57 / 80
五章『ムークラウドの街の いへん』
五十四話『イオットの村の まほうつかい』
しおりを挟む――― …
先ほどまで居た岩場から、丘を下り… 草原の中に窪地のようにへこんだ部分がある。
それに囲まれるように、イオットの村は存在した。
木の柵で周りを囲んだその村はあまり大きな村ではなく、古いレンガ造りの家々が10か20棟あるくらいの集落と言ったほうがよさそうな場所。
のどかな田舎の風景はなんとも牧歌的で、見るものを郷愁へ誘う。
「… ん?」
俺は村の外から、木の柵にくくりつけられている何かアクセサリーのようなものを見つける。
何かの紋章を象ったような、木で出来たアクセサリー。よく見ると、文字のようなものがそのアクセサリーにびっしりと書かれている。
目を凝らしてみると、湯気のような白く透明な煙が上へと無限に立ち上っていく。手に取ると仄かに暖かい。
「これは…魔力。なるほど、これがこの村が視認出来ない理由か」
村を囲む木の柵のあちこちにこのアクセサリーが取り付けてあった。これがどうやら結界の役割をしていて、魔力の低いものを寄せ付けない理由らしい。
流石は魔法使いの村、といったところか。
「カエデ、村が見える?」
「… … … 全然見えないです…」
もう村の入り口の目の前まで来ているというのに、カエデは目を細めて辺りをキョロキョロと見回していた。
さっき戦った盗賊がたどり着けないワケだ。広大な草原の中にある、この小さな村。見えなければぶつかる事すらできないだろう。
俺は柵と同じように木で出来た門に近づく。左右に開く門に鍵はかかっておらず、引っ張るだけで簡単に開いた。
「ここが入り口みたいだな。カエデ、俺のあとについてきて」
「は、はい」
俺の後ろにぴったりとカエデがくっついて、村の中へ足を踏み入れてみる。
「!!! み、見えました! スゴイ!急に目の前に、村が…! 魔法みたいです!」
結界の中に入れば、カエデにも村が視認できたらしい。魔法みたい、というが… 魔法だよ、コレ。
カエデからしてみたら急に目の前に村が出てきたようなものだから、そりゃあびっくりするだろうな。仕切りに耳を動かしながら、辺りの様子を伺っている。
村の中に、人はいなかった。
しかし家の煙突から煙があがっている様子を見るに、人の気配は感じられる。
外は冬に近い。おそらく煙突から上がっているのは暖炉とかの炎の煙。つまり家の中に人が居るという事だ。
しかし、柵に囲まれた村の中には驚くほど人がいない。
何かの露店らしいテントのような建物の店先にも人は存在しなかった。
どうやら酪農もしているらしく、牛に似た3本角の生物がムシャムシャと枯草を食べている。どうやら今しがた餌をもらったようだ。…なのに、その餌を与えた人がいない。
まるで村の人すべてが忽然と姿を消してしまったように。
「… … … 人、いないですね。なんだか怖いです」
カエデも同じ事を思っているらしい。確かに、不気味だ。
俺もカエデも、自分の武器に手をかけて辺りを警戒するように見ながら、村の中央部に歩んでいく。
本当に、ここに悠希と敬一郎は居るのだろうか?
そんな疑問を抱きはじめた時――― …
「 !!! 」
一瞬の出来事だった。
紫色のフードを目深く被った人が… 俺とカエデの目の前に、まるで瞬間移動のように現れた。
「な…ッ!?」
驚いてカタナを抜こうとするカエデの手元に、その人物の樫の大杖が素早く振り下ろされた。カタナの柄に手をかけたカエデは、それで動きを止められてしまう。
「あ…!」
「遅いね。アタシに動きを止められるようじゃ、まだまだ鍛錬不足だよ。獣人のお嬢ちゃん」
アタシ。
フードを深く被った人物は、どうやら女性らしい。背丈は俺より少し低いくらいだが… 発せられる不気味な威圧感に俺もカエデも気圧されてしまう。
その女性は、フードの中から青色の瞳をギラリと覗かせて、俺を見据えた。
「結界の中に入ってくる客人は久しぶりだ。前に来たヤツは村に来た盗賊だったが… その日のうちに始末してやった」
「炎の魔法でステーキにされるか、氷の魔法でアイスクリームにされるか。好きな方を選びな、ボク」
ボク。 …お、俺の事か。
俺はその女性の威圧に負けずに答えようとする。
「ま、待ってください。俺は盗賊じゃありません。この村に用があってきたんです」
「へえ。どんな?」
「…この村に、俺の友人が居るハズなんです。俺達はそれを尋ねにきただけです」
「… … …」
俺のその言葉に、女性は自分が被っていたフードを後ろに捲る。
金色の髪を後ろで結わっている、青眼のポニーテールの女性はにっこりと俺に微笑んだ。
…俺やカエデよりは年上。だが… 若い。こんな人が、さっきまでのただならぬ威圧感を放っていたのか。
女性はカエデの手を止めていた樫の杖をゆっくり上げると… 肩でその大きな杖を担いだ。
上目遣いにじーっと俺の方を観察しながら… ゆっくりと、後ろへ下がっていく。
そしてその女性は、言った。
「友人。 … ケーイチローと、ユウキの事だね」
「!!! や、やっぱりこの村にいるんですね!」
その事実を口にしたのを、しっかりと俺は聞いた。安堵で顔がついにやける。
だが女性は… 杖を俺の方へ構えて、笑顔のまま俺達を睨みつけていた。
「ああ。この村で匿っているよ。何日か前の話だ」
「そ、その2人に会いにきたんです。お願いです、何処にいるのか教えてください!」
「勿論だ。 …その前に、少しだけ… 試したい事があるんだ。 マコト」
! 俺の名前を…!
