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第3章:こえにならないきもち
11話:クマが「なにもできない」気持ちに向き合う
しおりを挟むのなかに、小さな木のいえがある。
そこはクマのモコのいえ。
ふかふかの毛布と、大きなまくらと、甘いはちみつのにおいがする、やさしい場所。
けれど今、モコの胸のなかは、ちっともやさしくなかった。
「……ルル、今日も来なかったなあ」
ぽつりと、声がこぼれる。
いつもなら顔を出してくれる時間。
でも、きのうも、きょうも、ルルは来なかった。
モコは、ぎゅっと手をにぎった。
(なにかしてあげたい。でも……なにをしたらいいのか、わかんないや)
ソラみたいに上手に話せるわけでも、かっこいいことが言えるわけでもない。
モコはただ、大きな手で、ハチミツのびんを持って立ちつくしていた。
「どうして、こんなに……なにもできないんだろう」
――とつぜん、思い出した。
小さなころ、モコが木の上から落ちて、ひざをすりむいて泣いたとき。
だれかが、そっととなりにすわってくれた。
なにも言わずに、ただずっといてくれた。
そのときのあたたかさが、ずっとモコの中に残っていた。
(あれ……あのとき、なにがうれしかったんだっけ……)
答えは、ひとつだった。
なにもできないと思っていたその人が、「いてくれた」こと。
それだけで、ちゃんと心があたたかくなったこと。
(ぼくも……ルルのそばに、いよう)
なにか特別なことはできなくてもいい。
しずかに、そばにいて。
ルルが「だいじょうぶ」って言える日まで、となりにいよう。
モコは、ハチミツのびんを持ったまま、小道を歩きだした。
すこし大きすぎる足あとが、ふかふかの土に残っていく。
それは、やさしさのかたちを探しながら進む足あとだった。
木の間から、こぼれた光がぽつり、ぽつりと落ちていた。
くろいはこのそばに、小さなぬくもりが寄りそっていく――そんな、昼下がりの森。
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