118 / 122
最終章 明日へ
(14)
しおりを挟む――
ランディルは、地面に横たわったまま動けないでいる。
「ら……ランディルッ!」
だがリーシャの呼びかけに、ぴくり、と身体が痙攣するように動いた。
「う、う……ぐ…… だ、大丈夫、だ……」
「……チッ。防御魔法が間に合ったか。だが、ダメージは相当入った筈だ。しばらくは動けなかろう?」
残念そうに舌打ちをするドラクであったが、すぐにその表情を余裕のある笑みへと変える。
再び両拳に魔法の光を宿し、ゆっくりと一歩、ランディルの方へ前進する。
「……む?」
「…… 通さないわよ……」
リーシャは、立ち上がる。自分の後ろにいる、ランディル。そして更に後ろにあるオキト城を守るために、剣を前に構えて立ち上がった。
「いい加減、餓鬼は引っ込んでいろ。リーシャ・アーレイン……貴様の実力で俺に敵わない事は理解できた筈だ。次は……命を奪うぞ」
「……」
深く、息を吸う。
思い出すのは、昨日感じた恐怖。自分が守らなくてはいけない人々と、国。
思い出すのは、仲間達の存在。自分の掛け替えのない大切な者達。
思い出すのは、自分が戦ってきたもの。強くならなければいけない、最強であらねばいけないと信じてここまできた、道のり。
そしてリーシャは、翡翠色の美しい目を見開いてドラクを見る。
その顔に、恐怖はない。怒りも、憎しみも、悲しみも存在しない。
ただあるのは、この場に立ち続けるという確固たる意志だけだった。
「ここに、立ち続けられなかった……。その後悔をするのであれば、死んだ方がマシよ」
「……なんだと」
「わたしがここまで生きてきた意味は、ここに立ち続け、守るべきものを守るためにある。ランディルも、わたしも…… 守るべきもののために、アンタと戦っている。その意志は……決して負けない」
「先ほども言った筈だ。守るべきもののために戦うなどというくだらぬ情は、弱さを生むだけだ。真の強さは……」
ドラクは右拳を前に突き出し、恫喝するような声で言い放った。
「執念の炎に焼かれてこそ、得られるものなのだッ!!
しかし、地面を震わせるようなその声にも、リーシャは怖じ気づかない。
むしろ、微笑みを浮かべて彼女は静かに言い返した。
「強さ…… そんなものは、必要ないわ」
「……なにぃ?」
「わたしはただ、ここに立って、アンタを倒して…… いつも通りの日常に帰りたいだけ。見栄も、プライドも、理想も必要ない。…… ただ全力で、戦うだけよ」
「それは、単なる自暴自棄だ。それではこの俺は倒せぬ」
「……いいえ、勝つわ。 ……守るべきもののために戦って、そして、勝つ。全力で戦ってそれを信じ抜く。……わたしが今することは…… それだけよ」
後退も、逃走もしない。
剣を構えたまま一歩、ドラクの方へ前進する女騎士に、ドラクは口元を歪ませた。
「……いいだろう。 貴様のその信念と、俺の執念。どちらが強いか…… 決着をつけよう」
「…………」
リーシャは一瞬、瞳を閉じる。そして、思いを、言葉にして浮かべる。
(……みんな、ありがとう。……もしも、もしもわたしがいなくなっちゃったら、ごめんね。……でも、本当に……楽しかった。嬉しかった。……出来れば、もっともっとそんな日々が続いて欲しいけれど…… もしも……)
そして再び、目を開けた。
薄い笑みを浮かべながら、剣先を相手に向けて構えをとった。
ドラクが構え、こちらへ駆け出す準備をした。
リーシャは、魔装石を捻る準備をする。
――三十秒。もしもその効果時間で決着がつかなければ…… 待っているのは、死であろう。
しかし、ここに立ち続け散っていけるのなら…… 誰かを守るために散っていけるのなら。案外それは、悪くないのかもしれない。
そんなことを少女は考えて、覚悟を決めた。
――勝負が、決する。
二人がそれを思った時。
それを中断したのは、老年の男の声であった。
「しばし待てい!!」
「!!」
「……!!オキト国王…… くくく。覚悟を決めて首を差し出す気になったのか」
正門から現れたのは、オキト国王であった。
門の前に仁王立ちをし、腕組みをしてふんぞり返るその姿は国王の威厳というより山賊団の大将のようでもある。
口をへの字に曲げて髭を逆立て、言葉を放った。
「リーシャ!ランディル! ようこの場を守ってくれた!……いや、今オキト城で戦う全ての者達よ!本当に感謝をしているッ!!」
王は、精一杯の大声で城壁付近で戦う全ての兵達に告げるように叫んだ。
「そなた達は、国のために全力で戦ってくれた!だからワシも…… この首を差し出すつもりで、敵大将の前へ出るッ!!戦っているのは、そなた達だけではない!!ワシも……一緒じゃ!!」
「とち狂ったかオキト国王! その首を掻っ捌けば俺の勝ちだ!こんな小娘など、瞬きする間に消してくれる!!」
戦闘が中断されたのも束の間。再びランディルは邪悪な笑みを浮かべて、全身に魔力を宿す。
リーシャを倒せば、目の前の正門には国王の首があるのだ。ドラクにとっては、願ってもいない好機であろう。
――だが、リーシャは確信した。
わざわざ国王がこんな風に前に出てくるということは――。
その予感は、的中した。オキト国王はにやり、と笑って右手を前に突き出した。
「戦うのはワシだけではない!! …… さあ。やっておしまい!!我が国最強の、女騎士よおーーーッ!!」
その声と共に、国王の背後から前方宙返りをして跳んでくる、影。
空中で回転をして地面に着地し、リーシャの隣に滑り込んでくるその影に…… リーシャは微笑み、ドラクは驚愕した。
「な……」
「…… 遅いわよ。ったく……わたし一人で片付けようとしていたところなのに」
リーシャの強がりに、隣にきたもう一人の女騎士は微笑んだ。
「 おいしいところを一人で持っていかれはしないぞ 」
ルーティア・フォエルは不敵に笑い、剣を鞘から引き抜いた。
――
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる