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町を歩き捜す二人は
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再び捜索を開始して、しばらくもしないうちに町は夜に包まれた。
電子看板や店明かりが、星の光も霞むほど都会を彩る。がやがやと行き交う人々の声もあって賑やかだ。飲み屋街を通った際には、男達が「次の店に行くぞー!」と騒ぐ陽気な声とすれちがい、日々頑張っているご褒美みたいだ、元気な町だ、と雪弥は感じたりした。
そうしている間にも、どんどん夜は深まっていった。
二十二時を過ぎると、町中の賑わいようも少しずつ落ち着き出した。車や人の数が次第に減り始め、二十三時を回ると深夜営業店の他はシャッターも降りていった。
まだ、あの女の子は見付かっていなかった。
あれからずっと町中を歩き回っている中で、頭にツノを持ち、着物を羽織っている、という目立つ姿は、夕刻のあの遭遇以来は目に留まっていない。
「――まさか刑事であるこの僕が、深夜徘徊をする事になろうとはね。これだと完璧に残業みたいなものじゃないか」
柔らかな髪を夜風にバサバサと吹かれている宮橋が、フッと乾いた笑みを浮かべてそう言った。
ようやく腰を下ろしたところだ。その隣で、蒼や灰が混じったような色素の薄い癖のない髪を、同じく風に煽られている雪弥が、チラリと彼へ目を向ける。
「えっと…………なんかその、すみません?」
自分のせいで逃げられたようなものだ、というのを思い出して謝った。あの後からずっと歩き続けてしまっていた事を考えて、ぎこちなく目をそらす。
「この遅い時間まで歩かせているのも、結果的に僕のせい、なんでしょうし……」
続ける声は小さくなる。刑事としての彼の勤務時間を考えてみると、確かにかなりの残業だろうか。
すると宮橋が、くしゃりと前髪をかき上げた。
「まぁいいさ、夜の歩きは嫌いじゃない。『どちらか分からなくなる事が少ない』からね」
また不思議な意見が聞こえてきた。
雪弥は、余計な質問はするな、と指示してきた隣の彼へと目を戻した。けれど『夜の町並みを一望している』美しいその横顔からは、かなりご立腹なのが伝わってくる。
「…………あの、宮橋さんが夜歩きに対しては、怒っていないというのは分かりました。でも……――怒ってますよね?」
思わず尋ねると、宮橋が「それとこれとは別でね」と言って、ゆらりと顔を向けてきた。
「一通り歩き回ったのはいい。その後が問題なんだよ、雪弥君」
「その後と言うと、ついさっきの今ですか?」
「そうだ。あっという間に僕を持って、ひとっ飛びでこの屋上まで来た事だよ――いいか、とりあえず二度とするな」
「はぁ、すみません……」
低い声でぴしゃりと言われ、雪弥はとりあえずまた謝った。
つい先程、『高い場所からの方が見渡せるな』と宮橋が思い立った様子で口にしたのを聞いた。だから雪弥は、『じゃあ行きますか』とココまで連れてきたのだ。
それなのに到着早々、「この僕を驚かせるとは、やるじゃないか」とギリギリ頭を掴まれてしまった。その上、こうしてビルの縁に腰掛ける前に、拳骨まで落とされてしまったのだ。
まぁ、痛くはなかったのだけれど。
見晴らしがいい『高い所』まで連れて来ただけなんだけどなぁ……きちんと両手で持ったのに、そこもまた叱られてしまったのを思い返して、雪弥は不思議に思いながら目を戻した。
そこには町の夜景が広がっていた。地上よりもやや強い夜風が吹き抜けていて、行き交う車の白や赤のライトも、風景を彩る一つとして流れて行くのが見えた。
あの少女を見失ってしまったのは、自分のせいなのだろう。
でも、ただ保護するだけだと思っていたのに、まさかあんな事になっているとは、想像してもいなかったわけで――。
「だって女の子にツノがはえてるとか……はぁ」
「言っておくが、通常なら有り得ない事で、僕だって驚いている」
思い返して溜息交じりに呟いたら、隣からそう宮橋が口を挟んできた。
