『鬼の袖にも露は降る』

キユサピ

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第十一話『知らぬ仏より馴染みの鬼」

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知らぬ仏より馴染みの鬼」――見知らぬ優しい人よりも、少々怖くても長く付き合った人のほうが安心できる。
人の信頼は、見た目よりも時間と経験で築かれるものだ。


佳奈は商店街のカフェの前で、いつものように八百屋の茂造に声をかけた。
「おはようございます、茂造さん!」
「……おう」
だが彼の顔は渋い。
「邪魔だ、どけ」

「そんなに怖い顔しないでくださいよ」
佳奈が笑いかけると、茂造は短く吐き捨てた。
「ここはな、簡単に変えられるような場所じゃねえんだよ」



ある日、商店街にやってきたのは新しく開業した大型スーパーの店長、宮下だった。
にこやかな笑顔で、店主たちに挨拶して回る。

宮下は佳奈にも明るく声をかけた。
「初めまして。これからお世話になります。何かあればいつでも言ってくださいね」
佳奈はほっとした気持ちで答えた。
「よろしくお願いします」

しかし、数日後、佳奈は商店街の様子が少し変わったことに気づく。



ある晩、佳奈は茂造に声をかけた。
「茂造さん、宮下さんって、すごく感じがいいんですね」
茂造は少し顔をしかめて答えた。
「感じがいいのは仮の顔だ」

佳奈が訝しげに聞く。
「どういうことですか?」

茂造はゆっくりと話し始めた。
「宮下の店、見たか? 表は立派だが、裏では…な」
「裏って?」
「商店街の店を一軒ずつ“高値買い取り”って名目で契約させてる。
だがそれは、じわじわと店を潰して、自分の店だけが残るための策略だ」

佳奈は驚いた。
「そんなことが?」



翌日、佳奈は宮下の店に立ち寄った。
宮下は笑顔で迎えた。
「佳奈さん、商店街の活性化にはみんなで協力しないと」
「でも、茂造さんが言うには、契約は厳しい条件が多いとか」

宮下は眉をひそめた。
「茂造さんは昔気質だから、変化を嫌うだけですよ。時代に合わせないと淘汰されるんです」

佳奈は疑念を抱きつつも、店を出た。



数日後、佳奈は商店街の店主たちが契約書に署名を強要されている場面を目撃した。
不安そうな顔で契約書を眺める年配の店主。

佳奈は茂造の元へ駆け寄った。
「茂造さん、これは一体…?」
「宮下は見知らぬ仏だ。お前みたいな若い子は騙されやすい」



佳奈は商店街の古くからの店主たちと話し合いを持ち、宮下の陰謀を暴く計画を練る。

ある夜、佳奈と茂造は宮下の店の前で張り込みをしていた。
そこには契約書を無理やり押し付けるスタッフの姿が。

茂造はつぶやいた。
「知らぬ仏の顔の下には、こういう鬼の顔があるんだよ」



茂造は手帳を開き、過去に別の町で宮下が同じ手口を使い、商店街を半分潰した新聞記事の切り抜きを見せた。



佳奈と茂造は動いた。
契約を迫られている店主たちを集め、契約書の危険な条項を読み上げて説明した。
「違約金が何百万って…こんなの、首を絞められるようなものじゃないか!」
「表じゃ笑顔、裏じゃ鎖をかける…これが宮下のやり口だ」



決定打は、佳奈が偶然録音した宮下の会話だった。
「半年もすればこの商店街はうちの下請け同然ですよ」
その音声を商店街全体の集会で流すと、店主たちの視線が一斉に宮下に向いた。

「……誤解です」
宮下は笑顔を保とうとしたが、誰も耳を貸さなかった。
茂造が一歩前に出て言った。
「お前にこの街は渡さねえ。ここは俺たちの場所だ」

商店街の全店が契約を破棄。
翌週、宮下は店を畳み、姿を消した。



その日の夕方、佳奈は茂造の店先に立った。
「茂造さん、ありがとうございました」
「礼なんざいらねぇ。俺は俺の店を守っただけだ」
「でも、馴染みの鬼がいてくれて、本当に良かった」
茂造は照れくさそうに笑い、
「これからも鬼でいてやるよ。そっちのほうが信用できるだろ」

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