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第三話『鬼の目にも涙』
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鬼の目にも涙――
どれほど冷酷に見える者でも、
心のどこかに、哀しみの一滴を宿している。
だがその涙は、人前に見せるものではない。
それは、強さの裏に隠された“許されぬ感情”。
泣いてはいけない。
そう自分に言い聞かせて、
人を裁くことを選んだ女がいた。
一|鬼の女
東京地検・第四検察部。
重たい鉄扉の奥。書類の山と疲れた目が交差する昼下がり、綿貫理子は淡々と事件資料に目を通していた。
「これは……窃盗か」
若い検事補が渡したのは、厚みのないファイルだった。
江口達生、25歳。無職。要介護の母と同居。
盗んだのはモルヒネパッチと、近所の無人販売所の米と野菜。金額にして3500円相当。
「……起訴相当。次」
いつもの調子で理子は言い放った。
情など、判断には不要だ。そう信じて、ここまでやってきた。
「“鬼の理子”……さすがだな」
そう囁く同僚の声が聞こえたが、彼女は無表情のままだった。
⸻
二|青年の言葉
数日後、面談室。江口達生が入ってきた。
痩せて、背は曲がり、目は虚ろ。それでも、椅子に座るときだけ、彼は静かに頭を下げた。
「江口達生さん、あなたはモルヒネパッチを……?」
理子が問うと、彼はゆっくりと顔を上げ、答えた。
「……母が……末期がんでした。
骨にまで転移して、夜になると叫ぶんです。痛くて……眠れないって。
でも、薬は限られていて……先生は“次の月まで処方できない”って言うし。
僕は……それでも……何かしたくて……」
理子は黙って聞いていた。
供述の中に情状酌量を探すことはしない。けれど、その目だけは、江口から逸らさなかった。
「お金もなくて……母の世話をしながら働くのは、正直、限界でした。
それでも……米くらいは食べさせたかった。
薬だけは……貼ってあげた夜、母が“ありがとう”って……
それが……最後の言葉でした」
沈黙。
面談室の時計が静かに刻を進めるなか、江口は何も言わず、ただ目を伏せていた。
その沈黙の奥に、言葉よりも雄弁な記憶が、胸の奥に波紋のように広がっていく。
──湯気のたつ味噌汁の匂い。
深夜一時、冷えた台所に差し込む灯りの下で、母は台本のように広げたレシートをにらみつけながら、黙々と帳簿をつけていた。
彼女の指先には絆創膏。洗剤荒れた指を見つけるたびに、胸がつまった。
──運動会の日。
クタクタになって帰ってきた夜勤明けの母が、寝ずに詰めてくれた弁当。
銀色の保冷バッグの中には、ぎゅうぎゅうに詰まった卵焼きと、冷めても柔らかい唐揚げ。
「母ちゃん流のごちそうや」って笑ってたあの顔。
ご飯のすみに、梅干しの代わりに飴玉が入ってたこと、今でも忘れない。
──中学時代、反抗してぶつけた乱暴な言葉。
「うるせえよ、ババア」
翌日、弁当の中に入っていたのは、真っ黒に焦げた卵焼きがひとつ。
何も言わずに差し出されたその弁当を、江口は屋上で抱えて泣いた。
誰にも見せなかったけれど、母には全部伝わっていた気がする。
──誕生日に、ケーキなんて買えないと言いながら焼いてくれたホットケーキ。
真ん中にロウソク一本、ピンと立てて、
「今日は、ちょっと贅沢してもええやろ」
どこか誇らしげで、でも少しだけ申し訳なさそうなその声が、いまも耳の奥で響いている。
──高校を卒業して就職した日。
玄関先で新しい作業服を見せると、母は声も出さずに笑って、肩を抱いてきた。
そのぬくもりが、自分にとって“帰る場所”そのものだった。
──そして、あの夜。
母の手を握りながら、彼女がかすれた声で言った。
「ありがとね……ほんまに、よく頑張ったなぁ……」
あれが、最後だった。
呼吸がゆっくりと細くなっていく中で、母は初めて、安らかな顔をして眠った。
江口は続けるべきか迷ったが、かすれた声で言った。
「……罪だって、わかってました。
でも、あれが母の苦しみを少しでも減らしたと思うと……
それだけは……
“なかったこと”には、したくなくて」
その言葉の奥に、理子の何かが静かに軋んだ。
⸻
三|兄・一真のこと
夜。理子は帰宅し、滅多に開けないクローゼットを開けた。
