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一話 灼熱の龍泉《スーパー銭湯》
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「……」
王と話をした日の、翌日。
ルーティアは城前の噴水広場のベンチに座っていた。
「鎧以外の服着るの、久しぶりだな」
王からの命令を受け、ルーティアは此処にいる。
「明日一日、しっかりとお休みとってもらうからね!休みの日の過ごし方もしっかり学んでくるように」
「ワシと仲がいい者に色々休日の過ごし方教えてもらうから。しっかり身体と心の休め方を理解してくるように……そうだな、午前10時に噴水広場で待ってて!先方にもそう伝えておく」
「あ、鎧とか着て行っちゃダメだよ!休日なんだから……。え?鎧とジャージ以外持ってない?んーー……し、城の者に適当な服用意させるからそれ着ていきなさい!」
「とにかく、命令!明日はしっかり休んでくるんだよ!ルーティア!」
王の侍女が、昨日のうちにルーティアのサイズに合う衣類を選び買ってきてくれた。
白のTシャツと藍色のジーンズ。その上に淡い緑のニットカーディガンを羽織る。
無難なチョイスではあったが、長身でスタイルの良いルーティアは何を着てもモデルのように映える。本人にその自覚はないが、噴水広場を行き交う人々の注目の的になっていた。
スタイルの良さもさることながら、それだけではない。
王国の英雄であるルーティア・フォエルの存在を知る者は多い。
先日の邪龍討伐戦、城への帰還の凱旋パレードも華やかに行われ、その先頭に立ったのがルーティアであった。
そのルーティアが、今日はラフな格好で噴水広場のベンチに座っている。
先ほどから何人にも声をかけられ、サインや握手をねだられている。
無難にルーティアは応じていたが、本人に有名人や英雄である意識というのは全く無い。
ただただ、ルーティアは命令に従っているだけだった。
王から言われた、午前10時に噴水広場で人を待て、という命令を。
「あの」
また一人。ルーティアの前に人が現れる。
大きな黒の魔術帽を深く被り、黒のコートに身を包んだ小柄な女性。黒髪の奥に眼鏡がキラリと光った。
いかにも魔術師、といった怪しい風貌の女性。
「ん?どうした?サインか、握手か?」
またか、とルーティアは思い、その人物に声をかける。
しかし、魔術師の女性はブルブルと大きな帽子を横に振る。
「あの……ルーティア・フォエルさんですよね。騎士団の」
「ああ、そうだが。何か用か?」
魔術師の女性はそれを聞くと、ベンチに座るルーティアの前に跪く。
「お、おい……?」
「王の命令で参りました、城の者です。今日は騎士・ルーティア様の休日の過ごし方についてアドバイスしろとの事で馳せ参じました」
「え……じゃ、じゃあまさか……貴方が王からの紹介で……?」
王が言っていた『仲のいい者』。
想像していた人物は貴族の婦人や金持ちを想像していたが……。
声色から察するに、自分と同じくらいの年齢の女性。
思ってもいなかった人物に、ルーティアは驚く。
女性は、帽子をスッと上にあげてルーティアの顔を見上げた。
「わたくし、王国魔術団に所属しております……マリル・クロスフィールドと申します。よろしくお願いします、ルーティア様」
黒髪のショートカット。眼鏡をかけた小柄な女性……マリルは、自信ありげな笑みをにっこりと浮かべた。
――
心地よい日差しと春風の吹きこむ、春の城下町。
街路樹は静かに揺れ、用水路の水音が心地の良いリズムを奏でるように水音を鳴らす。
休日や祝日でない今日は人々の出も疎らで、広い大通りをマリルとルーティアはすいすいと進んでいく。
「やー、いい天気で良かったですよー。折角のお休みの日なのに曇天じゃたまったもんじゃありませんからねー」
マリル、と名乗る王国魔術団の女性。
ルーティアの所属する王国騎士団と同じく、国の防衛に携わる部署の一つだ。
先日の邪龍討伐戦でも魔術団の魔法攻撃があったからこそ龍を弱体化でき、騎士団の侵攻がスムーズに進んだ事があった。
何人かはルーティアの見知った魔術師もいる筈だが……ルーティアは、このマリルという女性を知らなかった。
王と親しい間柄の魔術師など、国内で有名であっても不思議ではないのに……。
「なあ、マリル殿」
「あ、マリルでいいですよ。王からフランクに接するように言われてるし、アタシも自己紹介以外は肩の力抜いてますからー」
「……う、うむ……。では、マリル……。貴方は、王と仲がいいと聞いているのだが、どのような関係でいるのだ?」
「ふっふっふ。まあ……色々ありまして、ね。まあその話はまた後々。今日は王の命令で休暇とってるんでしょ?アタシはそのサポートするように言われてるんで。まったりいきましょ、ルーティアさん」
……なにか、重大な秘密でもあるのだろうか?とりあえず今は、王とマリルの関係については聞きだせそうにない様子だった。
……しかし、王は何が目的でこの女性と休暇を……?
考え事をしているルーティアの横にマリルが歩みを緩めて近づいてくる。
「ルーティアさん、先日の邪龍討伐戦、すごい活躍だったんですねー。若いのに……おいくつなんですか?」
「あ、ああ……。今年で24になるな」
「若っ。アタシなんかもう27ですよー。いいなー」
「3つしか違わないじゃないか」
「いえいえ。25過ぎてるか過ぎてないかで大分違いますから、色々。手前に三十路が近づいてるとホント、色々……」
マリルの顔がどんどん絶望色に染まっていく。
「あ、じゃあ年上ついでに。アタシもため口でいい?立場的にはルーティアさんの方が上なんだけど、なんかややこしいしさ。お互いため口。どう?」
「か、構わないが……」
「うん、ありがと。じゃあルーティアさんも堅苦しいサムライ言葉みたいなのやめて普通に話してくれていいからね、アタシといる時は」
「あ、ああ……。すまん、癖で……」
「いいのいいの。……むふふ、国の有名人がアタシといる時だけ……。なんか興奮するなぁ、へへへへ」
今度はマリルの顔が赤らんで興奮してきている。……なんなんだ、この魔術師は。ますますルーティアは自分の隣にいる女性の王国での立ち位置が分からなくなる。
……兎に角。
聞いておかなければいけない事がある。
ルーティアは一つ咳払いをして、マリルに尋ねた。
「それで……マリル。今日は、これからどこに行くんだ?」
「……ふっふっふ」
その質問を待っていた、とばかりにマリルは立ち止まる。
かと思うと歩みを進めてルーティアの前に立ち、腕を腰に回して堂々と言い放った。
「これから行くところ……それは……。 『スーパー銭湯』 です!!!」
「…… すーぱー…… せんとう?」
聞き慣れない言葉に、ルーティアの目は点になった。
――
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