「そういえば宮橋さん、そんな事を言ってましたね」
「僕らが返したのは『子』の骨なんだ。特別な亡骸ではあるから欲しがるモノは多いが、人間にとっては、ただの同族の骨。それだけで鬼になれるはずもない」
しばし雪弥のコンタクトの黒い目と、彼の明るいブラウンの目が見つめ合う。
その問題点については、歩いている時もずっと彼の方で考えているようだった。けれど雪弥は、余計な質問はするなとは言われていて、完全なる理解を求められているわけでもない。
だから自分は、自分が出来る事をするだけなのだろう。
やや考えるような間を置いてから、雪弥は「ふうん」と思案気に少し頭を傾げる。そして質問を絞った後に、訊いても大丈夫そうな事を考えて口にした。
「そもそも『子』とか『母鬼』とか、どういう事なんですか?」
「一つの【物語】なのさ」
宮橋は言いながら、両手を後ろに置いて姿勢を楽にした。座っているビルの縁から出している足を、少しだけ揺らす。
「あるところに美しい鬼がいて、人を愛していて子を作りたがった。けれど彼女は、従える鬼を産む事は出来ても、人を産む事は出来なかった――人との間に生まれた子は全て死んだ。憧れに憧れて、それでも諦められず、ただひたすらに狂うように人を愛して、子を宿し続けたのが『母鬼』」
不思議で哀しげな話だ。
いや、自分が本だとか、そういうものとは縁がないせいだろうか。
読書習慣があったのは、幼かった頃くらいだった。屋敷で、兄や妹と絵本を広げた事があった日々を思い出し、ふと、胸が空(す)くような気分の沈みを覚えた。
自分は先日、あの屋敷から飛び出してしまったのだった。
気まずい別れだった――のかもしれない。しばらくは連絡も取らない方がいいのだろう。そうすると、もしかしたらこのままプライベートでは疎遠になっていくのか……。
雪弥は、一呼吸置いてカチリと思考を切り替えた。
「その物語の母鬼とやらは、『もう自分には無理だ』と気付かないものなんですか?」
今は仕事中だと自分に言い聞かせ、いつもの調子に戻して控え目な微笑でそう尋ねた。
その直前までの様子を、じっと見つめていた宮橋が夜景へ目を戻す。
「残念ながら、彼女らに『やめる』という選択肢はない。その母鬼にしても、彼女と恋に落ちていく人間の男達も――いつだって彼らの始まりと終わりは【物語(ストーリー)】のままに進む」
どうして、と、雪弥は不思議な気持ちでチラリと思ってしまう。
だって考えるのをやめてしまえば。もしかしたら望む事をやめれば、その哀しい事を繰り返さなくても済むはずなのにな、と――そう考えてふと、自分の中でチクリとするのを感じた。
体調は悪くないはずなのだが、と雪弥は妙な感じがした胸に目を落とした。
宮橋が気付いて目を向け、片膝を立てて頬杖をついた。しばしガラス玉みたいな目で彼を見つめたところで、ふぅっと小さく息をつく。
「それがどういう感情(モノ)であるのか、分からない?」
ふっと唐突に問い掛けられ、雪弥は少し遅れて彼を見つめ返した。
一体何がですかと視線で問い掛けると、宮橋が「別に」とそっけなく言う。
「そもそも僕は、相談所をやるつもりはないからね。ああ、そうだとも。そのはずだった」
「あの……よく分かりませんが、もしかして怒ってます?」
「怒ってはないさ。ちょっと自分に苛々してるだけだ」
と、宮橋が美麗な顔を少しくいっと上げて、不意に指を向けてきた。
「一つ教えてあげよう。君は母鬼の物語を聞いて、なら思考や望むのをやめてしまえば、と思ったわけだが」
「あれ? おかしいな、それ僕口に出していないはずなんですけど……」
「細かい事は気にするな。君、単純だから全部顔に出るんだろう」
多分ね、と宮橋がどちらでも構わないような口調で言う。
「頭では分かっていたとしても、それが心からの願いであれば抗えない。呪うほどの怨みも憎しみも、結局のところは元の願いの強さあってのモノだからね」
心からの……と雪弥は、どうしてか口の中で反芻してしまった。
