『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第七章:「帝国の影」

第九十話:「同盟国の議会」

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壯国の首都、議会棟の重厚な扉が開かれると、議員たちは整然と自席についた。石造りの床に響く足音が、今夜の討議の緊張を予告していた。

「魏志国が龍華帝国の属国となる決定を受け、我々はどのような立場を取るべきか――」
議長が厳かな声で切り出す。周囲の議員たちは、黙って耳を傾ける。

「魏志国は同盟国として、我々との関係を重んじてきた。もし彼らが強硬策に出るなら、我々も支援を考慮せねばなるまい」
外交担当の議員が慎重に言葉を選ぶ。壯国としては自国の安全と経済利益も重視し、無条件の介入は避けたい立場だ。

「だが、民意は魏志国支持に傾いている。我々が無関心でいることは、同盟国としての信頼を損ねることになる」
若手議員は強く主張した。彼らは理想主義的で、同盟国の責任を強く意識している。

議会内では意見が二分された。
• 慎重派:「帝国との対立は避けるべきだ。我が国の民と兵力を犠牲にするわけにはいかない」
• 介入支持派:「魏志国を見捨てるわけにはいかない。我々の同盟の価値が問われる時だ」

議論はさらに激化し、外交的リスクや経済的負担、軍事的準備状況まで話題に上った。
「晋平国との協力も視野に入れねばならぬ。我々一国だけでは帝国に太刀打ちできぬ」
老練な議員が重々しく指摘し、晋平国議会との連絡体制を整える提案を行う。

議会は最終的に、魏志国への支援の可否を決するための「調査委員会」を設置することで合意した。委員会は、軍事的・経済的・外交的観点から慎重に判断を下す役割を担うこととなる。

夜が更ける中、議員たちは慎重に書類を整理しつつ、魏志国の未来、そして自国の立場を天秤にかけた。討論の熱は冷めたものの、胸中の緊張は依然として解けず、明日の決定が両国の運命を左右することを誰もが理解していた。

晋平国の議会棟は、壯国のそれとはまた異なる趣を持っていた。天井は低く、壁には国の過去の栄光を描いた壁画が並ぶ。しかしその重厚さにもかかわらず、議員たちの表情には疲弊がにじんでいた。

「我が国の財政は限界にある。民生も困窮している中で、魏志国に兵力や資金を割く余裕などない」
経済担当の議員が重い声で切り出す。拍手はなく、静寂の中に緊張感だけが漂った。

「確かに、民の生活を犠牲にしてまで外征するわけにはいかぬ。しかし、同盟国としての責務も無視できぬ」
慎重派の老議員が顔を曇らせながら応じる。彼の言葉には、義務感と現実的な制約との狭間で揺れる苦悩がにじんでいた。

「財政が厳しいなら、我々が動くことはかえって魏志国に迷惑をかけるだけだ。戦力は不十分、経済支援も限界。今は見守るしかない」
若手議員の一人が、消極的な意見を強く主張する。彼の声には、国の現状への痛切な危機感が滲む。

議場内では、急進派と慎重派の間で緊張した対立が続いた。急進派は魏志国支援を訴え、外交的信用や同盟の価値を説くが、慎重派は経済的現実を理由に介入を避けるべきだと反論する。

「我々が動けば、国内の貧困層の生活がさらに悪化する。民の不満が爆発すれば、国内統治にも影響する」
経済委員会の報告書を手にした議員が強く指摘する。

議長は議員たちの意見を静かに聞きながら、決定の重みを噛みしめるように言った。
「魏志国を支援することは、国際的信用と義務の問題である。しかし、我が国の現実もまた無視できぬ。慎重な判断を下すため、委員会で追加の報告と分析を求める」

議会は一致して、魏志国支援に関する決定を保留し、経済状況の改善と戦略的検討を優先することを決定した。議員たちはそれぞれの席で深いため息をつき、窓の外に沈む夕陽を見つめた。晋平国の未来もまた、経済的制約と国際的義務の間で揺れ動く、不安定な状況にあった。


魏志国の使者は、両同盟国の議会に同時に招かれた会議の場に立っていた。背筋を伸ばし、冷静な声で口を開く。

「我が国が龍華帝国の属国となった場合、皆様の国にも同様の圧力が及ぶ可能性があることをご理解ください」
使者は重々しく言い、書類と地図を広げる。龍華帝国の軍事的勢力範囲や外交圧力の予測を示し、属国化が魏志国だけの問題ではないことを強調した。

壯国議会では、慎重派が眉をひそめる。
「つまり、我々が支援しなければ、帝国は次に我が国を標的にするかもしれぬと?」
使者は頷く。
「その通りです。魏志国の独立を守ることは、貴国の安全保障にも直結します。今ここで共に行動すれば、帝国の圧力に立ち向かう協力体制を築けます」

晋平国議会では、経済困窮を理由に消極的だった議員たちの表情が一変する。
「もし我々が動かなければ、我が国も帝国の圧力下に置かれる可能性がある――」
若手議員が息を飲む。経済的困難と外交リスクとの間で、議員たちは複雑な思いに揺れる。

使者はさらに続ける。
「我々の戦略は、貴国との協力なくしては成り立ちません。しかし、共に立ち上がれば、龍華帝国の圧力を緩和し、属国化の波を防ぐことも可能です」

議場は沈黙に包まれた。民生や財政を最優先する慎重派、義務感や同盟の価値を重視する急進派。双方の議員たちは、魏志国の提示した現実を前に、判断を迫られていた。

やがて、壯国・晋平国双方の議長が口を開く。
「慎重な検討を行う。共に行動するか否かは、追加の分析と協議の後に決定する」

使者は深く一礼し、議会を後にした。外の風は冷たく、夕陽が沈む中、魏志国、壯国、晋平国――三国の未来は、依然として不透明な影に包まれていた。
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