奥には、兄・綿貫一真の形見がある。彼の死後、一度も触れていなかった小箱。
検察庁の夜は静かだった。
提出された書類の束に囲まれながら、綿貫理子は一人、照明を落とした部屋で机に頬杖をついていた。
江口達生の言葉が、彼の沈黙が、胸の奥で波紋のように広がり続けている。
──それは、忘れかけていた記憶の水面を叩くように。
彼女は思わず、机の引き出しを開ける。
奥から取り出した、小さな木箱。
鍵などかかっていない。けれど、滅多に開けることはない箱。
中にあったのは、一冊の手帳と、黒いリストウォッチ。
そして──兄の遺影の写真だった。
柔らかく笑う、あの人の目元が、今の自分に少し似てきた気がする。
夜の静寂に、思い出が滲み出す。
──小学生の頃。
仕事で疲れきった母が眠っている間、兄はいつも理子の宿題を見てくれた。
「お前はバカだなぁ」と言いつつ、ノートに落書きして笑わせてくれた兄。
帰り道が怖いと泣いた彼女の手を引いて、暗がりで肩車してくれた。
「俺が世界でいちばん信用してるのは、理子だけだぞ」
あの言葉に、子どもだった自分は誇らしくなって、兄の隣を歩く背筋を少し伸ばした。
──中学に上がったころ、母が倒れた。
看病を担ったのは、一真だった。
高校を出てすぐ就職し、家計を支えながらも、妹には進学を選ばせた。
「俺はいい。理子、お前はずっと“自分の頭で戦える人間”になれ」
制服を買うお金もないのに、兄は真夜中の工場バイトで貯めた小銭で入学金を工面した。
理子がそれを知ったのは、ずっとあとになってからだった。
──そして、理子が司法試験に受かった年の春。
駅前で起きた通り魔事件。
兄は駅前で起きた通り魔事件に巻き込まれ、命を落とした。
女性とそのお腹の子を庇って、一真は刃を受けた。
駅前で、誰かの叫び声。走る足音。
血まみれで倒れる兄。
理子は、兄の死に目には会えなかった。
一真は、大学進学を諦めて理子の学費を稼いだ。
夜勤をしながらも、妹にだけは明るく接していた。
「お前が夢を叶えるなら、それでいい。
弁護士になれ、理子。俺が後ろにいるから」
通夜の晩、兄の部屋で見つけた、送られなかった下書きメール。
それが、今も理子の心の奥に残っている。
『司法試験合格おめでとう。理子はもう、自分で歩いていける。俺の出番はそろそろ終わりだな。
それでも、泣いていいときは泣いていい。前を向くことだけは忘れるな。』
涙を必死に堪えた。
泣けば崩れてしまいそうで、泣けば兄をもう一度失ってしまう気がして。
彼女は自分の感情を奥にしまい、代わりに“鬼”になった。
誰も泣かせないために。
誰も無駄死にさせないために
その言葉が、今、江口の言葉と重なっていく。
⸻
四|決断と赦し
翌朝、検察庁。
理子は、会議室にファイルを置いて言った。
「江口達生について、私は起訴猶予を提案します」
ざわめく若手たち。
だが理子は、真っ直ぐ前を見て続けた。
「罪は罪。だが、今回の行為は“人の痛みをどうしても放っておけなかった者”の行動です。
私はそれを、軽視しません。
私がここにいるのは、兄の……誰かの死を無駄にしないためでもあるからです」
それは、検察官・綿貫理子の、初めての“赦し”だった。
⸻
五|涙の夜
夜、自宅の仏壇。兄の写真の前。
理子は、そっと目を閉じてつぶやいた。
「兄さん……ようやく……
あなたの言葉に、追いつけた気がします」
頬を熱いものが伝うのが分かった。
そうして胸の奥が、温かく震えていた。
⸻
翌朝、理子は江口の担当弁護士に、ある書類を手渡した。
それは、示談交渉を前提とした処分保留の可能性を含む意見書。
形式上は淡々とした文面だが、その一字一句に込められた温度は、確かに彼女の中で変わり始めた心の証だった。
「情に流されてはいけない。でも、人を裁くには、人を知らなければならない」
かつて、兄が生前に語っていた言葉が、今になって骨の奥に沁みてくる。
事務所を出た江口達生は、数歩進んで、立ち止まった。
薄曇りの空の下、まだ冷たい風が吹いていたが、彼の足取りはわずかに軽かった。
その背に、理子は静かに目を向ける。
まるで、何かを見届けるように。
人は、誰かを守るために鬼になることがある。
鬼に涙があるとすれば、それは──
一度でも、誰かを深く愛した証だ。
どれほど冷酷に見える者でも、
心のどこかに、哀しみの一滴を宿している。
