『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

文字の大きさ
76 / 146
第五章:「魏支国潜入」

第七十五話:「天才科学者不知火」

しおりを挟む
施設の外縁部で待機していたリンたちは、斥候の報告を受けて息を整えながら待った。やがて、低い掛け声とともに複数の影が暗闇から姿を現す。

「お待たせしたな!」

先頭に立つのは、白虎門の精鋭を率いる堂々たる戦士。背には重厚な武具を負い、周囲の空気を震わせるほどの気迫を纏っている。その隣には、朱雀門の若き俊英たち。軽やかな足取りと鋭い視線が、即座に周囲を警戒していた。

「白虎門、十名。朱雀門、八名。精鋭揃いです」
斥候の報告に、天翔が大きく頷く。

「これでようやく戦えるな」
彼の声には、抑えてきた闘志が滲んでいた。

白虎門の隊長がリンに歩み寄る。
「リン殿、我らはあなた方の指示に従おう。この施設の罠と兵士について、すでに把握していると聞いた」

リンは落ち着いた表情で答える。
「潤騎が罠の配置を解析している。藍峯は巡回兵の動きを読み取った。あなた方の突破力と連携があれば、道を切り拓けるはずです」

朱雀門の若き戦士が胸を張る。
「細い通路や狭い空間は我らが先行します。機敏さで道を掃き清めましょう」

全員の視線が集まり、戦力が一つにまとまる。
リンは短く指示を出した。
「では、白虎門は前衛、朱雀門は遊撃。私たちは指揮と補佐に回る。――行こう。ここで立ち止まるわけにはいかない」

暗闇の研究施設に、一行の気配が鋭く広がっていく。
迷宮のような内部を突破するため、ついに戦力は整った。

潤騎は持ち前の技量を存分に発揮していた。
「解除するだけが能じゃねえ。せっかく敵の巣だ、逆に利用してやらなきゃ損だろ」

彼は研究施設の通路や出入り口の死角に、細工した縄罠や仕掛けを次々と設置していく。重力板を外して足場を崩すもの、開閉扉の内側に仕込んだ針の矢、さらには音を誘発する鈴を忍ばせ、巡回兵が足を踏み入れれば即座に警戒が走るような工夫まで。
「これで科学兵士どもも、うかつに動けまい」
にやりと笑い、汗を拭う潤騎。

その間に朱雀門の精鋭たちは、迷宮のような施設内部を軽やかに駆け抜けていた。
「こちらは空き部屋、研究資料はなし」
「次の区画は薬品庫、しかし既に荒らされているな」
小さな足音と短い報告を繰り返し、彼らは蜘蛛のように通路へ散開し、内部の様子を次々と洗い出していく。

やがて、別区画に踏み込んだ白虎門が、その豪腕をもって研究員たちを一網打尽にした。
「動くな!」
低い咆哮とともに武器が振るわれ、机や書架が薙ぎ倒される。抵抗を試みる研究員たちも、白虎門の鉄壁の防御と圧倒的な力の前にひとたまりもない。

「捕らえたぞ!」
白虎門の隊長が研究員を床に押さえ込みながら報告する。その目には、潜入の第一段階を果たした確信が光っていた。

リンは頷き、仲間に告げる。
「よし……情報源は確保した。次は、奥だ」

捕らえられた研究員たちは、白虎門の巨躯の前に震え上がっていた。
一人が代表するように前へ押し出される。まだ若いが、この施設の統括役らしい。

「……お、お前たちは、何者だ……?」
恐怖に引きつった顔を、リンは冷ややかに見据えた。
「それはこちらの台詞だ。お前たちの研究内容と、この施設の責任者について答えろ」

沈黙ののち、研究員は観念したように視線を伏せた。
「……我らの中心に立つのは、不知火(しらぬい)様だ」

その名を聞いた瞬間、藍峯が息を呑んだ。
「やはり……。過去の記録でも幾度かその名を目にしたが、正体はつかめなかった」

研究員は続ける。
「不知火様は、この施設の全てを設計し、兵器開発を統括する天才科学者……しかし……」
口ごもりながら、彼は思いも寄らぬ真実を吐き出した。
「……彼女はまだ十三歳の少女なのです」

その場に一瞬、凍り付いた沈黙が流れた。
リンが目を細める。
「十三歳……?」

藍峯は顔を曇らせ、低く呟いた。
「信じ難いが……なるほど、これまで姿をくらまし続けた理由も見えてきた。天才にして異端……禁苑の要に据えられる所以だろう」

白虎門の隊長は拳を握りしめる。
「子どもが……このような禍々しき研究を主導していると……?」

天翔も唇を固く結んだ。
「あるいは、主導しているのではなく……利用されているのかもしれん」

リンは冷静に頷き、仲間に視線を走らせた。
「いずれにせよ、目指すべきは明らかになった。不知火――その少女に辿り着かねばならない」
研究員の声は震えていた。
「……不知火様は、この禁苑の頭脳。すべての設計を担う天才科学者……ですが……」

彼は唇を噛みしめ、耐えかねるように吐き出す。
「彼女は、十三歳の少女にすぎません。本来ならば、家族と共に平穏に暮らしていたはず……それを魏支国が、その才を奪い、禁苑へと閉じ込めたのです」

沈黙が走った。
朱雀門の若き兵が顔を曇らせる。
「……つまり、彼女は利用されている……?」

研究員は悔恨を滲ませ、うなだれた。
「ええ……逆らえば、私たちも……彼女自身さえも処分される。だから従うしかなかったのです」

藍峯は腕を組み、苦渋の表情を浮かべた。
「十三歳の少女を枷にして、この異形の研究を進めてきたか……魏支国のやり口は卑劣極まるな」

リンは目を伏せ、深く息を吐いた。
「ならば我々の使命は二重となる。不知火を止めること。そして――彼女を、この枷から解き放つことだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...