その時、宮橋がピクッと反応して外へ目を向けた。凝視するように少し見開かれた目が、ゆっくりと好奇心の色を強めて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「雪弥君、彼女が出てきたぞ――あのビルのところだ」
ここまで上がってきた甲斐があったな、と宮橋が腰を上げる。
そこには夜景が広がっているばかりだ。黒コンタクトの目を蒼く光らせて、ざっと確認してみたが不思議な女の子が目に留まる事もない。
立ち上がった雪弥は、その隣で首を捻った。ひとまず彼に最優先事項を確認する。
「地上に戻るとして、最短ルートはここから飛び降りる事なんですけど――宮橋さんを、僕が抱え持って戻ってもいいんですかね? それとも、建物の中を通りますか?」
「チッ。仕方ないが、ここから飛び降りる方が早いだろうな」
舌打ちされた……しかも、かなり嫌そうな顔だ。
腕を組んだ宮橋にギロリと睨まれ、雪弥は「だからこうやって先に確認したのに……」と呟いてしまった。
「いいか雪弥君。先に言っておくが、また僕をお姫様抱っこしたら承知しないからな。今度やったら、僕が君をお姫様抱っこして、町中を闊歩する刑にするぞ」
「えぇぇ。でも担ぐとなると結構揺れますけど――」
「是非とも担げ、二度と前で持つな」
雪弥が心配して述べたら、宮橋が不機嫌顔でビシリと断言してきた。
まぁ本人がそう言っているのだから、いいのだろう。髪やスーツをバサバサと揺らしていく夜風の中、「今更なんですけど」と護衛対象でもある美麗な刑事を見つめ返す。
「そもそも、どうして女の子が出たとお分かりに?」
そう尋ねたら、宮橋が当然だろうと告げるような顔をした。
「『見えた』からそう言っている。今、あのビルの裏手の道を歩いてる」
ふんっと偉そうな感じで見下ろされてもしまった。
ビルの裏側なら、ここからだと全く視認出来ないのでは……回答を受けた雪弥は、なんだかなぁと困った顔をした後、
「それじゃあ失礼します」
と、今度はきちんと声をかけてから、宮橋を後ろの方で担いだのだった。
電子看板や店明かりが、星の光も霞むほど都会を彩る。がやがやと行き交う人々の声もあって賑やかだ。飲み屋街を通った際には、男達が「次の店に行くぞー!」と騒ぐ陽気な声とすれちがい、日々頑張っているご褒美みたいだ、元気な町だ、と雪弥は感じたりした。
そうしている間にも、どんどん夜は深まっていった。
二十二時を過ぎると、町中の賑わいようも少しずつ落ち着き出した。車や人の数が次第に減り始め、二十三時を回ると深夜営業店の他はシャッターも降りていった。
まだ、あの女の子は見付かっていなかった。
あれからずっと町中を歩き回っている中で、頭にツノを持ち、着物を羽織っている、という目立つ姿は、夕刻のあの遭遇以来は目に留まっていない。
「――まさか刑事であるこの僕が、深夜徘徊をする事になろうとはね。これだと完璧に残業みたいなものじゃないか」
柔らかな髪を夜風にバサバサと吹かれている宮橋が、フッと乾いた笑みを浮かべてそう言った。
ようやく腰を下ろしたところだ。その隣で、蒼や灰が混じったような色素の薄い癖のない髪を、同じく風に煽られている雪弥が、チラリと彼へ目を向ける。
「えっと…………なんかその、すみません?」
自分のせいで逃げられたようなものだ、というのを思い出して謝った。あの後からずっと歩き続けてしまっていた事を考えて、ぎこちなく目をそらす。
「この遅い時間まで歩かせているのも、結果的に僕のせい、なんでしょうし……」
続ける声は小さくなる。刑事としての彼の勤務時間を考えてみると、確かにかなりの残業だろうか。
すると宮橋が、くしゃりと前髪をかき上げた。
「まぁいいさ、夜の歩きは嫌いじゃない。『どちらか分からなくなる事が少ない』からね」
また不思議な意見が聞こえてきた。
雪弥は、余計な質問はするな、と指示してきた隣の彼へと目を戻した。けれど『夜の町並みを一望している』美しいその横顔からは、かなりご立腹なのが伝わってくる。
「…………あの、宮橋さんが夜歩きに対しては、怒っていないというのは分かりました。でも……――怒ってますよね?」
思わず尋ねると、宮橋が「それとこれとは別でね」と言って、ゆらりと顔を向けてきた。
「一通り歩き回ったのはいい。その後が問題なんだよ、雪弥君」
「その後と言うと、ついさっきの今ですか?」
「そうだ。あっという間に僕を持って、ひとっ飛びでこの屋上まで来た事だよ――いいか、とりあえず二度とするな」
「はぁ、すみません……」
低い声でぴしゃりと言われ、雪弥はとりあえずまた謝った。
つい先程、『高い場所からの方が見渡せるな』と宮橋が思い立った様子で口にしたのを聞いた。だから雪弥は、『じゃあ行きますか』とココまで連れてきたのだ。
それなのに到着早々、「この僕を驚かせるとは、やるじゃないか」とギリギリ頭を掴まれてしまった。その上、こうしてビルの縁に腰掛ける前に、拳骨まで落とされてしまったのだ。
まぁ、痛くはなかったのだけれど。
見晴らしがいい『高い所』まで連れて来ただけなんだけどなぁ……きちんと両手で持ったのに、そこもまた叱られてしまったのを思い返して、雪弥は不思議に思いながら目を戻した。
そこには町の夜景が広がっていた。地上よりもやや強い夜風が吹き抜けていて、行き交う車の白や赤のライトも、風景を彩る一つとして流れて行くのが見えた。
あの少女を見失ってしまったのは、自分のせいなのだろう。
でも、ただ保護するだけだと思っていたのに、まさかあんな事になっているとは、想像してもいなかったわけで――。
「だって女の子にツノがはえてるとか……はぁ」
「言っておくが、通常なら有り得ない事で、僕だって驚いている」
思い返して溜息交じりに呟いたら、隣からそう宮橋が口を挟んできた。
「そういえば宮橋さん、そんな事を言ってましたね」
「僕らが返したのは『子』の骨なんだ。特別な亡骸ではあるから欲しがるモノは多いが、人間にとっては、ただの同族の骨。それだけで鬼になれるはずもない」
しばし雪弥のコンタクトの黒い目と、彼の明るいブラウンの目が見つめ合う。
その問題点については、歩いている時もずっと彼の方で考えているようだった。けれど雪弥は、余計な質問はするなとは言われていて、完全なる理解を求められているわけでもない。
だから自分は、自分が出来る事をするだけなのだろう。
やや考えるような間を置いてから、雪弥は「ふうん」と思案気に少し頭を傾げる。そして質問を絞った後に、訊いても大丈夫そうな事を考えて口にした。
「そもそも『子』とか『母鬼』とか、どういう事なんですか?」
「一つの【物語】なのさ」
宮橋は言いながら、両手を後ろに置いて姿勢を楽にした。座っているビルの縁から出している足を、少しだけ揺らす。
「あるところに美しい鬼がいて、人を愛していて子を作りたがった。けれど彼女は、従える鬼を産む事は出来ても、人を産む事は出来なかった――人との間に生まれた子は全て死んだ。憧れに憧れて、それでも諦められず、ただひたすらに狂うように人を愛して、子を宿し続けたのが『母鬼』」
不思議で哀しげな話だ。
いや、自分が本だとか、そういうものとは縁がないせいだろうか。
読書習慣があったのは、幼かった頃くらいだった。屋敷で、兄や妹と絵本を広げた事があった日々を思い出し、ふと、胸が空(す)くような気分の沈みを覚えた。
自分は先日、あの屋敷から飛び出してしまったのだった。
気まずい別れだった――のかもしれない。しばらくは連絡も取らない方がいいのだろう。そうすると、もしかしたらこのままプライベートでは疎遠になっていくのか……。
雪弥は、一呼吸置いてカチリと思考を切り替えた。
「その物語の母鬼とやらは、『もう自分には無理だ』と気付かないものなんですか?」
今は仕事中だと自分に言い聞かせ、いつもの調子に戻して控え目な微笑でそう尋ねた。
その直前までの様子を、じっと見つめていた宮橋が夜景へ目を戻す。
「残念ながら、彼女らに『やめる』という選択肢はない。その母鬼にしても、彼女と恋に落ちていく人間の男達も――いつだって彼らの始まりと終わりは【物語(ストーリー)】のままに進む」
