皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新

文字の大きさ
3 / 6

しおりを挟む
 父は国王と王妃の結婚の一人として、母は社交界で支えてくれた。

 十三歳の立派な王妃。

 誰もがそう認めてくれたが、それはセレスティーヌとアルフレッドが休みもなく働いていたからだ。

 三年もすれば落ち着いてきた。

(心に余裕ができたその時、〝魔が差してしまった〟のね)

 セレスティーヌはそう思うことにしていた。

 それは結局アルフレッドのためにならないと分かったら、こうして彼の目標が達成したことを心から喜べている。

「声かけましたところ、マーシルを含むお嬢様付きだった三人が名乗りを上げました。急ぎ準備をしているところです。馬車のほうで合流できるでしょう」
「嬉しいわ。また、みんなで小旅行ね」

 美味しいものを食べさせて、アクセサリーもプレゼントで買ってあげたい。

 そう笑って、セレスティーヌは着替えが入った鞄を受け取る。メイドは少し気にしたような笑みを口元に浮かべて、声をかけた。

「惹かれることは、なかったのですか?」

 それが五年夫婦だったアルフレッドを差していることは、セレスティーヌも分かった。

 セレスティーヌは静かに息を吸い込む。

「――ええ。彼には味方が必要だったの、あくまで私は〝一番の友人〟として協力しただけだから」

 他に男性を知らなかったセレスティーヌも、成長しながらアルフレッドを意識したことはあった。

『もう少しの辛抱だ。一番の友人である君にこんなことを頼むなんて申し訳ないが、新しい王妃が見つかるまで、どうか』

 彼にそう告げられたあの時、セレスティーヌは期待することに終止符を打ったのだ。

 まだ、たったの十六歳だった。

 異性を意識したことも、初恋も知らなかったセレスティーヌは、王妃をとてもうまくやれているほどとても賢くて――潔く自分の運命を受け入れたのだ。

 望みがないと実感すれば、セレスティーヌにとって諦めることは驚くほど容易いことだった。

 期待しないと決めたら、気持ちはとても楽になった。

(彼は一番の、私の友達)

 心の中で何度も唱える。

 それも、セレスティーヌにとっても事実であった。

 あくまで幼馴染で、アルフレッドが信頼している一番の友達。そう彼のそばに居続けようとセレスティーヌは思ったのだ。

 彼が新しい妻を迎えても、必要になったら夫婦に手を貸す。

 時には、愚痴だって聞いてあげるつもりだ。

 子供ができて乳母を頼まれたら、勉強してできる限りのことをしてあげよう。

「……楽しい小旅行になるといいですね」

 メイドは察したのか、それとも優秀なメイドとして身を引いたのか、そう優しい声で言ってきた。

「ええ、楽しんでくるわ」

 気持ちを〝今〟に向ければ、セレスティーヌは胸にわくわく感が戻ってきた。

(さぁっ、休みをたっぷり楽しむわよー!)

 今日からは自由だ。

 十三歳からの仕事を終えたセレスティーヌは、意気揚々と部屋を出ると、メイドたちが待つ馬車へと駆けて向かった。

 ◇∞◇∞◇

 離縁して三日が過ぎた。

『なぜ離縁を』
『お考え直しくださいませ』

 そんな言葉もようやく耳にしなくなった今日、アルフレッドは定期的に行われている報告会から戻ったところで、ハタと過ぎた時間に気付いた。

「そうこうしている間に、もう三日過ぎか……」

 休憩でソファに腰を落ち着けた彼は、頬杖をついて侍従が紅茶を用意するのを眺める。

(さすがに彼女も、しばらくは元気がないだろうな)

 王妃の仕事なんてできっこない。

 前国王夫妻の国葬の準備を進めながら、初めてお願いした際に泣きそうな顔でそう言った。彼が頼み込んだら理解してくれて、うなずいてくれた一番の幼馴染のセレスティーヌ。

 けれどいざ始まってみると、勉強が遣り甲斐でもあった彼女には天職でもあったようだ。

 セレスティーヌは王妃業を、意外にも楽しそうにしていた。

 彼女のそんな笑顔と前向きさが、突然の前国王夫妻を亡くした悲しみに暮れていた王城を明るくしたのだ。

『あなたの役に立てるのが嬉しいのよ』

 たびたび口癖のように笑顔を向けていたセレスティーヌ。

 それを思い出したら、アルフレッドの口元に「ふっ」と自然な笑みがこぼれる。

 最高の友人を得られたものだと思う。

 だが、彼女に献身的で健気な笑顔を向けられるたび、彼の胸を満たす何かは年々強まっていた。

 これがなんなのかは、アルフレッドも分からない。

 彼女ともう夫婦でないことを、離縁したその日から名残惜しく感じている。

(いや、俺も彼女と同じ気持ちになんだろう)

 アルフレッドは考え直し、ティーカップを手に取った。

 友人と片時も離れず三年を過ごしたのだ。

 急に暇もできたし、セレスティーヌは時間の使い道に困っているかもしれない。

「カフェでお茶でもするか。セレスティーヌに手紙を書く、準備を」
「離縁されたのに、ですか?」

 侍従がおずおずと聞き返してきた。

「外で人の目がある場所なら問題ないだろう。彼女は俺の一番の友人だ」
「……分かりました」

 お望みのままにと答えた侍従は、何がなんやらといった様子で首を捻っている。

(何かそんなにおかしいんだ?)

 離縁してもセレスティーヌと会わなくなるとか、考えるほうがおかしいだろうとアルフレッドは鼻頭に皺を寄せてしまう。

 たが、問題が起こった。

 次の予定のためちょうどヴィジスタイン公爵がやってきたので、ついでに会えそうなカフェを選定してもらおうと思った。そうしたら彼は驚いた顔で、珍しく固まってしまったのだ。

「どうした?」
「あの、娘でしたら城を出たその日、別荘に遊びに行きました」
「――は?」

 アルフレッドの『は』をなんと取ったのか、ヴィジスタイン公爵は尋ねてもいないのに言ってくる。

「乗馬やら森の探索から兼のビクニック、釣りやらと毎日報告の手紙が届きます。かなり楽しいのか悖る目安は書かれておらず。兄との狩りを本日する予定だそうで、今日それをするとなると、明日はたっぷり休むはずですから、今日明日の帰宅の可能性はないかと。つまりバカンスを楽しんでいます」

 目を見開いたアルフレッドの視線と、侍従の『ええぇ、うそでしょ』の視線に耐え切れなくなったのか、ヴィジスタイン公爵は余計な一言も添えた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

二年間の花嫁

柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。 公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。 二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。 それでも構わなかった。 たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。 けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。 この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。 彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。 やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。 期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。 ――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

処理中です...