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ろうでい

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七話 『風来の、猫』

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――

「……猫だ」

学校から帰宅した私を待っていたもの。
家の玄関の前。猫がいる。

とは言っても……ポンではない。
違う猫だ。
白地に茶と黒の混じった、三毛猫の模様。
三毛猫はオスはほとんどおらず、見かけたら大抵がメスだという話をどこかで聞いたことがある。つまり、この子はおそらくメスだろう。
庭先で毛づくろいをしていたが、帰宅した私を見つけるとしばらく凝視したあと、さっと近くの茂みに隠れてしまう。

そして……その中から、もう一匹、別の猫が出てきた。

「……ポンだ」

「んなー」

ポンだった。
私の姿を見つけるとのんびりと近づいてきて、足に頭を擦り付けてくる。

「え……まさかキミ、あの子……彼女?」

「うな」

返事をするように鳴き声をあげるポン。

彼女、と思わしきメスの三毛猫は近くの茂みからポンのことをじーっと見ている。
ポンと違って人慣れしていないらしく、私がいるから近寄れないのだろう。だが、茂みからは決して離れようとしない。

「キミ、人間だけじゃなくて猫にもウケがいいの?」

「うなー」

「うわぁ……なんかいいねえ。得な性格してるなー、ポン」

昨日、母親から人間に捨てられたという話を聞いた時は可哀想な猫だと思ったが、今は今で人生……ではなく、猫生を満喫しているのだろうか?
ふらっと民宿にきて日中の大半を庭で過ごし、彼女まで作るとは…。
餌はウチではあげていないが……ひょっとして誰かから貰っているのだろうか?野良猫に餌をあげるのは良くないと聞いたが……ポンのことだからこっそりどこかの家から拝借しているのもあり得る話だ。

とはいえ……別に迷惑をかけているわけではないし、まして悠も気に入っている野良猫だ。
嫌がらせをして追い払うというのも酷な話だろう。

「……まぁ、その……お幸せにね。出来るなら新居でも見つけなよ?ポン」

「にゃ」

私が家に歩んでいくと同時に、ポンも茂みの中へと入っていく。
……さっきの彼女といちゃつくつもりだろうか。……猫の世界では割とイケメンなのかもしれないな。

そんな事を考えながら、私は玄関を開けて中へと入った。


――

「……猫だ」

家で着替えて、民宿の手伝いに出た私を待っていたもの。
家の玄関の前。猫がいる。

しかも恐ろしいことに、さっき見た猫とは違う種類の猫だった。
薄いオレンジがかったトラのような模様。茶トラだ。しかも、メス。

隣には、ポンがいる。
先ほどまでいた三毛猫はもうすでにどこかにいったようで……茶トラとポンで、玄関の前でのんびりと寝転んでいた。

私の姿を見ると、案の定茶トラは茂みの方へとサッと隠れていったが。


「……ポン、キミねぇ……」

「んなー」

軽い怒りを覚えた私に対して、ポンは飄々ひょうひょうとした顔で欠伸をしていた。

「この短期間で愛人まで作ってるの!?キミ、猫だからってなんでも許されるわけじゃないよ……!?」

「うな」

「わ、割とサイアクかもしれないぞ、この猫……」

このままでは家の周りに自分のハーレムを築かれるかもしれない。
……そしてそれを、悠はとても喜ぶかもしれない。

いやいや、ウチは客商売をしているのだ。
まだ家の方の周りに住み着いているから良しとしても、そのうち民宿の方まで居住エリアを拡大してくるかもしれない。
猫嫌いのお客さんや猫アレルギーのお客さんだっているのだ。そういったお客さんに迷惑をかけるわけにはいかない……!

「こ、これ以上愛人……じゃなくて、愛猫作ったら、さすがに追い出すからね!?ポン」

「なー」

「ううう、言葉は通じないけど……と、とにかく、私の感情くらい読み取ってよ!?お願いだからね!ポン」

「なー」

通じるわけがないが……叱る以外に、自分のすべき事が見つからない。
このナンパ猫をとにかくどうにかしなければ。とにかく、お母さんに報告しておこう。

私は……とにかく『怒っているぞ!』という態度をポンに見せながら、民宿の方へと歩いていった。

――

「ああ、ポンの愛人……じゃなくて、愛猫ね。知ってる知ってる」

母親の意外な言葉に私は驚く。

「知ってたの!?なんで止めないのよーお母さん」

「止めるもなにも、こっちの言葉通じないしね。別に民宿を住処にしてるワケじゃないみたいだし、いいんじゃない?」

「いいのかなー……。このままじゃココ、ポンのハーレムになっちゃうかもよ?」

「あはは、いいかもね。猫好きのお客さん喜ぶかも」

「猫嫌いのお客さんも世の中にはいるんだよお母さん……。とにかく、どうにかしないとかもまずいかもしれないよ?」

お母さんは人差し指を顎に当てて考えているが……それが真剣に考えているワケでないのは、娘の私にはすぐに分かる。

「まあさ、そうなったらそうなったでさ。今のところは猫数匹が休憩場所として家の庭に住み着いてるだけなんだし。民宿の方に近づいてるわけじゃないから、許しとこうよ」

「んー……。まぁ、それはそうだけど……」

「目くじら立てなくても、ポンはポンなりに民宿のコト考えてると思うよ。ニンゲン付き合いは豊富なんだろうしさ、アイツ」

「……」

あのおっとりした表情の年寄猫だからなぁ……。なんだか本当にそういう、許容される程度のバランスを考えて行動している気がしないでもないのが怖いところだ。

お母さんは私にそう言うと、何事もなかったかのようにジャガイモの皮を包丁で剥きはじめ、夕食の準備を続けた。
私もそれに続いてエプロンの紐をしめ、ジャガイモを手に取る。

「野良猫なんだし、大丈夫大丈夫。案外、いなくなる時はあっさりいなくなっちゃうかもしれないし、ね」

「……いなくなる、かぁ」

仮に追い出したとして。
 
……人間に捨てられたポンを、また、追い出す……。

なんだかそれはとても非情な気がする……。

そう思ってしまうのも、ポンの計算の内なのだろうか?

――
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