どうして、と、雪弥は不思議な気持ちでチラリと思ってしまう。
だって考えるのをやめてしまえば。もしかしたら望む事をやめれば、その哀しい事を繰り返さなくても済むはずなのにな、と――そう考えてふと、自分の中でチクリとするのを感じた。
体調は悪くないはずなのだが、と雪弥は妙な感じがした胸に目を落とした。
宮橋が気付いて目を向け、片膝を立てて頬杖をついた。しばしガラス玉みたいな目で彼を見つめたところで、ふぅっと小さく息をつく。
「それがどういう感情(モノ)であるのか、分からない?」
ふっと唐突に問い掛けられ、雪弥は少し遅れて彼を見つめ返した。
一体何がですかと視線で問い掛けると、宮橋が「別に」とそっけなく言う。
「そもそも僕は、相談所をやるつもりはないからね。ああ、そうだとも。そのはずだった」
「あの……よく分かりませんが、もしかして怒ってます?」
「怒ってはないさ。ちょっと自分に苛々してるだけだ」
と、宮橋が美麗な顔を少しくいっと上げて、不意に指を向けてきた。
「一つ教えてあげよう。君は母鬼の物語を聞いて、なら思考や望むのをやめてしまえば、と思ったわけだが」
「あれ? おかしいな、それ僕口に出していないはずなんですけど……」
「細かい事は気にするな。君、単純だから全部顔に出るんだろう」
多分ね、と宮橋がどちらでも構わないような口調で言う。
「頭では分かっていたとしても、それが心からの願いであれば抗えない。呪うほどの怨みも憎しみも、結局のところは元の願いの強さあってのモノだからね」
心からの……と雪弥は、どうしてか口の中で反芻してしまった。
その時、宮橋がピクッと反応して外へ目を向けた。凝視するように少し見開かれた目が、ゆっくりと好奇心の色を強めて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「雪弥君、彼女が出てきたぞ――あのビルのところだ」
ここまで上がってきた甲斐があったな、と宮橋が腰を上げる。
そこには夜景が広がっているばかりだ。黒コンタクトの目を蒼く光らせて、ざっと確認してみたが不思議な女の子が目に留まる事もない。
立ち上がった雪弥は、その隣で首を捻った。ひとまず彼に最優先事項を確認する。
「地上に戻るとして、最短ルートはここから飛び降りる事なんですけど――宮橋さんを、僕が抱え持って戻ってもいいんですかね? それとも、建物の中を通りますか?」
「チッ。仕方ないが、ここから飛び降りる方が早いだろうな」
舌打ちされた……しかも、かなり嫌そうな顔だ。
腕を組んだ宮橋にギロリと睨まれ、雪弥は「だからこうやって先に確認したのに……」と呟いてしまった。
「いいか雪弥君。先に言っておくが、また僕をお姫様抱っこしたら承知しないからな。今度やったら、僕が君をお姫様抱っこして、町中を闊歩する刑にするぞ」
「えぇぇ。でも担ぐとなると結構揺れますけど――」
「是非とも担げ、二度と前で持つな」
雪弥が心配して述べたら、宮橋が不機嫌顔でビシリと断言してきた。
まぁ本人がそう言っているのだから、いいのだろう。髪やスーツをバサバサと揺らしていく夜風の中、「今更なんですけど」と護衛対象でもある美麗な刑事を見つめ返す。
「そもそも、どうして女の子が出たとお分かりに?」
そう尋ねたら、宮橋が当然だろうと告げるような顔をした。
「『見えた』からそう言っている。今、あのビルの裏手の道を歩いてる」
ふんっと偉そうな感じで見下ろされてもしまった。
ビルの裏側なら、ここからだと全く視認出来ないのでは……回答を受けた雪弥は、なんだかなぁと困った顔をした後、
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2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
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