それに驚いている間に、女性はなにやらブツブツと言葉を口にしていた。
「――― 地と風の精霊に命ずる。地を汚す者への粛清を――― 風を妨げる者への裁きを―――」
「――― 我に力を与えよ。我にその使いを与えよ。 我が魔力を代償に、我に力を――――」
「… あれは…魔法の詠唱です! マコトさん!」
カエデが警戒をしてカタナを構えながら、慌てて俺に言う。
女性を見ると… 地面についた杖を軸に、魔法陣のような大きな紋章が、光って浮き上がっている。
魔法使いの村。 そしてコイツは… この村の、番人…!?
「――― 精霊の使い… ウイスプよ。我が敵を排除せよ。 我が名は―――」
「――― 大魔導士、ルーティアなり ―――!!!」
ルーティア。
そう自分の名を言った瞬間 その杖の先から、光弾が発射され… 俺とカエデの方へ勢いよく迫ってくる!
ドッヂボールくらいの大きさの光弾が、3つ。
よく見るとそれは単なるボールではない。
白い光の玉には瞳があり… 牙がある。それは光弾ではなく、ルーティアが召喚した、ウイスプという魔法生物だった。
ウイスプはあっという間に俺とカエデの方の眼前に近づく。
そして口を開けると… 大きな口を開く。 どうやら噛み付こうという魂胆らしい。
その光輝く牙が、俺の肩口に突き刺さろうとする瞬間―――
「 ――― 聖なる結界 ッ !! 」
ルーティアと同じように。
俺の周りにも、地面に魔法陣が展開される。
一瞬。 俺の結界から発せられる聖なる光が、3匹のウイスプを、浄化させた。
肩口に触れたウイスプの牙も、掻き消える。
「! … 光魔法…!しかも、こんな強力な結界を、一瞬で…!?」」
俺の魔法にルーティアはたじろいで、一歩後退する。
新しいスキル。思わぬところで試す事になったが… どうやらこういう場面に有効らしいな。
召喚魔法の生物に有効かどうかや、一発で仕留められるかが賭けだったが… うまくいった。
… 内心、びびって足が細かく震えているのは内緒だ。
「す、スゴイですマコトさん…!3匹同時に片付ける魔法を持っているなんて…!! さすがはマコトさんです!!!」
カエデが俺の方をまたキラキラと見つめていた。恥ずかしい。
赤面しているので俺はカエデの方をなるべく見ないようにして、ルーティアの方向に銀の杖を構えた。
「さあ、どうする、ルーティア… だっけ? 戦いを続けるか?俺達は戦うつもりはないが、どうしてもと言うのなら…!」
「… … …」
ルーティアは俯いて肩を震わせる。
それは、俺達に怯えているワケではなく…。
大笑いをするためだったらしい。
「あっはっは!! こりゃ驚いた!ユウキとケーイチローの仲間なだけはあるね! コレなら安心して2人を引き渡せるよ!」
それは、先ほどまでの殺気に満ちた魔法使いではなく… 単純に楽しそうに、そして嬉しそうに笑う、女性の顔だった。
俺もカエデも、そのルーティアの様子にポカンと口を開けて眺めていた。
そしてルーティアは、自分の後ろの家屋に向けて、大声で言った。
「ユウキ!ケーイチロー! よく分かった、出てきて構わないよ!」
「え…?」
レンガの家の木の扉が、勢いよく開く。
中から、2人の人物が飛び出て、俺に近づいてきた。
黒髪のショートカットの、小さな女の子。
小太りでドタドタと走る、男。
「センパーーイ!!」
「真ーーッ!! この野郎、無事にしてたかーーッ!!」
「あ… … …」
俺の瞳に、涙が自然と溢れた。
俺も、その2人の元へ駆け寄った。
長谷川悠希。
浅岡敬一郎。
そして俺… 名雲真は。
何日かぶりに、再会を果たしたのだった。
――― …
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる