132 / 182
第二十章 王の部屋
6 有明の白鳥(領主視点) 中
しおりを挟む
6 有明の白鳥(領主視点) 中
「何の話をしてたんだっけ」
ジュンは真顔で僕に尋ねた。
「おい、もったいぶるのはやめろよ」
小生は、ジュンがそんな冗談をいうのに驚きながら言った。
「オトは、僕が兄貴だったらなんだって言ったんだよ」
「オト……?」
ジュンは眉間に皺を寄せた。とぼけているようには見えなかった。
ジュンは、僕の目を見ながら、はっきりと言った。
「オトって、誰のこと」
小生の背中を悪寒が走った。
さっき彼の瞳の目の奥に見えた紫の光。あれは、この事態と関係があるのだろうか。
色々と話すが、ジュンは首を傾げてばかりだった。
「ジュン、一度お前の屋敷に戻ろう」
「いいよ。ああ……でも、劇場の母さんを尋ねないと」
「楽屋挨拶のことか? それは覚えてるの」
「忘れられる訳ないだろ」
ジュンは心底嫌そうな顔をした。
「そうか」
全ての記憶が混濁しているわけではないらしい。
「珍しいな。自分から楽屋に行きたがるなんて」
「そうじゃない、頼まれてたんだ」
小生は、最後の望みをかけて尋ねる。
「そう。誰に?」
「え……」
「誰に頼まれて、何の話をするために、母さんに会おうとしてたの」
いつもは俺が勧めたって、全然会いに行こうとしないのに。
「何言ってんだよ、ケイちゃんが会いたいって言ったんだろ」
「ううん。僕は、そんなこと言ってない。思い出せよ。僕のためじゃないだろ」
僕はジュンの肩に両手を置いて、ゆっくりと言った。ジュンの黒い瞳が不安そうに泳いだ。
「オトと約束したって、お前は言ってた」
ジュンは、しばらく自分の記憶を探っていた。が、やがて救いを求めるような目で僕を見た。
「だから、そんな奴知らないって……」
***************
ジュンの記憶からは、オトのことだけが消しゴムをかけられたように抜け落ちていた。
ジュンの脳内では、オトのしたことは全て別の人物の出来事として、きれいに補完されている。
「もしかしてそれ、イマジナリーフレンドってやつじゃない? ケイちゃん、やっぱり相当疲れてるんじゃないの?」
小生の方がジュンに心配される始末。
二人で話していても埒があかない。ひとまず、ジュンの屋敷に向かう事にした。
オトは屋敷に戻っているはずだ。流石に本人の顔を見れば、ジュンも自分の記憶のほうが異常だと悟るだろう。
***************
ジュンの屋敷の前には、何やら兵士たちが集まっている。
「おかえりなさいませ!」
兵士たちは一様に薔薇の花を胸に刺している。
「これはこれは領主様!」
小生に気が付くと、皆一斉に敬礼の姿勢をとった。
「いいよ、楽にして」
「お前たち、いい加減にしろ! 毎晩毎晩……」
鬼隊長モードのジュンが、そこまで言って急に口をつぐんだ。
「何が……目的なんだ」
わざと脅すつもりでないのは小生には分かっている。しかし、声を落としたジュンの凄みよ。近衛兵たちは、恐縮しきって答えた。
「オト様の護衛です!」
「そうです!邪な想いは一切抱いておりません!」
「オト……?」
ジュンは青ざめた顔で、近衛たちを見据えた。近衛たちもまた、青ざめていった。
「そ、そんなことより、早くお屋敷にお戻りください。先ほどトーマ殿が入って行かれました」
「トーマが?」
「我々はオト様の身が心配で心配で……」
「行こう、ジュン」
小生はジュンの腕を引いた。近衛たちはサッと道を開けた。
***************
「おかえりなさいませ」
玄関ではマーサが出迎えてくれた。
「トーマが来てるって?」
「いえ、それが……」
トーマは、至急「叙勲の間」まで来るようにとジュンに伝言を残して、裏口から出ていったと言う。
「大変なお急ぎようで」
小生とジュンは顔を見合わせた。
「ありがとう。すぐに行くよ、マーサ」
ジュンは、ぼんやりとして動かない。
何か気になるのか、階段の片隅に置かれた空の鳥籠をじっと見つめている。
「逃げてしまいましたね。傷は大丈夫ですか?」
マーサさんは、ジュンの視線を追って言った。そして小生に、昼間、この屋敷にフクロウが迷い込んでいたのだと笑った。
ジュンのおでこの傷は、その鳥を捕らえ損ねたためだったらしい。
「どこへ消えたのやら。あんなにオトさんに懐いていましたのに」
ジュンは、またその名かと言うようにマーサの顔を見た。彼の顔には、もはや恐怖に近い表情が浮かんでいる。
「あら、そういえばオトさんは? ご一緒じゃなかったのですか?」
小生は肝を冷やした。
「オトは、帰ってないの?」
マーサさんは急に心配そうな顔をした。
「ええ、ジュン様とお帰りになるものとばかり」
何かあったのではないか。胸騒ぎがしていた。
「とりあえず、叙勲の間に行ってみよう」
小生は、呆然としているジュンの腕を掴んで廊下を抜け、勝手口から外へ出た。
「何の話をしてたんだっけ」
ジュンは真顔で僕に尋ねた。
「おい、もったいぶるのはやめろよ」
小生は、ジュンがそんな冗談をいうのに驚きながら言った。
「オトは、僕が兄貴だったらなんだって言ったんだよ」
「オト……?」
ジュンは眉間に皺を寄せた。とぼけているようには見えなかった。
ジュンは、僕の目を見ながら、はっきりと言った。
