めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

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家族会議

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 「マ…マジマンジ殿下……!」
 まあ、侍従たちが泣き出しそうです。
 彼らの顔を見て、わたくしは流されそうになっていたところを最後の最後でふみとどまりました。
 
 「マジマンジさま、どうかわたくしなんぞのためにそのようなご決断をなさらないでくださいませ」
 
 「ダリ―ナ、君が幸せになれないのなら、この結婚に何の意味がありますか」
 
 あ、また胸が。マジマンジさまの御言葉はなんという威力でございますの。
 
 「それに弟は次期国王として申し分ない。ならば何の問題がありますか。弟が嫌がるなら話は別だが」
 マジマンジさまは侍従たちを見渡しました。
 「大体おまえたちは、国王の座は我が弟には分不相応だとでも申されるか」
 
 「そ、そのようなことは滅相も…!」
 侍従たちが慌ててございます。侍従たちが気の毒ですわ。そんなふうに言われては反対できなくなるに決まっているではございませんか。
 
 マジマンジさまは本当にお心を決めてしまわれたご様子です。
 
 わたくしは……同じのようでございます。
 
 ええ。覚悟ができましたわ。手をとって引っ張ってくださったこの方のおかげでございましょう。
 
 
 「さあそうと決まれば、みな、急いで帰るぞ!出でよトンカツ!」
 
 ボボンと泡が弾けて大きな紫の竜が召喚されました。マジマンジさまのペットでございます。
 「みな、乗りたまえ」
 マジマンジさまのご命令に合わせて、トンカツが長いしっぽをわたくしどもの前に差し出してきました。
 
 「マ、マジマンジ殿下のペット様に乗せていただくなどとんでもないことでございます!」
 「いいから乗りたまえ。飛んで帰りたくてしかたないのだ」
 ええ、文字どおり飛んで帰るおつもりなのでしょう。竜はこの世で最速でございますし。
 
 ……あ。
 いけません。これまでの衝撃ですっかりヒロインの存在を失念しておりました。
 
 わたくしがドロボーニャさまのほうへ顔を向けると、ドロボーニャさまはまたも目をひん剥いてトンカツを見上げてらっしゃいました。
 竜をペット化できる人はそうおりません。今回はひん剥いてらっしゃるのもうなずけます。
 
 わたくしの視線を追ってマジマンジさまがドロボーニャさまを向かれました。
 「ドロボーニャも乗ってください」
 ドロボーニャさまははっと我に返ったご様子で急いでこちらへ歩んでこられました。
 
 それにしましても、わたくしどもがこうなった以上、マジマンジさまはドロボーニャさまの攻略対象ではなかったということになりますわね。ドロボーニャさまはいったいどなたを攻略対象にお選びになってらっしゃるのでしょうか。
 
 これではドロボーニャさまはただの水浸し損です。腹くだし損でもいらっしゃいます。ロールペーパー取られ損と、麗しい殿方の流してないもの見ちゃった損でもございますわ。なにか他にもありそうでございますけど。
 
 これはお詫びとして、なんとしてもこの先、全力でドロボーニャさまの恋の応援をしなくてはなりませぬ。
 
 
 ああ……しかしわたくし目下の問題としてどうしたらよろしいのでしょうか。この胸の破裂しそうな動悸が止まりません。きっとマジマンジさまがわたくしの肩を抱き寄せてらっしゃるせいですわ。
 このように支えてくださらずとも、飛行中は風よけの竜のひげのおかげで体が飛ばされてしまうなんてことございませんのに。そんなことマジマンジさまが一番おわかりなはず。
 
 「ダリ―ナ」
 マジマンジさまがすぐお近くでわたくしの名をお呼びになります。
 本当にどういたしましょう、もうわたくしの胸は許容オーバーを迎えてございます。
 
 「君をかならず幸せにします」
 
 ええ。只今リミッターを振り切りました。









 両家、顔をつきあわせての家族会議が開かれました。
 
 「全然いいっすよ」
 
 マジマンジさまの弟君が、じつに気さくな御返事をなさいました。
 一年の三分の二を下町でお過ごしになる弟君は、お言葉遣いがすっかり“板” についてございます。
 
 「いいよね、父さんも」
 
 ですが弟君がいくらそうお答えくださったとて、さすがに王様がうんとおっしゃるはずがございませんわ。

 「うん」
 
 え
 
 そんな国王様。
 
 そ、そうでしたわ、国王様もお若いころはよく町へ御出になってらしたのだと伺ったことがございましたわ。弟君の気さくなご性格は国王様ゆずりでおわしました。
 
 「母さんもいいんでしょ?」
 
 「もちろんですわよ。おふたりの素敵な結婚式が楽しめれば形など何だって宜しいのですわ。ああついに秒読みなのね。ほんとうに嬉しいわ」
 
 王妃さま、顔を合わせるたびに結婚式が楽しみねと社交辞令のように仰ってらしただけかと思ってましたのに。どんだけパーリーピーポーでいらっしゃいますの。
 
 「ほら、父さんも母さんもいいと言ってるんだし。義姉さんの父さん母さんがうんと言ってあげなくてどうするのさ」

 はい。この場で最後まで渋っております勢力は、わたくしの父母でございました。
 
 弟君から促されて、父上母上は大変に困ったお顔をなさいました。
 
 当然でございますわね。
 長女のわたくしを国に恥じない立派な王妃に育て上げるべく、心血を注いでこられたのですから。まるで全てが無駄となった気分になるのは、わたくし本人だけではありませんよね。
 
 ああ、ほんとうにわたくしのわがままでこのような事態になって、いまさらわたくしの心は怯えておりますわ。
 
 ですけどどうしてでしょうね。申し訳ないおもいと同じほど、わたくしはやはりどうしても、わたくしの生きる道はもうわたくしが選びたいと強く願ってしまうのです。
 
 
 「申し訳ありません、お父様お母様」
 
 わたくしはこの場で初めて口を開きました。いつまでも怯えているだけではいけません。
 きちんと向き合わなくてはなりませんわ。これは、誰のものでもない、わたくしの人生の選択でございます。
 
 「どうかわがままをお許しください。わたくしは、……王妃の道ではない道をゆきたく存じます」
 
 深く深く頭を下げました。
 やっとお二人へおもいを口にすることができ、胸を強くこみあげるものがございました。さきほどの破裂しそうな、いえ破裂した胸のおもいとも、どこか似てございます。
 
 
 「ダリ―ナが意見を言うなんて……初めてですね」

 母上が重たい口を開きました。
 
 「そうでしょ、あなた」
 
 「……そうだな」
 
 父上の重たい声が返事をしました。顔を上げたわたくしに、父上が向き合います。
 
 「おまえの口からきちんと聞けたのだ。もう我々が止めることはない。おまえが幸せになる道を選びなさい」
 
 
 わたくしは驚いて目を見開いてしまいました。

 
 しばらく言葉が出てまいりませんでしたかわりに、気がつけば、涙が幾すじも流れ出ておりました。
 


 
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