12 / 18
勇者の腕輪
しおりを挟む「アナスタさん勇者装備持ってるんですか!?」
「もちろん持ってますよ。先代勇者は次の世代の勇者のためにパーティメンバーとお世話になった人たちに自分の装備を託したのです。パーティメンバーだった私はこの腕輪を託されました」
そう言ってアナスタは自分の腕につけていた腕輪を取り、オリトに差し出した。
「私がつけていても全く効果はありません。なにせこれは勇者にしか使えない装備ですから」
「でもさっきも言ったけど僕は勇者じゃないよ?」
「分かっています。ですが先ほどキングオークと戦っていた時、あなたが持つ勇者の剣の力が発動されているのを私は確実に見ました。だから私はあなたにこの腕輪を使ってみてほしいのです。発動してもしなくてもいいのです。ただ試して見てほしいのです」
「……じゃあお借りしますね」
そう言ってオリトはアナスタから腕輪を受け取り自分の腕につけた。しかし何も起きない。
「……やっぱり反応しないね」
「そうですか…ではなぜ剣の方は力を使えたのでしょうか…?」
アナスタさんがうーんと首を傾げる。それを僕に聞かれてもな…と思っていると、
「ねぇ、オリト。あなた今能力使ってないよね?」
とラーナが言った。
「ああ!そうだった!忘れてたよ…」
自分の能力を忘れるのもどうかと思うのだが、オリトは勇者化の能力を発動した。
すると腕輪が光始めた。
「反応しましたね。しかし不思議なものですね…能力が『勇者をしじする者』…私も長年生きていますが、聞いたことがありません。もしかしたらあなたは勇者になれる素質を持った人間だったのかもしれませんね」
アナスタさんは不思議そうにオリトを見つめる。
「オリトさん、その腕輪はあなたに託します。あなたならこの腕輪を使いこなせるでしょう。それに……今のあなたはまだ未完成といいますか…正直に言うと弱いです。キングオークに苦戦するようでは勇者として魔王を倒すことはできませんから」
なかなか辛辣なことを言うアナスタだったが、実際にその通りなのだ。
「ありがたく受け取ります。僕はもっと強くなります!仲間を守れるように!」
「期待していますオリトさん。また困ったことがあればここに来てくださいね。力になれることがあれば協力しますから」
アナスタはそう言うとオリト達の目の前から姿を消した。
「じゃあ街に帰ろうか」
そう言ってオリト達は街に向かって歩き始めた。
仲間の危機はあったものの、先代勇者の仲間と出会い新たな力を手にオリト達の冒険は続く。
◇◆◇◆
一方その頃カイザール一行はエルフの森からホームタウンに戻ってオリト達を探していた。
「くそっ!あいつらどこ行ったんだよ!」
ギルドに行ってもオリトのことは誰も教えてくれないし、俺たちがいた宿にもいない。
「ねー、カイザール。オリト探しはやめてクエスト受けにゃい?ネコルもう飽きたにゃ」
「あ?ふざけんなよ。あいつは俺の武器を持って逃げてんだぞ?奪い返さないといけないだろうが!」
カイザールはオリトがエルフの聖剣を持って立ち去っていることに腹を立てている。
「もう違う街に行ったとは考えられませんか?もう森での一件から3日経っていますし」
メイアがそう言うと
「なんで誰もオリトを見ていないんだよ!クソが!」
カイザールは酒場の椅子を蹴飛ばした。椅子は壁にぶつかり壊れる。
「………おい、ガキ。何してくれやがる」
ドスの効いた声で店主がカイザール近づいていく。
「あぁ?俺のやることに文句あるってのか?俺は勇者だぞ?俺がやることは全て正義なんだよ。わかったか?」
「………は、笑わせんな。お前みたいなヒョロガキが勇者だと?お前みたいなのは愚か者って言うんだよ」
「なんだと!?お前勇者に逆らうとどうなるか分かったんだろうな?」
「………どうなるってんだ?」
「なら教えてる!!後悔すんなよ!!」
カイザールは剣を抜き、店主に斬りかかる。
「………ふんっ!」
店主は縦に振り下ろされたカイザールの剣をサイドステップでかわし、そのままカイザールの腹部に拳を突き出した。
「グボァァッ!!」
カイザールは椅子と同じ軌道で吹き飛び、壁にぶつかりその場に落ちる。
「………ヒョロガキが。その程度で勇者名乗ってんじゃねえぞ。分かったら金払ってさっさと出て行け」
店主はカウンターに戻っていった。
「か、かっこいいニャー!!」
壁にぶつかり気絶しているカイザールのことなど目もくれず、ネコルは店主を見て飛び跳ねている。
「決めたニャ!私あの店主に弟子入りするニャー!!」
「ちょっとネコル!あなたまで抜けたら私とカイザールだけになってしまうではありませんか!?」
「そんなの関係ないニャ!魔王を倒すための冒険に出ないパーティにいても意味がニャいからニャ!おやじさーん私を弟子にして下さいニャー!」
そう言ってネコルは店主のもとに走っていった。
「………俺は弟子はとらんぞ?」
「そこをなんとか頼むニャ…私魔王を倒すために強くなりたいんだニャ…」
「………お前さん本気で魔王を倒したいのか?」
「当たり前ニャ!私の住んでいたところは魔王の手下に滅ぼされたニャ。だから生き残った私が魔王を倒さなきゃならないのニャ!」
「………いい目をしてんじゃねーか。気に入った。お前をヒョロガキのもとに置いておくのはもったいない。弟子にするからには店の手伝いはしてもらうぞ?」
「分かったニャ!よろしくお願いしますニャ!私はネコルって言うニャ」
「………そうかい、じゃあネコル。最初の仕事だ。あのヒョロガキを店から放り出せ。金はちゃんと受け取ってからな…」
「分かりましたニャ!」
ネコルはカイザールの懐から金が入った袋を取り出し、店主に渡した。店主はそこから酒代を取り、再びネコルに袋を返した。
そしてネコルはカイザールをヒョイっと担ぎ入口から外に放り投げた。
カイザールはゴロゴロと転がり溝にはまって止まった。
「私も教会に戻ろうかな…」
メイアは天井を見上げそう呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる