民宿『ヤマガミ』へ ようこそっ!

ろうでい

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四話 『不思議な、お姉さん』

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――

「し、小説家……!?」

私の驚いた顔に、伴野さんは苦笑いする。

「肩書はそうだけど、正直あんま売れてないからな。無名に近いよ」

「で、でもお仕事なんですよね?すごいです……ゆ、有名人だ……」

「だから有名人とかじゃないって」

「本名で書いてらっしゃるんですか?」

「ああ。伴野ばんの美月みつき。……でも検索とかしないでくれよ、恥ずかしいから」

「あはは……すいません、後でします」

「正直者め」

私と伴野さんは笑いあう。

食堂は、振り子時計の音だけが静かに響いていた。
囲炉裏近くのテーブルにお茶を二つ並べて、漬物をつまみながら私と伴野さんは話している。

小説家。
有名だろうがなんだろうが、スゴイ職業だ。
本。テレビ。メディアに関係する仕事の人がこの民宿に泊まりにきたというだけでなんだか緊張してしまう。

そんな私の様子を見透かしたように、伴野さんは私の肩を叩いた。

「期待するような有名人じゃないからな。普通の、どこにでもいるOLくらいに思ってくれ」

「わ、分かりました」

「……それじゃ、この民宿のコト、色々聞かせてくれないかな」

「し、取材ってコトですか?それってつまり、この民宿を舞台になにか作品を書くとか?」

「いや、全然。ただ、興味があるだけ。訪れた場所のコトはなるべく細かく聞いておきたくてさ」

「……あ、そうなんですね」

少しがっかりする私の様子を見て、伴野さんはまた苦笑する。

「ホント分かりやすいな柚子は」

「よく言われます」

『柚子』と名前を軽く読んでくれるのが、嬉しかった。

その時、伴野さんは不思議なコトを言った。

「……なんか、思い出すな」

「え?なにをですか?

「昔さ、お前にそっくりな友達が……いや、えーと……なんでもない」

「……?」

友達?

しかし伴野さんはその言葉を途中で止めてしまった。 まるで、思い出してはいけない事を思い出してしまったように。

「今は柚子の話を聞きたいんだ。この民宿の歴史とか、名物とか、近くの風習とか、いかがわしい村の儀式の話とか」

「……多分、期待に沿える内容はないですよ」

「冗談だよ」

「知ってます」

伴野さんは、ホラー作家かなにかなのだろうか?

「じゃあさ、この民宿はいつからやってるの?」

「あ、えーと、私のおじいちゃんが……」

それを話し始めたとき、外から車のエンジン音が聞こえた。
どうやらお母さんが買い物から帰ってきたらしい。
ほどなくして玄関の引き戸が開く。

「ただいまー。ってあら、柚子のお友達……じゃ、ないですよね」

「いえいえ、こうみえて高校の友達です」

……初対面でも冗談を言うのか、この人は。

「えーと、お母さん。今日ご予約の、伴野さん。民宿のコト聞きたいっていうから、お話してたの」

「あー、そうだよね。すごい大人っぽい高校生がいるんだな、ってびっくりしちゃった」

「素直に老けてるって言ってくれていいんですよ女将さん」

そう言って伴野さんは笑った。

「お母さん、伴野さん小説家さんなんだって。だから、この民宿のコト色々聞きたいみたいで…今私話してたの」

「ええー!?小説家!?本当に!?サインとかいただけますか!?」

「あー、えーと……まあ……やってみます。でもまずはお話を、ね」

「……あ、ごめんなさい。失礼でしたよね」

「いえ全然。むしろ、女将さんが期待してるような有名人ではないので」

苦笑する伴野さんに、お母さんはもう一度頭を下げた。

「私がお話したいところなんですけれど、これから夕食の支度をしなくちゃで。もしよろしければ、そこにいるウチの長女が民宿のコト、お話します」

「いえいえ、お気遣いありがとうございます。お忙しいのにすいません」

お母さんはそう言って、食材の入ったバッグを持ちながらキッチンの方へ向かっていった。
時刻は17時、今日は伴野さんとは別に連泊の職人さん数人が泊まるだけなのでさして忙しい日ではない。夕食の支度はお母さんとお父さんだけで十分だろう。

「悪いな、柚子。後でなにかお礼しなくちゃな」

「いえいえ、私も伴野さんのお役に立てれば嬉しいですから。……そろそろ他のお客さんが帰ってくるし、よろしければ伴野さんのお部屋にお邪魔してもいいですか?」

「ああ、勿論。金目の物荒らさなければいいよ」

「するわけないじゃないですかー」

そう言って笑いあいながら、私達は新館の方へ行くため、食堂をあとにした。

――
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