14 / 23
告白
しおりを挟むどういうことでしょうか。わたくしの胸はかつてないほどぎゅうぎゅうに締めつけられております。
水浸しになったせいで、コルセットが水の重みで胸を締めているのでしょうか。いいえ、もうすこし胸の奥が痛いのです。
いったいこれは何でしょうか。
「ダリ―ナ、聞いてますか。いまここで誓ってくれ」
わたくしは強く抱きしめられました。ああ、皆さまがまわりにいるというのに。ふたりとも水浸しだというのに。
「マジマンジさま…お離しください…」
「離しません」
「わたくしは…誓えないのです」
「それは何故ですか」
「何故って…」
ここで正直に洗いざらい言ってしまったら、どうなるのでしょうか。
いくらなんでも自由になりたいからだなんて理由まで告げてしまえば、家名断絶は免れないでしょうか。いえ、婚約破棄を申し出たわたくしに対して、まだこんなにレディーファーストで大切にしてくださるマジマンジさまならば、きっと大丈夫でございますわよね。
「どうかお許しください。わたくしは、元々…王妃になりたくはないのでございます」
どうしましょう。強く抱きしめられているというのに、なんだか体が震えてまいりました。口にした言葉の重みをわたくしはきっといまさら感じているのですわ。
この十七年間をむげにするような言葉を口にしたこと……
ですけどおかしいですわ、もうずっと無意識に心に鬱積してきた願いですし、前世を思い出してからのここ最近ははっきりと願って願ってどうしようもなかったことです。
それなのに、言葉に出してしまったら、あらためてこの願いの恐ろしさを思い知らされた気分でございます。
これが言霊というものなのでしょうか。
「ダリ―ナ…理由を聞かせてはもらえないか」
やはりお優しい貴方は、怒ってはおられないのですね。それはそれは静かにお尋ねになられたマジマンジさまへ、わたくしは顔を上げました。きっと感情まみれの、見せてはいけない顔です。それでもわたくしはあえて上げました。
初めてご覧にいれたせいでしょうか。マジマンジさまの宝石のような瞳は大きく開かれました。
「そんなに辛い理由があるのですか…」
マジマンジさまのお言葉で、わたくしがいま辛い顔をしているらしいことは存じました。
そうですわね……たしかに胸が張り裂けそうに辛うございます。
「ダリ―ナ、それは君が私とは結婚したくないということか」
「ちがいます!」
わたくしは咄嗟に答えておりました。つくろったわけではございません。考えるよりも先に言葉が心から飛び出しておりました。ええ、決してわたくしはマジマンジさまと結婚したくないわけではないのですわ。それは事実でございます。
「では何故」
「…自由が欲しいのです」
もう隠すことなどありません。すべてぶちまけてしまうしかありません。
わたくしはまっすぐにマジマンジさまを見つめました。
「疲れてしまいましたの。…このようなことは望んではいけないと存じております。生まれながらに王妃になるべき宿命と、わたくし自身へ言い聞かせて過ごして参りました。選択の自由など無いのだと」
ああ、どうしましょう。涙があふれてまいりました。
「ダリ―ナ…」
「でも本当は、…なりた…くない……」
声が詰まります。うまく言葉になりません。泣きながら話そうとすると、こんなふうになるのですね。
ああきっとわたくしは世にも醜い顔になっていることでしょう。
「こん…なわたくしの、ことなど、不敬罪に処して、くださいませ」
とうとう、しゃくりあげてまいりました。
今まで物陰にかくれて泣いたことなら何度となくございましたわ。ですが、人前でこうして泣くのは初めてでございます。なんて恥ずかしくて情けなくてどうしようもなく悲しいのでしょう、そして、なんて同じほど、救われるおもいなのでしょう。
こうして、涙をみせてしまえました事に、
マジマンジさまに、苦しいおもいを打ち明けることができました事に。
もう悔いはございません。
「も…うしわけ、ありません」
「ダリ―ナ、」
わたくしは覚悟を決めて、彼の瞳を見つめました。
どんな罪でもわたくし一人にでしたら受け止める所存でございます。
☆ ☆ ☆ ☆
新作『同情の余地なし』を開始しました。
こちらは一転してダークな世界になる予定です。
よろしければ、のぞいてみてください。
0
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!
kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。
絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。
ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。
前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。
チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。
そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・
ユルい設定になっています。
作者の力不足はお許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる