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お茶会
しおりを挟むあれからドロボーニャさまは、夜の12時を迎える手前で突然、ガラスの靴を履いてくるのを忘れた、と叫ばれて帰っていってしまわれましたの。
ガラスの靴って、ガラスでできている靴なのかしら。履けるのかしら。想像するぶんにはお洒落ですけど、履きたいとは思えませんわね。
「今日出会ったドロボーニャという女性は大層に面白い人でしたね。我々の周りにはいないタイプの人だ」
夜風に吹かれながら窓際に佇むマジマンジ皇太子さまが、ふと思い出し笑いなさいました。
珍しいですわ、皇太子さまがこのような笑顔をされるなんて。これはもしかして、早くも良い方向に事が進みましたかしら。
美しいお顔がそのように微笑まれますと、うっとりしてしまいますの。わたくし本当に美というものが好きみたいですわ。
「そうですわね。近いうちに、お茶会にお呼びしましょうかしら」
「それはいい。きっと賑やかな会になるでしょう」
本来でしたらわたくしども高位貴族の茶会に呼ばれても、恐縮して辞退するのがあたりまえですけど、あの方ならきっと二つ返事でお越しになりますわね。
それでは次のセッティングをさっそく急ぐといたしましょうか。
やはり二つ返事でお越しくださいました。
わたくしの取り巻きなどは、遠慮のないドロボーニャさまに眉をひそめておりますけども、ここは招待しましたホスト側として、それなりにおもてなししなくてはなりません。
「ようこそお越しくださいました。お伺いしておりましたお好きなお飲みものをご用意いたしましたの。お気に召しますように」
「ありがとうございます!!」
ま、あいかわらず威勢の良い…失礼、華やかなお人柄ですこと。
「こんなお茶会に来れるなんて夢みたいです!!」
あら可愛いことをおっしゃるではございませんか。
「あ、これ、後で持って帰ってもいいですかー?」
ドロボーニャさまがそう言ってひょいとお取りになった物は、なんと飾り用のフルーツでした。
バスケットにたっぷりと盛ってあるこれらは、デコレーションなだけあってたしかに美味しそうでございますけども、鮮度のほどは心配ですわ……
「あの、ドロボーニャさま、」
「まあ宜しいんでありませんの」
つと横合いからそんなふうに声を出しましたのは、わたくしの取り巻きの中でも最も忠臣であるモブージョ。
ちなみに彼女の弟の、モブーナンも常に別室に控えております。
「宜しいとは……?」
おもわず聞いてしまったわたくしに、モブージョは深々と会釈してからこう申しました。
「ドロボーニャさまの御口になら、きっと合いますわ。なんなら、全て差し上げてはいかがでしょう」
あら、まあ。
「嬉しい!こんな美味しそうなの全部もらっていいんですか!」
仕方ありませんわね。たとえ飾りであっても鮮度の落ちたものを使っていたなんて、知られてしまっては我が家の恥ですもの。おなかが緩くなってしまわれるかもしれませんから…なんていまさら皆様の前で止められなくてよ。
鮮度が悪いことを知っておりますのは、わたくしや家の者以外には、この場ではモブージョくらいですし。
もとはといえば、ドロボーニャさまが不躾にもその辺の物の持ち帰りを希望なさったからですし。
あら、けっこうわたくしも悪役令嬢という冠が似合ってきましたかしらね。
おほほほほ。
お茶会はそれから何事もなく終わりましたの。
お茶をひっかけてさしあげてもよかったのですけど、もう悪役行為でしたら先程ので済んでしまっておりますので、今回はそれで終わりにしたいと思いまして。
そういくつも一度に悪い事をしては、怖がって近寄られなくなってしまいそうですし。それでは困りますもの、わたくしは乙ゲーのシナリオ通りに婚約破棄していただきたいのですから。
数日後、陰での調査によれば、やはりドロボーニャさまはお腹を下してしまわれたようでした。
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