めてなかったら、討伐隊に参加していなかったかもしれないという訳か。確かに優秀で協会に必要な人材は手放したくないんだろう。逆にそうでなければ、最悪、事故死、戦死扱いで抹殺出来るからな。手を汚さずに。
「ご存じの通り、後遺症は負ってしまったけれど、私は死ななかった。その後、実家に戻ってきて、あなたを生んだ。そして、魔王の呪いまで引き継がせてしまった。その結果、あなたに不幸な思いを一杯させてしまった。私はあの時に死んでおくべきだったのよ……。謝りたかったのはこのこと。」
この人は悪いことは一切していない。むしろ世のため、人のために行動した結果がたまたまそうなってしまった。ただ不運が重なっただけだ。誰が何と言おうと俺はそう思いたい。
「私が良かれと思って行動したことが娘を苦しめる結果になってしまった。その上、後遺症で早死にして、守ってあげることも出来なかった。私は母親としては失格だと思う。恨んでくれてもいいわ。」
「確かに辛かった。生まれてこない方が良かったと思ったこともあったわ。でも……お母さんを恨んだことはないよ。だってお母さんは魔王を倒した英雄には違いなかったもの。むしろ誇りに思ってた。」
「ありがとう。あなたを生んで本当によかったわ。」
二人は涙を流しながら抱き合っていた。親子が感動の再会を果たしたんだ。当然そうなる。ただ、やっぱり遺産のこととか、よこしまな思いを持った奴等がいたから、すぐにはそうならなかった。本当にそれは余計なものだった。心を捨てた奴等がそれを妨害してた。だからこそ俺は必死になって、そいつらの目的を食い止めた。俺はこの光景を見たとき、俺の行為が報われたんだということを実感した。
「二つ目の話もあなたに関係のあることよ。」
「それは何?」
「あなたのお父さんのこと。」
「私の……お父さん?」
「ええ。あなたのお父さんは……、」
その場にいた誰もがその事実に驚愕した。エルのお父さんの正体……それはこの国にすんでいる者なら誰もが知っている人物だったからだ。このときばかりは俺も運命という名のいたずらを実感せざるを得なかった。
俺たちのやりとりを黙って見ていたエルのお母さんが突然口を開いた。見てみればさっきと容姿が変わっている。急に大人びた雰囲気を醸し出していた。
「エルフリーデさん、なんかキャラ変わってませんか?」
俺は率直に聞く。豹変ぶりがあまりにもあからさまだったからだ。これも何か意味があるに違いないと思ったから、そうした。
「そちらのラヴァンさんの推測通り、私の残した、この幻影が遺産の封印その物なのです。今、私の娘が封印解放の条件を満たしたので、正体を明かしました。」
「やはり、私は正しかったのではないか! 一体、何が条件になっていたんですか? 答えて頂きましょうか?」
それ見たことか、と言わんばかりにラヴァンが会話に割って入ってきた。俺に諦めが悪いとか言っときながら、この人も大概往生際が悪い。やれやれ。
「解放の条件……それは自分にとって大切な人を見つけるということです。」
「馬鹿な! 一時的にとはいえ、私を慕っていた時のエレオノーラも条件を満たしていたのではないのですか!」
「私の娘が心の底からそう思っていなかったからなのではないですか? 表面上はあなたを慕っていたとしても、心の奥底で此方の勇者様を愛していたのでしょう。あなたの策略がそれには及ばなかったのです。それは私の娘自身も言っていたでしょう? あなたは人の感情を軽視し過ぎたのがいけなかったのですよ。」
「……くっ!?」
親子それぞれから引導を突き付けられてしまったようだな。さすがにここまで言われてしまえば諦めもつくんじゃないか?
「ラヴァンさん、あなたがここに来たのは魔術師協会の意向もあるのでしょう? あなたも今回のことで懲りたのなら、彼らとは手を切るべきです。私も実際、過去に手を切りましたから。彼らは真理を追究するあまり、人その物を軽視しているところがあるのです。」
「他人にとやかく言われる筋合いはありません。私は協会に忠誠を誓った身、裏切ることは魔術を棄てるに等しい行為。私は今後も真理を追究することに命を捧げるつもりです!」
「そうですか。それは残念ですね。ならば私はこれ以上は何も言いません。」
魔術師協会? 新たな団体名が出てきたな。クルセイダーズやら処刑隊やら、色んな勢力があるんだな。俺らを狙う勢力と関係があるんだろうか?
