能力が『勇者をしじする者』の僕なのですが、勇者パーティをクビになりました!

トリノ

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森の守護者

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「マリーナ!!」

 キングオークとの戦闘を終えたオリトはマリーナのもとに走った。マリーナはラーナに支えられた状態でぐったりとしている。

「かなり弱くだけど息はしているわ…でも…」

 ラーナはマリーナに視線を落とす。ラーナの視線を辿るとマリーナの背中にたどり着く。その背中はおそらく内出血であろうか、赤黒く染まっている。

「……ポーションも飲ませたけど効果は薄いみたい…」

「マリーナ…」

 マリーナの肩が小さく上下している。息は細く弱い。おそらくもう時間の問題だ。

「僕はどうしたら……」

 オリトが頭を抱えていると、

『………彼女を助けたいですか?』

とどこかから声が聞こえた。オリトは顔を上げ、声の主を探す。付近を見渡しても誰もいない。幻聴かと疑うがどうやらラーナにも聞こえていたようだ。

「どなたかは分かりませんが、マリーナを助けられるんですか?」

 オリトは見つからない声の主に問いかける。

『……私なら助けることができます。あなたが望むのであれば』

 姿は見えないがたしかに返答があった。不安はあったが、オリトにもラーナにもマリーナを助ける手立てがもうない。だったら…とオリトは決心し

「彼女を…マリーナを助けてください!!僕たちには彼女が必要なんです!」

 と叫んだ。

『分かりました。では』

 その声とともにマリーナの横に女性が現れ、マリーナに触れる。するとマリーナの体が光り始め、赤黒かった背中が徐々に肌色に戻り始めた。呼吸も正常になっている。

「……すごい…」

 ラーナがつぶやく。実際に女性がマリーナに触れてほんの数秒のことだった。オリトも目の前の光景を信じることが出来なかった。そして治療を終えたのか女性はマリーナの側から離れた。

「これでもう大丈夫でしょう。あとは目を覚ますのを待つだけです」

「あ、ありがとうございます!」

「構いませんよ。私は勇者を助けることが使命ですから」

(勇者…?)

「勇者はあなたですね?」

 彼女はオリトを見てそう言った。

「え、僕?違いますよ?」

「……え?違うのですか?」

「はい。僕は勇者ではありません」

「でもその剣は勇者装備ですよね…?その剣を使ってキングオークと戦ってましたよね…?」

「そうですけど…僕は間違いなく勇者ではないです。能力は『勇者をしじする者』ですから」

「………そうなのですか」

「なんか…すみません…」

「いえ…それにしても不思議なことですね。勇者にしか使えない勇者装備を扱える者がいるなんて…」

 そう言ってオリトを不思議そうな顔で見つめる。そうしていると、

「……ん…オリト?」

とマリーナが目を覚ました。

「マリーナ!よかった!目が覚めたんだね!体は大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫よ。なにが…いや私背後からオークに殴られて…そこまでは覚えてるんだけど…その後どうなったのかしら?」

「かなり危ない状態だったんだよ…だけどこの人がマリーナを助けてくれたんだ!」

 マリーナは女性を見る。そして

「ア、アナスタ様!?」

 マリーナは驚きの声を上げた。

「マリーナ知り合いなの?」

 オリトはマリーナに尋ねる。

「…オリト、カイザールのパーティにいた時から思っていたけど…少しものを知らなさすぎるわよ…」

 はぁとため息をついたマリーナ。

「私も知らないのだけど」

 ラーナもそう言う。

「……まぁ、ラーナさんはずっと森の中で暮らしていたのだから仕方がない…かな」

 そう言いながらも頭を抱えるマリーナ。

「…アナスタ様は先代勇者パーティメンバーの1人よ…そういえば分かるかしら?」

「…え?ほんとに?」

「はい、私はアナスタです。先代勇者のパーティメンバーにして、解散後はこの森の守護者をしています」




「…すいませんでした!知らないとか言って!!」

 オリトはアナスタにスライディング土下座をする。それはもうおでこで地面を割るかのような勢いと気迫で…

「いえいえお気になさらないでください。先代勇者が魔王を倒したのは今から100年以上も前のことになるのですから」

 そう言ってアナスタは優しく微笑んでいる。優しい方だ。

「それに…私勇者パーティの中では影薄い方でしたから…あんまり目立ってないですし…」

 微笑みに影がある。やはり少し気にしているようだ。アナスタはコホンと咳払いをして

「それはさておき、オリトさん…でしたか?少し私のお願いを聞いてもらえませんか?」

とオリト達に切り出した。

「はい!もちろんです!」

 オリトの返事を確認したアナスタは

「ではオリトさん、私が保有している勇者装備を使用してみてもらえませんか?」

とオリトに言った。
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