黒い箱と白い箱

キユサピ

文字の大きさ
24 / 32
第6章:わけあうこころ

第24話「くろいはこの中にあるもの」

しおりを挟む
ルルは、ひとりで森のはずれにいました。
その手には、“くろいはこ”が抱えられています。

ふたを開けることは、ずっとこわかった。
見てしまったら、なにもかも、壊れてしまいそうだったから。

でも――
今なら、少しだけ見てみようと思える。

それは、“みんなといる時間”が、ルルの心に、
ちいさなあかりをともしてくれたからでした。

「……こわくても、見てみよう」

そっと、ふたを持ち上げた。

中には、たくさんの思いがつまっていました。
泣きたかったのに泣けなかった日。
だれにも言えずにしまった言葉。
笑ってるふりをしたまま、夜になった時間。

「……ああ、これ、わたし……」

ルルは静かに涙をこぼしました。

だけどその涙は、あたたかいものでした。

“くろいはこ”の中にあるものは、
もう見て見ぬふりをしなくてもいい。

それは、過去の自分。
でも、今ここにいる“わたし”が、それを見て、知って、受けとめた。



「ルル!」

森の奥から声がしました。

モコとソラが、はあはあと息を切らして、やってきます。

「ルル、ここにいたんだね!」

「……うん。ちょっと、ひとりになりたくて」

ルルはふたりに、そっと“くろいはこ”を見せました。

「開けたの。中、見てみた」

ソラはびっくりして、モコはゆっくり近づいてきました。

「どうだった?」

「……つらい気持ち、いっぱいだった。でも、
いま見たら、なんだか、“昔の自分”がそこにいて、
“よくがんばったね”って、言いたくなった」

モコはやさしくルルの背中をぽんぽんとたたきました。

「それって、すごいことだよ、ルル。
ぼく、まだ自分のはこを開けるの、こわいもん」

「わたしも。けど、ちょっとだけ、こわくなくなった気がするよ」

ルルは空を見上げます。
さっきまでの涙はもう、乾きはじめていました。

「くろいはこって、わるいものじゃなかったんだね。
ぜんぶしまっておくんじゃなくて、ときどき見て、
“ここまで来たんだな”って思える箱だったのかもしれない」

ソラが笑って、言いました。

「ルルの中に、また“しろいはこ”が増えたね」

その言葉に、ルルは小さくうなずきました。

風がまた、葉っぱを揺らしながら吹き抜けていきました。
“くろいはこ”も、“しろいはこ”も、ルルといっしょにある――
そんなあたたかい風でした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜

上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■ おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。 母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。 今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。 そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。 母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。 とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください! ※フィクションです。 ※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。 皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです! 今後も精進してまいります!

処理中です...