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第2部 第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第50話 そんなあなたが好きだから
しおりを挟む「エレオノーラ、君は遺産を取り戻したんだろう? 魔術師としての誇りを取り戻したんだろう? 私はそのために、君に変わって手を汚そう。母親の幻影は私が倒してみせる!」
「わ、私は……、」
エルは激しく動揺していた。さっきまで、虚ろな目で俺たちの様子を見ていただけだった。それが急に、だ。俺たちの問答で心が激しく揺さぶられているのだろう。遺産を取り戻したいという欲求はあるんだろうけど、優しい彼女が強引な手段を許すはずがない。例えそれが婚約者、信頼している人に求められたとしても。
「遺産は……必要ありません。」
「何を言い出すんだ! ナドラ様に取り上げられた物を取り返したくはないのか! 君にとって掛け買いの無い物ではなかったのか!」
「幻影とはいえ、母であることには変わりありません。母を傷付けてでも手に入れたいなんて思ってません! 例え、あなたでもそんなことをさせたくはないんです!」
エルの目には強い輝きが戻ってきた。しっかりと強い意志を持って、ラヴァンの考えを拒絶している。しかし、記憶が戻ったかまではわからない。それでもいいさ。エルが自分らしくなれるのならば。
「わかった。君がそう思うならば、そうすればいい。だが、私はやる。将来、私は君の夫になる人間だ。君が出来ないことをするのも私の役目だ! 君に嫌われてでも目的は成し遂げる!」
ラヴァンは魔法の準備を始めた。使おうとしているのはおそらく、あの閃光魔法だ。しかし、杖がないためか集中に手間取っている。この隙を逃すわけにはいかない!
「いい加減にしろ! もうやめないか!」
「ぐはっ!?」
俺はありったけの力でラヴァンの綺麗な顔をぶん殴ってやった! 我ながら強引なやり方だな。多分、エルから非難されるかもしれない。ラヴァンがやろうとしていたことを自分も犯してしまったんだからな……。
「やっちまったな。俺がこんなことをしても、コイツのやることは止められない。手段は選ばないだろうし。俺はこれ以上、手は出さない。やり過ぎるとコイツが死んでしまうかもしれないからな。無関係な俺に出来るのはコレが精一杯だ。……じゃあな。」
俺は立ち去ることにした。腑に落ちないが、俺の力ではエルの記憶を取り戻せなかった。ラヴァンの企みを阻止できなかった時点で俺は負けていたんだ。負けを潔く認めて、立ち去……、
「待って!」
異空跋渉で帰ろうとしたところで、エルに制止された。何故だろう? 婚約者を殴り飛ばしたことを咎められるかな?
「……私を置いていくつもりなの、ロア?」
エルは俺の名を呼んだ。さっきみたいに他人行儀ではなく、名を呼んだ。名指しにした!
「記憶がおかしくなりそうだった。ラヴァンさんに助けられたことが正しい思い出になってしまいそうだった。でも、あなたとの思い出がそれは間違ってるって教えてくれた。過去なんかよりもあなたと一緒に乗り越えてきた記憶の方が眩しかったから、ウソの記憶を拒絶できたの。そんなのは関係ないって。」
今のエルの顔は、俺の知っているいつもの顔だ。不自然に冷たかったりしない。それだけで、彼女の記憶が戻ったことが確信できた。
「馬鹿な、新たな記憶を撥ね除けたとでもいうのか! ありえない! そんなことが出来るはずがない!」
「でも、実際に起きました。私とロアの絆が引き起こしたことです。あなたが軽視した人の情念がそうさせたんです。あなたの浅はかな狙いはそれに及ばなかっただけです。」
そうだったのか。俺との思い出がラヴァンの策略に勝っていたんだな。だから、エルは記憶を取り戻せたんだ。
「記憶など所詮、記号に過ぎない。それに付随する感情とは関係ない! 本に書き込まれた記録と大差ないものだ! だからこそ、書き換えれる。不都合な記憶など書き換え、都合のいい記憶に置き換えれば問題ない! 感情など雑音に過ぎないんだ! それを重視するのは愚かだ!」
「別に構いませんよ。愚かでも。それがあるから私は強くなれた。ロアも同じです。いえ、彼は私よりも遙かに凄いんです。」
ラヴァンは怒りを露わにしていた。今まで冷たい表情を崩さなかった男が。今は感情を抑えようともしていない。感情とかを否定しているのに、本人はかえってそれに囚われている。明らかに論理が破綻していた。
「この男のどこが凄いと言えるんだ! 彼は何度も私に出し抜かれ、無様な醜態を晒しているではないか! こんな男が君の足しになるはずがない! 君の品位を落とすだけだと何故わからない!」
「彼はカエルなんです。あなたもそういう表現を使いましたよね?」
か、カエル!? 俺、カエルだったの? 確かにラヴァンに潰されそうになったときに、カエルみたいに潰れろとか言われた。脱出するときは逆にそこから着想を得て脱出した。確かに俺はカエルなのかもしれない。
「それに対して、あなたは王子様なのでしょう。あなた自身も自負しているでしょうし、ほとんどの女性から見たらそうなんだと思います。でも、私は彼を選びます。彼は私にとって、カエルの王子様なんです。私はそんな彼が大好きなんです! 異論は認めません! あなたが意義を唱えるなら、ただでは済ませませんよ!」
「私はカエルなどに劣るというのか!」
う~ん。褒められてはいるんだろうけど、カエルばっかり連呼されるのも、非情に微妙な気分だ。でも、まあ、いいや。とりあえず、一件落着ということで。
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