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第3章:こえにならないきもち
第10話:「キツネが昔のことを思い出す」
しおりを挟む森に、小さな風がふいた。
けれどそれは、葉っぱを揺らすほどの強さはなくて、ただ静かに、通りすぎるだけの風だった。
キツネのソラは、森のはずれの丘にすわって、遠くを見ていた。
ルルのことを考えていた――いや、ちがう。
「むかしのじぶん」を、思い出していた。
あのころ、ソラは、よく空を見ていた。
なにか言われるのがこわくて、なにか言うのもこわくて。
ちいさな胸にいっぱい詰めこんだ「なんでもないよ」の言葉で、たくさんのことを見えないふりをしていた。
ほんとうは、くろいはこがずっしり重くなっていたのに。
でも、ある日――
「ソラ、ひとりでいるのがすきなんだね」
そう言って、そばにすわってくれた誰かがいた。
それだけのことだったのに、そのひとことが、ずっと心に残っている。
「ひとりでいるのがすき」――ほんとうはちがう。
でもその言葉は、「きみのこと、ちゃんと見てるよ」っていう目印のようで。
その人は、なにも聞かなかった。ただ一緒にいてくれた。
それだけで、涙が出そうになった。
(……ルルも、今、そんな気持ちなのかもしれないな)
ソラは、静かに目を閉じた。
くろいはこって、不思議だ。
中身が言葉にならないときほど、重くて、冷たい。
でも――となりに誰かがいると、少しだけあたたかくなる。
「ことばがないなら、ことばがないままで……そばにいよう」
ソラは、ゆっくり立ち上がった。
丘の下に見える小道の先――その先に、ルルの家がある。
足もとはまだ湿っていて、ところどころぬかるんでいる。
でも、もうためらわなかった。
あのとき、だれかがくれたやさしさを、
今度は、自分が――だれかに渡す番だと思ったから。
森に、小さな光がひとすじ、差しこんだ。
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