最強の女騎士さんは、休みの日の過ごし方を知りたい。

ろうでい

文字の大きさ
15 / 122
二話 食神の酒宴《居酒屋》

(6)

しおりを挟む

――

「かんぱーい」

店の雰囲気に合わせるように、二人は静かにグラスを合わせる。
周りの客たちもそういった空気を自然と感じているようで、談笑をしてはいるが決して大声で騒いでいる者はいない。
料理に舌鼓をうち、酒に気持ちよく酔う。
店内は珍しい酒瓶をインテリアのように飾り、淡い暖色の照明が薄明るい程度に室内を照らす。

「んー、甘くておいしい。これは山ウドのお通しもすすむな」

「いや、それカルーアミルクだよね、ルーちゃん。まあ、いいんだけどさ」

なんでもいいと言った手前、ルーティアの酒の食い合わせに突っ込めないでいるマリルだった。

「さてっと、それじゃあお料理頼み始めるかねー。なにからいこうか」

マリルはテーブルの中央にメニュー表を広げて注文の作戦を組み立て始める。

「騎士団の食事も美味しくはあるが、栄養バランスがどうので好みのものを頼めなくてな……。なあマリル、なんでも頼んでいいのか?」

「もちろん。へへ、ルーちゃんがどんなもの好きなのか見てみたいしね」

「よ、よし……。なんでも頼んでいいんだな、ふふふふ……」

騎士団のエースの好物、というのはマリルも興味があるようで少しワクワクしながらルーティアの言葉を待った。
なんでも食べていい、という状況に興奮したルーティアは、少し赤い顔でにやけながら言う。

「それじゃあまずは、ポテトサラダ!」

「おー、いいね。居酒屋の定番だね」

「次に、ポテトフライ!」

「うんうん、揚げ物もいいねー。ビールがすすむよー」

「あと、卵焼き!」

「お、意外なところ。〆っぽいけど、こういうところの卵焼きはダシが効いてておいしそう!」

「それと、唐揚げ!あと……たこ焼き!」

「うんうん、定番…… ん?」

「あとデザートに自家製プリン!」

「お子様ランチかな?」

とはいえ……幼い頃から騎士団の栄養食に近いメニューばかり食べていたら、好きなものが子どもっぽくなるのもなんとなく頷けるマリルだった。

「マリルはなにを頼むんだ?」

「そうだなー。山ウドがこんなに美味しかったし、季節ものがやっぱり美味しいんじゃないかな。という事で……アタシは、こっちから」

マリルはメニュー表とは別の『季節のメニュー』という小さな紙をテーブルの端に発見して、中央に置く。

「まずはおつまみで……菜の花のおひたし。揚げ物でタラの芽の天ぷら。……お、刺身も美味しそうだねー。アジとタイ……あとカツオもたたきで頼んじゃおっかなー、むふふふ」

「な、なんだか、すごいな。大人って感じだ」

「ふふふふ……ビール飲んだら次は芋焼酎で攻めるのがアタシのスタイルなの。こういう春の味覚と合わせるとたまらなく美味しいのよねー」

「うむ……。それじゃあ、注文するか」

「オッケー。 すいませーん、注文お願いしまーす!」

マリルがカウンターに声をかけると、別の客に料理を運んでいた先ほどの女性が「はーい!少々お待ちくださーい!」と明るく返答した。

「あ、ルーちゃん。今日はアタシのおごりだから、たくさん食べてね」

「え……いいのか?さっき言ったの全部頼むと結構するぞ?」

「いーのいーの。今日は前回の温泉と違って、アタシに付き合ってもらってるんだから。その代わり……次に居酒屋にくる時も、よろしくね?」

「……マリル」

にひひ、と笑うマリルに、ルーティアは親友としての友情と、頼れる姉のような心強さを感じた。

…………。

先ほど、詰所で見た正座をするマリルの姿は、忘れるように努力しよう。
忘れられないと思うけど。

そう思う、ルーティアであった。

――

一時間と、少し時間が過ぎ。

ほどよく酔いがルーティアとマリルにまわる。
甘くてアルコールの味が弱いカルーアミルクやバナナミルクのお酒にルーティアはつい注文を繰り返してしまい、かつてないほど顔を赤くしている。
ビール、芋焼酎の水割り、ハイボールなど料理に合わせて酒を変えて飲んでいるマリルも流石に酔って目が座っている状況だ。

料理が美味しいからこそ、酒がすすむ。
春野菜や山菜の料理はどれも外れがなく、香ばしく、優しく口の中に入る。特にこの店の天ぷらは絶品で、タラの芽以外にもふきのとうやウド、みょうがなどどれも最高に美味しかった。
奥で調理をしている旦那さんの腕がいいのだろう。揚げ加減が絶妙で、それは定番メニューである唐揚げやポテトフライも同じだった。
ありきたりなメニューでもどこかスパイスが効いていたり、カリカリさが段違いだったりと驚くべき美味しさが出ている。
基本を知る者が全てを制する。季節のメニューが強い店は、普通のメニューでも強いのだ。
元から体力をつけるために食べる量が人並み以上のルーティアは、次々と皿の上の料理を残さず食べていく。

そんな様子を見ていて、先ほどの女性店員……女将さんはクス、と笑いながら次の料理のちくわの磯部揚げと焼きそばを持ってきた。

「たくさん食べていただいてありがとうございます」

女将さんの言葉に、ルーティアは酔った以上に顔を赤くした。

「すまん。美味しくてつい」

「そんな。綺麗に食べてくださるのでとっても嬉しいです。本当にありがとうございます」

「うむ、御馳走になっている」

店内の様子も少し落ち着いたようで、女将さんも少しゆっくりした動きでテーブルの上の空いた皿をトレイに乗せていった。

「このお店は、ご夫婦でやられているんですか?」

マリルが聞くと、女将さんはにっこりと頷いた。

「はい。まだオープンしてそんなに経っていないので不慣れな点が多いのですが、夫婦で経営しています。あの、お味、どうでしたか?」

「最高です最高です。値段もリーズナブルだし、こんなお店が城下町に潜んでいたなんて思いもしませんでしたよ、ありがとうございました」

「よかったー。主人が料理を担当しているのですけれど、こんな風にお料理の感想いただけそうな方にお声がけできるのはこちらも幸いです。本当にありがとうございます」

そんな会話を交わしながら、段々とこの店と交流を深めていく夜。


暖かく、和やかに。

酒と美味しい料理と雰囲気が織りなす、素敵な金曜日の夜。

明日が休み、というのはこんなにも気持ちが軽やかでゆったりと時間を楽しめるものなのだな、とルーティアは思うのであった。


ささやかな二人の宴も終わり、テーブルを立つ時マリルがそっとルーティアに呟いた。

「リピート確定だね、ここ」

「ああ、そうだな」

――
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...