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第四章: 「破壊の果てに」
第五十二話:「淡い恋心と王の怒り」
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城の大扉が重く閉まると、外の喧騒から一気に静けさが戻った。祭りの太鼓や笛の音は遠く、石造りの廊下にひびくのは自分たちの足音だけ。景嵐は姫の護衛として一歩後ろに付き、目を光らせながらも、城内の静謐さに少し安堵する。
ルシア姫は胸を高鳴らせたまま、廊下の窓から外の広場を振り返る。祭りの灯りはまだ揺れており、色とりどりの屋台や人々の姿が見えた。
「……景嵐様、あの賑わいは、城の外でもこんなに華やかなのでございますか」
「はい、姫様。外の世界は時に危険もございますが、活気に満ちております」
景嵐はいつも通り敬語で答える。言葉は穏やかだが、護衛としての緊張感は途切れない。
姫は窓の外から目を離し、ふと手を止める。
「でも……今日は、城に戻ったばかりなのに……」
廊下の奥から侍女が駆け寄ってきた。息を切らせながら、低く声を震わせる。
「姫様……今夜、陛下より婚約の発表がございます……」
その言葉に、ルシア姫の表情は一瞬で凍った。胸の高鳴りが急に重みを帯び、視線は遠くの景嵐に向かう。護衛として側に立つ彼の姿が、心の中で鮮明に浮かんだ。
「……わたくし……」姫の声は小さく、震えた。手で胸元を押さえ、必死に感情を抑える。
景嵐は穏やかに一歩前に出る。
「姫様、どうか落ち着いてください。何も慌てる必要はございません」
だが、ルシア姫の目には決意と混乱が入り交じっていた。祭りの喧騒に心を踊らせた少女は、今、初めて心の奥に決めた相手との距離を意識せずにはいられなかったのだ。
「……景嵐様、わたくし、どうしてもお伝えしなければなりません。陛下に……わたくしの心に決めた人がいることを……」
廊下の静けさの中、姫の告白はまだ小さく、しかし確かな決意を帯びて響いた。景嵐はそれを受け止め、護衛として微動だにせず、姫の隣に立つ。
ルシア姫は侍女と景嵐に付き添われ、玉座の間へ向かう。扉の向こうに控えるのは、威厳に満ちた父、アルテリス国王。玉座の前に立つ姫の足は微かに震えていたが、決意を隠すことはできなかった。
「父上、少々お時間を……」
姫の声は緊張でかすれながらも、毅然としていた。国王は眉をひそめ、椅子から静かに体を起こす。
「ルシア……どうした。今夜はお前の婚約発表の日であるぞ。何か言うことがあるのか?」
「はい……父上、わたくしには……心に決めた方がおります。どうか、その方を……」
姫は声を震わせながらも、胸の内を吐き出す。景嵐の姿が頭に浮かぶたびに、心臓が速く打った。
国王はしばらく黙って姫を見つめていた。その瞳には驚きと、少しの苛立ちが混じる。
国王はしばらく黙って姫を見つめ、やがて眉をひそめた。
「……なるほど。お前の心はその者にあるのか。しかし、国のための婚約を前にして、そのような告白をするとは……」
少し目を見開き、声に驚きと好奇が混じる。
「その者とは一体誰だ! 何処の何者か、私に言えるのか?」
姫は一瞬、言葉に詰まる。だが、心に決めた人の顔を思い浮かべ、真っ直ぐ国王を見つめて答えた。
「……景嵐様です。城の護衛を務めておられる方です」
国王の表情はさらに強張る。玉座の間に一瞬、静寂が訪れた。
国王は玉座から立ち上がり、手のひらで杖を叩く。
「何だと! お前の心が、護衛の者に! しかも婚約を控えたこの時に――何故、私に黙っておるのだ!」
声は玉座の間に響き渡り、側近たちも息を呑む。
「景嵐だと……城の護衛か。お前の心は、その程度の者に向いておるというのか!」
ルシア姫は怯えながらも、真っ直ぐ国王の目を見つめる。
「はい……でも、父上、私の心は本当です。婚約は国のためかもしれませんが、私の気持ちは……変わりません」
国王の顔は紅潮し、怒りと困惑、戸惑いが入り混じる。玉座の間の空気は張り詰め、誰も口を開けずに見守った。
「父上、どうかお聞きください。私の心は既に……この方以外には向いておりません」
大広間に張り詰めた空気。周囲の廷臣たちは凍りつき、景嵐は思わず目を伏せた。心中、姫の告白に動揺し、どう答えるべきか迷う。
しかし、護衛としての立場を忘れてはならない。深く頭を下げ、声を慎重に選ぶ。
「国王陛下、私にはそのような心は一切ございません。姫様に対しての思いは、忠義と警護のみでございます」
その言葉に、ルシア姫は小さく息をつき、国王も一瞬、怒りを抑えながら景嵐の表情を見た。
「……なるほど。お前の心は忠義にあると……しかし姫の心を惑わせるとは、如何なものか」
姫は小さく息をつき、国王も一瞬、怒りを抑えつつ景嵐の表情を確認する。玉座の間の張り詰めた空気の中で、忠義と感情のせめぎ合いが微かに流れた。
玉座の間でのやり取りが終わると、ルシア姫は小さく震えながらも、誰にも見せない決意を胸に秘め、すぐに部屋へと戻った。廊下を歩く足音は静かで、侍女の呼びかけにも応じず、扉は静かに閉じられる。
景嵐は扉の前に立ち、手を止める。護衛としては当然、姫の安全を最優先にしなければならない。しかし、胸の奥で微かにざわめくものを抑えきれず、視線は姫の部屋に向けられたままだった。
「……姫様、どうか落ち着いてください」
景嵐はそっと声をかける。返事はなく、ただ扉の向こうから、かすかな呼吸だけが伝わってくる。忠義としての護衛の心構えと、姫に対する自分の感情が入り交じり、景嵐の胸は微かに締め付けられた。
──これは、護衛としての忠義だけではない。
思わず自らの心の奥に芽生えつつある感情を自覚する。姫の勇気、無邪気な好奇心、そして弱さを見せる一瞬の表情。すべてが、景嵐の胸に小さな波紋を起こしていた。
景嵐は深く息をつき、己に言い聞かせる。
「……私は、姫様の忠義ある護衛である……それ以上の感情は、決して表に出してはならぬ」
しかし、その言葉を胸の中で繰り返すたび、目の前の扉の向こうで悩み、動揺する姫の姿が鮮明に浮かぶ。景嵐の心は、忠義と芽生えつつある想いの間で揺れ動き、葛藤の火種は確実に燃え始めていた。
城内の廊下には静寂が漂い、遠くの祭りの音も届かない。景嵐はその場に立ち尽くし、扉の向こうで姫が自分の想いを抱え込んでいることを、肌で感じ取っていた。
ルシア姫は胸を高鳴らせたまま、廊下の窓から外の広場を振り返る。祭りの灯りはまだ揺れており、色とりどりの屋台や人々の姿が見えた。
「……景嵐様、あの賑わいは、城の外でもこんなに華やかなのでございますか」
「はい、姫様。外の世界は時に危険もございますが、活気に満ちております」
景嵐はいつも通り敬語で答える。言葉は穏やかだが、護衛としての緊張感は途切れない。
姫は窓の外から目を離し、ふと手を止める。
「でも……今日は、城に戻ったばかりなのに……」
廊下の奥から侍女が駆け寄ってきた。息を切らせながら、低く声を震わせる。
「姫様……今夜、陛下より婚約の発表がございます……」
その言葉に、ルシア姫の表情は一瞬で凍った。胸の高鳴りが急に重みを帯び、視線は遠くの景嵐に向かう。護衛として側に立つ彼の姿が、心の中で鮮明に浮かんだ。
「……わたくし……」姫の声は小さく、震えた。手で胸元を押さえ、必死に感情を抑える。
景嵐は穏やかに一歩前に出る。
「姫様、どうか落ち着いてください。何も慌てる必要はございません」
だが、ルシア姫の目には決意と混乱が入り交じっていた。祭りの喧騒に心を踊らせた少女は、今、初めて心の奥に決めた相手との距離を意識せずにはいられなかったのだ。
「……景嵐様、わたくし、どうしてもお伝えしなければなりません。陛下に……わたくしの心に決めた人がいることを……」
廊下の静けさの中、姫の告白はまだ小さく、しかし確かな決意を帯びて響いた。景嵐はそれを受け止め、護衛として微動だにせず、姫の隣に立つ。
ルシア姫は侍女と景嵐に付き添われ、玉座の間へ向かう。扉の向こうに控えるのは、威厳に満ちた父、アルテリス国王。玉座の前に立つ姫の足は微かに震えていたが、決意を隠すことはできなかった。
「父上、少々お時間を……」
姫の声は緊張でかすれながらも、毅然としていた。国王は眉をひそめ、椅子から静かに体を起こす。
「ルシア……どうした。今夜はお前の婚約発表の日であるぞ。何か言うことがあるのか?」
「はい……父上、わたくしには……心に決めた方がおります。どうか、その方を……」
姫は声を震わせながらも、胸の内を吐き出す。景嵐の姿が頭に浮かぶたびに、心臓が速く打った。
国王はしばらく黙って姫を見つめていた。その瞳には驚きと、少しの苛立ちが混じる。
国王はしばらく黙って姫を見つめ、やがて眉をひそめた。
「……なるほど。お前の心はその者にあるのか。しかし、国のための婚約を前にして、そのような告白をするとは……」
少し目を見開き、声に驚きと好奇が混じる。
「その者とは一体誰だ! 何処の何者か、私に言えるのか?」
姫は一瞬、言葉に詰まる。だが、心に決めた人の顔を思い浮かべ、真っ直ぐ国王を見つめて答えた。
「……景嵐様です。城の護衛を務めておられる方です」
国王の表情はさらに強張る。玉座の間に一瞬、静寂が訪れた。
国王は玉座から立ち上がり、手のひらで杖を叩く。
「何だと! お前の心が、護衛の者に! しかも婚約を控えたこの時に――何故、私に黙っておるのだ!」
声は玉座の間に響き渡り、側近たちも息を呑む。
「景嵐だと……城の護衛か。お前の心は、その程度の者に向いておるというのか!」
ルシア姫は怯えながらも、真っ直ぐ国王の目を見つめる。
「はい……でも、父上、私の心は本当です。婚約は国のためかもしれませんが、私の気持ちは……変わりません」
国王の顔は紅潮し、怒りと困惑、戸惑いが入り混じる。玉座の間の空気は張り詰め、誰も口を開けずに見守った。
「父上、どうかお聞きください。私の心は既に……この方以外には向いておりません」
大広間に張り詰めた空気。周囲の廷臣たちは凍りつき、景嵐は思わず目を伏せた。心中、姫の告白に動揺し、どう答えるべきか迷う。
しかし、護衛としての立場を忘れてはならない。深く頭を下げ、声を慎重に選ぶ。
「国王陛下、私にはそのような心は一切ございません。姫様に対しての思いは、忠義と警護のみでございます」
その言葉に、ルシア姫は小さく息をつき、国王も一瞬、怒りを抑えながら景嵐の表情を見た。
「……なるほど。お前の心は忠義にあると……しかし姫の心を惑わせるとは、如何なものか」
姫は小さく息をつき、国王も一瞬、怒りを抑えつつ景嵐の表情を確認する。玉座の間の張り詰めた空気の中で、忠義と感情のせめぎ合いが微かに流れた。
玉座の間でのやり取りが終わると、ルシア姫は小さく震えながらも、誰にも見せない決意を胸に秘め、すぐに部屋へと戻った。廊下を歩く足音は静かで、侍女の呼びかけにも応じず、扉は静かに閉じられる。
景嵐は扉の前に立ち、手を止める。護衛としては当然、姫の安全を最優先にしなければならない。しかし、胸の奥で微かにざわめくものを抑えきれず、視線は姫の部屋に向けられたままだった。
「……姫様、どうか落ち着いてください」
景嵐はそっと声をかける。返事はなく、ただ扉の向こうから、かすかな呼吸だけが伝わってくる。忠義としての護衛の心構えと、姫に対する自分の感情が入り交じり、景嵐の胸は微かに締め付けられた。
──これは、護衛としての忠義だけではない。
思わず自らの心の奥に芽生えつつある感情を自覚する。姫の勇気、無邪気な好奇心、そして弱さを見せる一瞬の表情。すべてが、景嵐の胸に小さな波紋を起こしていた。
景嵐は深く息をつき、己に言い聞かせる。
「……私は、姫様の忠義ある護衛である……それ以上の感情は、決して表に出してはならぬ」
しかし、その言葉を胸の中で繰り返すたび、目の前の扉の向こうで悩み、動揺する姫の姿が鮮明に浮かぶ。景嵐の心は、忠義と芽生えつつある想いの間で揺れ動き、葛藤の火種は確実に燃え始めていた。
城内の廊下には静寂が漂い、遠くの祭りの音も届かない。景嵐はその場に立ち尽くし、扉の向こうで姫が自分の想いを抱え込んでいることを、肌で感じ取っていた。
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