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第七章:「帝国の影」
第九十二話:「兄の手紙」
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藍峯が差し出した封書を開くと、そこには異国の印章――ヴェルディカ王宮の紋が押されていた。兄・景嵐は、嫁ぎ先の姫を護衛するためにヴェルディカへと渡り、そのまま現地で暮らしている。遠き国から届けられた便りは、重みのある言葉に満ちていた。
封蝋を割り、手紙を広げた瞬間、リンの視線は深い筆跡に吸い寄せられた。そこには、遠き異国から兄・景嵐の魂が刻まれていた。
――「リンよ。かつての私は、強さこそが正義だと信じていた。非情に武へと溺れ、お前の兄弟子・黄震を討ち、覇翔昴、護国烈、遠視玄――かつて四天王と称された者たちをも手にかけた。己の剣の前に立ちはだかる者すべてを越えることが正義だと疑わなかったのだ。だが、夫婦武神そしてお前との出会いが私を変えた。本当の強さは、弱き者を守るためにあると気付かされたのだ」
行を追うリンの指先は震えていた。景嵐の言葉は、過去の惨烈な記憶を鮮烈に呼び覚ました。
――「四天王との戦いで風牙を失ったとき、俺は初めて血の涙を流した。藍峯に拘束され、海を渡る途中、嵐に遭って命を落としかけたが、異国の漁船に救われた。そこはアルテリス国であった。ルシア姫に拾われ、護衛となり、彼女がヴェルリカ国のオルテア王子に嫁ぐとき、共にその国へ渡った。今もなお、私はルシア姫の盾として生きている」
そこまで読んで、リンは深く息を吐いた。兄が異国でどのように生き、どのように贖罪を果たしてきたのか。その足跡が、紙に刻まれた言葉から鮮やかに浮かび上がっていた。
――「龍華帝国のことは風の噂で耳にしている。民が疲弊し、戦の影が忍び寄っていると聞いた。リンよ、忘れるな。本当の武とは、弱き者を守るために振るうものだ。かつてお前が私に教えてくれたように、今はお前自身がその正義を行使すべき時なのだ」
最後の一文を読んだとき、リンの胸は熱く締め付けられた。兄が流した血と涙、その果てに掴んだ真実は、今まさに自分が歩むべき道を指し示していた。
「景嵐……その想い、確かに受け取った。今度は私が、この帝国を、魏志国や壯国、そして晋平国の無辜の民、弱き者たちを守り抜かなければならない」
リンは手紙を胸に抱きしめ、灯火の下で静かに誓いを立てた。
リンは静かに兄からの手紙を机の上に置き、四門の首長たちに目を向けた。
「……これが、兄・景嵐の言葉です。かつて非情に武を追い求め、数多の命を奪った兄が、異国の地でようやく本当の強さを悟りました。弱き者を守るためにこそ、武は振るわれるべきだと」
孟厳首長が手紙を手に取り、震える声で呟いた。
「……景嵐。あの血に飢えた男が、ここまで成長するとは……。リン殿、おぬしが彼を変えたのだな」
朱雀門の蘭は涙を堪えながら微笑んだ。
「かつては憎しみと恐れを集めた景嵐殿……でも、今の彼の言葉は、心から人を思う者のものですわ」
蒼龍門の彩琳は真剣な眼差しで頷く。
「強さを正義にするのではなく、弱き者を守る正義のために強さを使う……。これは、我らすべてが忘れてはならぬ戒めです」
白蓮老師もまた、長い沈黙の末に口を開いた。
「……景嵐がここまで辿り着いたのは、命を賭して歩んできた証であろう。ならば我らも応えねばならぬ」
部屋に漂う緊張は、やがて一つの決意へと収束していった。
「まずは魏志国、壯国、晋平国に散り、それぞれの国を説得する。三国が団結し、龍華帝国との正面衝突を避ける道を探らねばならぬ」
孟厳が力強く言い放ち、蘭、彩琳、老師も深く頷いた。