「お母さん? 遺産というのは何? 私は一切、そんな話を聞かされていなかったの。叔母様から“あれ”を取り上げられた時も意味が理解できなかった。私に残そうとした物って何だったの?」
「話をする前にまず……これをあなたに渡しておかないと……。」
エルのお母さんは懐から一冊の本を取り出した。ところどころすり切れたところのある本、それは絵本だった。お母さんはエルにそれを手渡す。
「よかった。あの時のままだわ。やっと再開できた!」
どんな本なんだろうと、俺は横から題名の部分を見てみた。なんと“カエルの王子様”と書かれていた! 表紙にもお姫様とカエルの絵が描かれている。これは偶然なのか? そもそもこの本をエルが読んでいたから、俺をカエル呼ばわりしたのか? 内容が気になる。
「私にとってはこれがあればいいの。これがお母さんと私を繋ぐ大切な物なの。」
「そうね。それでいい。私と同じ考えになってくれて良かった。それこそが私たち親子にとっての大切な遺産。」
「ちょっとお待ちなさい! 遺産は? グランデ家に代々伝わる魔術の奥義書が遺産なのではないの?」
お母さんが加わってきたかと思ったら、次はオバサンだ。だけど、オバサンはまだ若い頃の姿のままだ。中身は現在のあの人のものだとは思うけど。
「ナドラ……。あなたはそんな物を求めていたの? 実は言うと、元々は存在していたわ。でも、魔術師協会と手を切ったときに合わせて処分したのよ。もうあれはこの世に存在しない。」
「何ということを! お姉様、あなたはグランデ家の家名に泥を塗るような真似をした! 恥ずべき蛮行よ! デーモンの件といい、あなたは一族の面汚しよ!」
「構わないわ。その様に思われても。魔術師協会と同じよ。あれは人として生きる上で必要の無い物なの。それよりも人の心に目を向けるべきだった。あなたにはそれが伝わらなかったみたいね。……私がもっと長く生きていれば、理解しあえたのかもしれない。」
エルのお母さんは魔術の奥義よりも人の心を選んだ。奥義の内容はわからないが、彼女の考えにはそぐわない物だったんだろうな。
「遺産は形のある物で残さなかったのだけれど、私の幻影をこの本に残したの。それはエレオノーラが大切な人を見つけた時に伝えたいことがあったから。」
「それは遺言みたいなもの?」
「遺言とも言えるけれど、あなたに直接伝えたかったから、文章等文字に起こした形では残さなかったの。」
普通、遺言状なら手紙みたいに紙に書いて残したりするもんだが、魔法が使えるならこういう手段もとれるらしい。わざわざ口頭で、娘のエルがある段階に到達するまで解禁しなかったのは何か大きな理由があるんだろう。
「エレオノーラ、あなたに伝えたいことは二つあるの。一つ目はあなたに謝らないといけないことなの。」
「謝る? お母さんが? お母さんが謝ることなんて何もないよ!」
「いいえ。あなたが今まで虐げられてきた原因の一端は私にあると思う。全ては私が魔術師協会と決別したことが始まりだと思うの。私が決別を決めた後、牛の魔王討伐に私を推薦したのが魔術師協会だった。私を体よく始末するためにね。」
あの一件にそんな裏事情があったとは。魔術師協会と揉めてなかったら、討伐隊に参加していなかったかもしれないという訳か。確かに優秀で協会に必要な人材は手放したくないんだろう。逆にそうでなければ、最悪、事故死、戦死扱いで抹殺出来るからな。手を汚さずに。
「ご存じの通り、後遺症は負ってしまったけれど、私は死ななかった。その後、実家に戻ってきて、あなたを生んだ。そして、魔王の呪いまで引き継がせてしまった。その結果、あなたに不幸な思いを一杯させてしまった。私はあの時に死んでおくべきだったのよ……。謝りたかったのはこのこと。」
この人は悪いことは一切していない。むしろ世のため、人のために行動した結果がたまたまそうなってしまった。ただ不運が重なっただけだ。誰が何と言おうと俺はそう思いたい。
「私が良かれと思って行動したことが娘を苦しめる結果になってしまった。その上、後遺症で早死にして、守ってあげることも出来なかった。私は母親としては失格だと思う。恨んでくれてもいいわ。」
「確かに辛かった。生まれてこない方が良かったと思ったこともあったわ。でも……お母さんを恨んだことはないよ。だってお母さんは魔王を倒した英雄には違いなかったもの。むしろ誇りに思ってた。」
「ありがとう。あなたを生んで本当によかったわ。」
二人は涙を流しながら抱き合っていた。親子が感動の再会を果たしたんだ。当然そうなる。ただ、やっぱり遺産のこととか、よこしまな思いを持った奴等がいたから、すぐにはそうならなかった。本当にそれは余計なものだった。心を捨てた奴等がそれを妨害してた。だからこそ俺は必死になって、そいつらの目的を食い止めた。俺はこの光景を見たとき、俺の行為が報われたんだということを実感した。
「二つ目の話もあなたに関係のあることよ。」
「それは何?」
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