だがその涙は、人前に見せるものではない。
それは、強さの裏に隠された“許されぬ感情”。
泣いてはいけない。
そう自分に言い聞かせて、
人を裁くことを選んだ女がいた。
一|鬼の女
東京地検・第四検察部。
重たい鉄扉の奥。書類の山と疲れた目が交差する昼下がり、綿貫理子は淡々と事件資料に目を通していた。
「これは……窃盗か」
若い検事補が渡したのは、厚みのないファイルだった。
江口達生、25歳。無職。要介護の母と同居。
盗んだのはモルヒネパッチと、近所の無人販売所の米と野菜。金額にして3500円相当。
「……起訴相当。次」
いつもの調子で理子は言い放った。
情など、判断には不要だ。そう信じて、ここまでやってきた。
「“鬼の理子”……さすがだな」
そう囁く同僚の声が聞こえたが、彼女は無表情のままだった。
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二|青年の言葉
数日後、面談室。江口達生が入ってきた。
痩せて、背は曲がり、目は虚ろ。それでも、椅子に座るときだけ、彼は静かに頭を下げた。
「江口達生さん、あなたはモルヒネパッチを……?」
理子が問うと、彼はゆっくりと顔を上げ、答えた。
「……母が……末期がんでした。
骨にまで転移して、夜になると叫ぶんです。痛くて……眠れないって。
でも、薬は限られていて……先生は“次の月まで処方できない”って言うし。
僕は……それでも……何かしたくて……」
理子は黙って聞いていた。
供述の中に情状酌量を探すことはしない。けれど、その目だけは、江口から逸らさなかった。
「お金もなくて……母の世話をしながら働くのは、正直、限界でした。
それでも……米くらいは食べさせたかった。
薬だけは……貼ってあげた夜、母が“ありがとう”って……
それが……最後の言葉でした」
沈黙。
面談室の時計が静かに刻を進めるなか、江口は何も言わず、ただ目を伏せていた。
その沈黙の奥に、言葉よりも雄弁な記憶が、胸の奥に波紋のように広がっていく。
──湯気のたつ味噌汁の匂い。
深夜一時、冷えた台所に差し込む灯りの下で、母は台本のように広げたレシートをにらみつけながら、黙々と帳簿をつけていた。
彼女の指先には絆創膏。洗剤荒れた指を見つけるたびに、胸がつまった。
──運動会の日。
クタクタになって帰ってきた夜勤明けの母が、寝ずに詰めてくれた弁当。
銀色の保冷バッグの中には、ぎゅうぎゅうに詰まった卵焼きと、冷めても柔らかい唐揚げ。
「母ちゃん流のごちそうや」って笑ってたあの顔。
ご飯のすみに、梅干しの代わりに飴玉が入ってたこと、今でも忘れない。
──中学時代、反抗してぶつけた乱暴な言葉。
「うるせえよ、ババア」
翌日、弁当の中に入っていたのは、真っ黒に焦げた卵焼きがひとつ。
何も言わずに差し出されたその弁当を、江口は屋上で抱えて泣いた。
誰にも見せなかったけれど、母には全部伝わっていた気がする。
──誕生日に、ケーキなんて買えないと言いながら焼いてくれたホットケーキ。
真ん中にロウソク一本、ピンと立てて、
「今日は、ちょっと贅沢してもええやろ」
どこか誇らしげで、でも少しだけ申し訳なさそうなその声が、いまも耳の奥で響いている。
──高校を卒業して就職した日。
玄関先で新しい作業服を見せると、母は声も出さずに笑って、肩を抱いてきた。
そのぬくもりが、自分にとって“帰る場所”そのものだった。
──そして、あの夜。
母の手を握りながら、彼女がかすれた声で言った。
「ありがとね……ほんまに、よく頑張ったなぁ……」
あれが、最後だった。
呼吸がゆっくりと細くなっていく中で、母は初めて、安らかな顔をして眠った。
江口は続けるべきか迷ったが、かすれた声で言った。
「……罪だって、わかってました。
でも、あれが母の苦しみを少しでも減らしたと思うと……
それだけは……
“なかったこと”には、したくなくて」
その言葉の奥に、理子の何かが静かに軋んだ。
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三|兄・一真のこと
夜。理子は帰宅し、滅多に開けないクローゼットを開けた。
奥には、兄・綿貫一真の形見がある。彼の死後、一度も触れていなかった小箱。
検察庁の夜は静かだった。
提出された書類の束に囲まれながら、綿貫理子は一人、照明を落とした部屋で机に頬杖をついていた。
江口達生の言葉が、彼の沈黙が、胸の奥で波紋のように広がり続けている。
──それは、忘れかけていた記憶の水面を叩くように。
彼女は思わず、机の引き出しを開ける。
奥から取り出した、小さな木箱。
鍵などかかっていない。けれど、滅多に開けることはない箱。
中にあったのは、一冊の手帳と、黒いリストウォッチ。
そして──兄の遺影の写真だった。
柔らかく笑う、あの人の目元が、今の自分に少し似てきた気がする。
夜の静寂に、思い出が滲み出す。
──小学生の頃。
仕事で疲れきった母が眠っている間、兄はいつも理子の宿題を見てくれた。
「お前はバカだなぁ」と言いつつ、ノートに落書きして笑わせてくれた兄。
帰り道が怖いと泣いた彼女の手を引いて、暗がりで肩車してくれた。
「俺が世界でいちばん信用してるのは、理子だけだぞ」
あの言葉に、子どもだった自分は誇らしくなって、兄の隣を歩く背筋を少し伸ばした。
──中学に上がったころ、母が倒れた。
看病を担ったのは、一真だった。
高校を出てすぐ就職し、家計を支えながらも、妹には進学を選ばせた。
「俺はいい。理子、お前はずっと“自分の頭で戦える人間”になれ」
制服を買うお金もないのに、兄は真夜中の工場バイトで貯めた小銭で入学金を工面した。
理子がそれを知ったのは、ずっとあとになってからだった。
──そして、理子が司法試験に受かった年の春。
駅前で起きた通り魔事件。
兄は駅前で起きた通り魔事件に巻き込まれ、命を落とした。
女性とそのお腹の子を庇って、一真は刃を受けた。
駅前で、誰かの叫び声。走る足音。
血まみれで倒れる兄。
理子は、兄の死に目には会えなかった。
一真は、大学進学を諦めて理子の学費を稼いだ。
夜勤をしながらも、妹にだけは明るく接していた。
「お前が夢を叶えるなら、それでいい。
弁護士になれ、理子。俺が後ろにいるから」
通夜の晩、兄の部屋で見つけた、送られなかった下書きメール。
それが、今も理子の心の奥に残っている。
『司法試験合格おめでとう。理子はもう、自分で歩いていける。俺の出番はそろそろ終わりだな。
それでも、泣いていいときは泣いていい。前を向くことだけは忘れるな。』
涙を必死に堪えた。
泣けば崩れてしまいそうで、泣けば兄をもう一度失ってしまう気がして。
彼女は自分の感情を奥にしまい、代わりに“鬼”になった。
誰も泣かせないために。
誰も無駄死にさせないために
その言葉が、今、江口の言葉と重なっていく。
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四|決断と赦し
翌朝、検察庁。
理子は、会議室にファイルを置いて言った。
「江口達生について、私は起訴猶予を提案します」
ざわめく若手たち。
だが理子は、真っ直ぐ前を見て続けた。
「罪は罪。だが、今回の行為は“人の痛みをどうしても放っておけなかった者”の行動です。
私はそれを、軽視しません。
私がここにいるのは、兄の……誰かの死を無駄にしないためでもあるからです」
それは、検察官・綿貫理子の、初めての“赦し”だった。
⸻
五|涙の夜
夜、自宅の仏壇。兄の写真の前。
理子は、そっと目を閉じてつぶやいた。
「兄さん……ようやく……
あなたの言葉に、追いつけた気がします」
頬を熱いものが伝うのが分かった。
そうして胸の奥が、温かく震えていた。
⸻
翌朝、理子は江口の担当弁護士に、ある書類を手渡した。
それは、示談交渉を前提とした処分保留の可能性を含む意見書。
形式上は淡々とした文面だが、その一字一句に込められた温度は、確かに彼女の中で変わり始めた心の証だった。
「情に流されてはいけない。でも、人を裁くには、人を知らなければならない」
かつて、兄が生前に語っていた言葉が、今になって骨の奥に沁みてくる。
事務所を出た江口達生は、数歩進んで、立ち止まった。
薄曇りの空の下、まだ冷たい風が吹いていたが、彼の足取りはわずかに軽かった。
その背に、理子は静かに目を向ける。
まるで、何かを見届けるように。
人は、誰かを守るために鬼になることがある。
鬼に涙があるとすれば、それは──
一度でも、誰かを深く愛した証だ。
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