「オトって、誰のこと」
小生の背中を悪寒が走った。
さっき彼の瞳の目の奥に見えた紫の光。あれは、この事態と関係があるのだろうか。
色々と話すが、ジュンは首を傾げてばかりだった。
「ジュン、一度お前の屋敷に戻ろう」
「いいよ。ああ……でも、劇場の母さんを尋ねないと」
「楽屋挨拶のことか? それは覚えてるの」
「忘れられる訳ないだろ」
ジュンは心底嫌そうな顔をした。
「そうか」
全ての記憶が混濁しているわけではないらしい。
「珍しいな。自分から楽屋に行きたがるなんて」
「そうじゃない、頼まれてたんだ」
小生は、最後の望みをかけて尋ねる。
「そう。誰に?」
「え……」
「誰に頼まれて、何の話をするために、母さんに会おうとしてたの」
いつもは俺が勧めたって、全然会いに行こうとしないのに。
「何言ってんだよ、ケイちゃんが会いたいって言ったんだろ」
「ううん。僕は、そんなこと言ってない。思い出せよ。僕のためじゃないだろ」
僕はジュンの肩に両手を置いて、ゆっくりと言った。ジュンの黒い瞳が不安そうに泳いだ。
「オトと約束したって、お前は言ってた」
ジュンは、しばらく自分の記憶を探っていた。が、やがて救いを求めるような目で僕を見た。
「だから、そんな奴知らないって……」
***************
ジュンの記憶からは、オトのことだけが消しゴムをかけられたように抜け落ちていた。
ジュンの脳内では、オトのしたことは全て別の人物の出来事として、きれいに補完されている。
「もしかしてそれ、イマジナリーフレンドってやつじゃない? ケイちゃん、やっぱり相当疲れてるんじゃないの?」
小生の方がジュンに心配される始末。
二人で話していても埒があかない。ひとまず、ジュンの屋敷に向かう事にした。
オトは屋敷に戻っているはずだ。流石に本人の顔を見れば、ジュンも自分の記憶のほうが異常だと悟るだろう。
***************
ジュンの屋敷の前には、何やら兵士たちが集まっている。
「おかえりなさいませ!」
兵士たちは一様に薔薇の花を胸に刺している。
「これはこれは領主様!」
小生に気が付くと、皆一斉に敬礼の姿勢をとった。
「いいよ、楽にして」
「お前たち、いい加減にしろ! 毎晩毎晩……」
鬼隊長モードのジュンが、そこまで言って急に口をつぐんだ。
「何が……目的なんだ」
わざと脅すつもりでないのは小生には分かっている。しかし、声を落としたジュンの凄みよ。近衛兵たちは、恐縮しきって答えた。
「オト様の護衛です!」
「そうです!邪な想いは一切抱いておりません!」
「オト……?」
ジュンは青ざめた顔で、近衛たちを見据えた。近衛たちもまた、青ざめていった。
「そ、そんなことより、早くお屋敷にお戻りください。先ほどトーマ殿が入って行かれました」
「トーマが?」
「我々はオト様の身が心配で心配で……」
「行こう、ジュン」
小生はジュンの腕を引いた。近衛たちはサッと道を開けた。
***************
「おかえりなさいませ」
玄関ではマーサが出迎えてくれた。
「トーマが来てるって?」
「いえ、それが……」
トーマは、至急「叙勲の間」まで来るようにとジュンに伝言を残して、裏口から出ていったと言う。
「大変なお急ぎようで」
小生とジュンは顔を見合わせた。
「ありがとう。すぐに行くよ、マーサ」
ジュンは、ぼんやりとして動かない。
何か気になるのか、階段の片隅に置かれた空の鳥籠をじっと見つめている。
「逃げてしまいましたね。傷は大丈夫ですか?」
マーサさんは、ジュンの視線を追って言った。そして小生に、昼間、この屋敷にフクロウが迷い込んでいたのだと笑った。
ジュンのおでこの傷は、その鳥を捕らえ損ねたためだったらしい。
「どこへ消えたのやら。あんなにオトさんに懐いていましたのに」
ジュンは、またその名かと言うようにマーサの顔を見た。彼の顔には、もはや恐怖に近い表情が浮かんでいる。
「あら、そういえばオトさんは? ご一緒じゃなかったのですか?」
小生は肝を冷やした。
「オトは、帰ってないの?」
マーサさんは急に心配そうな顔をした。
「ええ、ジュン様とお帰りになるものとばかり」
何かあったのではないか。胸騒ぎがしていた。
「とりあえず、叙勲の間に行ってみよう」
小生は、呆然としているジュンの腕を掴んで廊下を抜け、勝手口から外へ出た。
18
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
記憶喪失のフリをしたあざといスパイですが、全部お見通しの皇帝陛下に「嘘の婚約者」として閉じ込められています
たら昆布
BL
処刑寸前のスパイが事故にあった後、記憶喪失のフリをして皇帝の婚約者だと偽る話
うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
サブCPに人外CPはありますが、主人公は人外CPにはなりません。
(この世界での獣人は人間の種類の一つですので人外ではないです。)
ストックなくなるまでは07:10に公開
他サイトにも掲載してます
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる