『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第五章:「魏支国潜入」

第七十二話:「地の底を這う決死行」

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 決死隊は岩壁の裂け目から、ひんやりとした暗闇へと身を滑り込ませた。
 中は湿り気を帯びた細い洞窟で、灯火を掲げれば緑がかった靄がゆらめく。鼻腔を刺す異臭に兵たちは顔をしかめた。

「……天然のガスだな」
藍峯が囁く。「火は絶対に使うな。身を低くして進めば、影響は最小限だ」

 リンは剣を背に回し、岩肌に手をつきながら前進した。決死隊の二十名も、腹を擦りつけるように匍匐して続く。
 息は苦しく、衣は岩に裂かれ、心臓は早鐘を打った。だが誰一人声を上げず、ただ前へ進む。

 やがて空気が僅かに澄み、遠くから冷気を伴った風が吹き込んできた。出口は近い。
 最後の一歩を踏み出した瞬間、視界がぱっと開け、全員が岩穴を抜け出した。

 しかし彼らを待っていたのは、山肌を覆い尽くす再びの猛吹雪だった。
 空からは白い矢のように雪が突き刺さり、轟音とともに風が肉体を削る。

 吹雪の中、決死隊は雪に足を取られながらも山腹を慎重に進む。
 前方に障害はなく、道は一応の踏み固められた獣道のようになっている。しかし視界は悪く、風の音に紛れ、仲間の声も遠くにかき消される。

 リンは先頭で剣を握り、天翔がその横に立つ。藍峯は後方から隊列を確認しつつ、状況を冷静に分析していた。
「雪がここまで強いのはやはり人工的なものだ。禁苑周辺で彼らの仕掛けがあるだろう」
 藍峯の言葉に、リンは力強く頷く。

 後方に目を向けると、案内人が雪の中で足を止め、深々と礼をした。
「ここまで案内できたのは、あなた方の決意と覚悟のおかげです」
 リンは懐から革袋を差し出す。
「これが約束の謝礼だ。命を張ってくれた礼として受け取って欲しい」

 案内人は顔を紅潮させ、礼を重ねてから吹雪の中へと戻っていった。
 決死隊は改めて士気を整え、雪を切り裂くように進む。

 山の中腹に出ると、足元には雪と氷が混ざり合い、転倒の危険も高まった。風に紛れ、岩の隙間から雪煙が舞い上がる。決死隊は互いに声を掛け合い、慎重に進むしかなかった。

 天翔は前方を見据え、低く声をかける。
「油断するな。これから先は、自然であろうと人工であろうと、試練は尽きない」
 リンは小さく頷く。
「理解しています。ここを越えた先に、禁苑の核心がある」

 白い世界の中、二十名の決死隊は互いに距離を保ちつつ進む。雪は容赦なく吹き付けるが、誰一人後退を考えない。
 それぞれの心に、使命と覚悟が刻まれていた。

 吹雪に包まれた山の道を抜け、決死隊は次なる局面へと進む——禁苑の門前へと、徐々に近づいていった。

 白い世界を進む決死隊の目の前に、微かな異様さが現れた。雪煙の奥、岩の隙間に、規則正しい光の点滅や、風に揺れる不自然な動きが見える。

 藍峯が声を潜め、隊に告げる。
「……注意してください。禁苑直前、この辺りに小規模な警戒装置が仕掛けられている可能性があります。幻惑や警告の音波、あるいは毒性ガスの前兆かもしれません」

 リンは剣を握りしめ、視界の先をじっと見つめる。
「ここまで来て、後退は許されない。慎重に、だが一歩ずつ進む」

 天翔は低く息を吐き、肩越しに決死隊を見渡す。
「全員、警戒を怠るな。油断すれば、この先で命を落とすことになる」

 雪と風の音に紛れ、微かな異音が耳に届く。岩陰に潜む影は不気味に揺れ、決死隊の緊張は一層高まった。

 しかし志願した精鋭たちは互いに距離を保ち、息を合わせて歩を進める。
 白銀の嵐の中、決死隊は静かに、しかし確実に禁苑の核心へと歩を進めた。

黒鷹派の精鋭、翠弦が前方を進み、雪に覆われた周囲を注意深く探る。微かな音の変化や、雪の舞い方の異常さに目を光らせ、装置の存在を確認しようとする。

藍峯が小声で報告する。
「雪を作り出す装置が、どこかにあるようです。規模は小さいですが、戦力を削ぐには十分でしょう」

リンが剣を握り直し、天翔に目を向ける。
「天翔殿、先頭を頼みます」

天翔は静かに頷き、決死隊は軽装で雪をかき分けながら進む。翠弦は周囲の変化を見逃さず、隊に小声で指示を送る。

「装置はおそらく禁苑の近くにある。接近しないと破壊は難しい。慎重に、しかし迅速に進め」

吹雪の中、決死隊の士気は高まる。天翔が最前に立ち、リンがその後ろを固める。翠弦は雪煙の中で微細な変化を見逃さず、仲間たちに目配せを送る。

まだ見えぬ禁苑を目指し、決死隊は互いに無言の決意を胸に、さらに山の奥へと踏み込んでいった。


天翔は前を見据え、声を低く響かせた。
「隊列を崩すな。離れれば命取りになるぞ」


その時、雪の中、わずかに金属的な輝きが乱反射する場所を見つけ、装置の存在を確認した。

「ここだ……雪を作り出している装置です」翠弦が低く告げる。

天翔は剣を握り直し、リンが背後から支える。藍峯も武器を構え、慎重に接近する。決死隊は互いに距離を保ち、雪煙を避けながら装置に迫った。

翠弦が装置の構造を見極め、弱点を指し示す。
「ここを狙えば止められる。短時間で破壊可能だ」

天翔が青龍刀を振るうと、雪を吹き上げる装置は砕け散り、猛吹雪の勢いが一気に衰えた。雪煙の中、決死隊は一斉に安堵の息を吐く。

「よし……これで進軍の道が開けた」リンが言い、隊列は再び慎重に前進を始める。

雪は収まったとはいえ油断は禁物だ。決死隊は互いに声を掛け合い、互いの位置を確認しながら、慎重に禁苑へと歩を進めていった。

決死隊は厚く積もった雪をかき分けながら進む。膝まで沈む雪に足を取られつつも、数名の兵が先頭に立ち、後続のために道を切り開く。翠弦は周囲の地形に注意を払い、黒鷹派の数名も慎重に足元を確かめながら進む。

やがて、かき分けた雪の下に不自然な凹みを見つける。雪に覆われているが、規則正しい並びがあり、明らかに人為的な痕跡だった。

「……これは……道の跡か?」翠弦がしゃがみ込んで雪を押しのける。
その下には、古びた木の枠組みが現れた。
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