黒い箱と白い箱

キユサピ

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第7章「ルルが笑った日」

第27話「あのとき、言えなかったこと」

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森に、朝の光がゆっくりと降りてきました。
木々の葉が、やさしく風にゆれ、空気の中に小さな光の粒がきらきらと舞っていました。

ルルは、いつもの道を、少しだけ背筋をのばして歩いていました。

遠くで、チクチクが誰かに針の使い方を教えていて、ミオが静かに見守っていました。
そんな様子を見ながら、ルルはふと立ち止まります。

(……わたし、ずっと、だれにも言えなかったことがあるんだ)

それは、小さい頃のこと。
森の奥に、まだ自分だけの「すみか」がなかった頃。

寒い夜に迷って、はじめて“ことば”に出せなかった、あの気持ち。

――「たすけて」って、言えなかった。

“だいじょうぶ”って、だれかに言ってほしかった。
でも……ほんとうは、自分でも言いたかった。
だけど、“だいじょうぶ”って言うのが、こわかった。
言ってしまったら、ほんとうにつらかった気持ちまで、なかったことになってしまいそうで――

そのまま、誰にも会わずに、ただただふるえていた夜。
あのときの“くろいはこ”は、今も、胸の奥で少しだけ重たいまま。

ルルは、木のそばにしゃがみこみ、小さくつぶやきました。

「……だれかに、言えばよかったのかな」

けれど、すぐに首をふります。

「でも、言えなかったんだもん。……こわかったし、声も出なかったし」

――あのとき、言えなかったこと。
それは“まちがい”じゃなくて、“そのときのわたし”にとって大事な「選択」だった。

それを、やっと、わかってあげられた気がしたのです。



その帰り道。

クマのモコとすれちがったとき、ルルは、ふと立ち止まりました。

「モコ……あのね」

モコは、ちょっとびっくりして足を止めました。

「ん? なあに?」

ルルは、ほんの少しだけ、言葉を選びながら言いました。

「もし……わたしが、“だいじょうぶ”って言えない日があったら、となりにいてくれる?」

モコは、にっこり笑って、うなずきました。

「もちろんだよ。となりにいて、“だいじょうぶじゃなくてもだいじょうぶ”って言うよ」

その言葉に、ルルは胸の奥で、ぽろっとなにかがほどけていくのを感じました。

あのとき、言えなかったこと。

でも、今なら――
少しずつ、伝えていけるかもしれない。
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