黒い箱と白い箱

キユサピ

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第3章:こえにならないきもち

第9話: ルルの心の中にある言えない想い

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森に、ひとしずくの静けさが落ちていました。
まるで、風まで遠慮しているみたいに。

ルルは、小道のはしをゆっくり歩いていました。
草のにおい、鳥の声、光のやさしさ──
どれも好きなはずなのに、今日はなんだか、
全部が遠くにあるような気がしました。


「おはよう、ルル!」

クマのモコがにこにこしながら近づいてきます。
うしろには、キツネのソラもいました。

ルルは、いつものように口をひらこうとしました。
けれど、声が、うまく出ません。

「……」

小さな笑顔だけで、なんとかこたえると、ふたりはそれでもうれしそうに笑ってくれました。
その笑顔が、ルルにはちょっとまぶしくて、
胸の奥がぎゅっとなりました。


「ルル、なんだかしんどそうだね」
ソラがそっとのぞきこんできました。

「えっ……ちがうよ。だいじょうぶ。ほんとに」

言葉は出たけれど、それは自分で聞いても、
どこかうわの空みたいな声でした。

心のなかでは、ちがうことを考えていました。

──だいじょうぶじゃないのに、なんでわたし、うそついちゃうんだろう。
──ほんとはきいてほしいのに、なんで言えないんだろう。


その日の午後、ルルはひとりで、森の大きな木の根元に座っていました。
葉っぱの影がゆれて、あたたかくて、
本当なら気持ちのいい場所でした。

でも今日は、うまく深呼吸ができませんでした。

「さみしい」と言いたくて、
「こわい」と伝えたくて、
「つらいよ」って誰かにふれてほしかった。

だけど、それを言うための言葉が、
どこにも見つかりませんでした。


ルルは、そっと胸のなかの「しろいはこ」をのぞいてみました。

そこには、細くて小さな光が、
まだ、ゆれて残っていました。

「……よかった。消えてない」

声にできないきもちが、胸のなかで静かに眠っているようでした。
でも、いつか、ちゃんと話せるといいな。
そんなことを思いながら、目をとじました。


「ルルー!」

遠くから、ソラの声が聞こえてきました。

──でも、今日は立ち上がれませんでした。
胸がいっぱいで、動けなかったのです。

そのとき。

ルルの「くろいはこ」が、
そっと、ぽとりと涙をこぼしました。

誰にも見えないその涙が、
森の土に、しずかにしみこんでいきました。


空には、うすい雲がゆっくりと流れていました。
ルルの気持ちも、まだどこかをさまよっているようでした。

でもその雲のむこうでは、
しろい光が、かすかにきらめいていたのです。
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