リンは兄の手紙に目を落とし、静かに拳を握りしめた。
「景嵐……あなたが異国で掴んだ真実を、今度は私たちがこの大地で示してみせます」
こうして四門は一枚岩となり、戦火を避けるための行動を起こすことを決意した。
「では……三国を動かすため、誰がどの国に赴くかを決めねばなりませんな」
白蓮老師が静かに言葉を発すると、場に再び緊張が走った。
孟厳首長が一歩前に出る。
「魏志国へは、この孟厳が行こう。魏志国は古来より玄武門と関わりが深い。彼らは我らを信じるであろうし、儂もまた彼らの言葉を重く受け止めさせることができる」
朱雀門の蘭は微笑を浮かべ、軽やかに手を挙げた。
「では、私は壯国へ参りましょう。壯国の王族には若き王子がいて、以前武術の試合を見た折、私に敬意を払ってくれました。熱き血を持つ彼らを説得するなら、私の役目かと」
蒼龍門の彩琳は腕を組み、考え込んでから言葉を発した。
「ならば晋平国は私が行こう。晋平国は経済的に困窮していると聞く。武よりも理を重んじる国……。言葉と誠意を尽くせば、必ずや道は開けるはず」
三人の言葉を受け、白蓮老師はうなずいた。
「よいでしょう。わたしは帝国内に残り、リンを補佐しよう。もし説得が失敗に終わった場合、帝国内で戦火を抑える術を講じねばなりません」
リンは彼らを見渡し、深く頭を下げた。
「皆の決意、ありがたく思います。兄上の言葉を胸に、それぞれが務めを果たしましょう。戦を避け、民を守るために」
こうして四門はそれぞれの道を定めた。
孟厳は魏志国へ、蘭は壯国へ、彩琳は晋平国へ――そして老師はリンと共に帝国内に残り、内なる混乱を収める役目を担うこととなった。
彼らの旅立ちは、三国の未来と、龍華帝国の命運を大きく揺るがすことになる。
封蝋を割り、手紙を広げた瞬間、リンの視線は深い筆跡に吸い寄せられた。そこには、遠き異国から兄・景嵐の魂が刻まれていた。
――「リンよ。かつての私は、強さこそが正義だと信じていた。非情に武へと溺れ、お前の兄弟子・黄震を討ち、覇翔昴、護国烈、遠視玄――かつて四天王と称された者たちをも手にかけた。己の剣の前に立ちはだかる者すべてを越えることが正義だと疑わなかったのだ。だが、夫婦武神そしてお前との出会いが私を変えた。本当の強さは、弱き者を守るためにあると気付かされたのだ」
行を追うリンの指先は震えていた。景嵐の言葉は、過去の惨烈な記憶を鮮烈に呼び覚ました。
――「四天王との戦いで風牙を失ったとき、俺は初めて血の涙を流した。藍峯に拘束され、海を渡る途中、嵐に遭って命を落としかけたが、異国の漁船に救われた。そこはアルテリス国であった。ルシア姫に拾われ、護衛となり、彼女がヴェルリカ国のオルテア王子に嫁ぐとき、共にその国へ渡った。今もなお、私はルシア姫の盾として生きている」
そこまで読んで、リンは深く息を吐いた。兄が異国でどのように生き、どのように贖罪を果たしてきたのか。その足跡が、紙に刻まれた言葉から鮮やかに浮かび上がっていた。
――「龍華帝国のことは風の噂で耳にしている。民が疲弊し、戦の影が忍び寄っていると聞いた。リンよ、忘れるな。本当の武とは、弱き者を守るために振るうものだ。かつてお前が私に教えてくれたように、今はお前自身がその正義を行使すべき時なのだ」
最後の一文を読んだとき、リンの胸は熱く締め付けられた。兄が流した血と涙、その果てに掴んだ真実は、今まさに自分が歩むべき道を指し示していた。
「景嵐……その想い、確かに受け取った。今度は私が、この帝国を、魏志国や壯国、そして晋平国の無辜の民、弱き者たちを守り抜かなければならない」
リンは手紙を胸に抱きしめ、灯火の下で静かに誓いを立てた。
リンは静かに兄からの手紙を机の上に置き、四門の首長たちに目を向けた。
「……これが、兄・景嵐の言葉です。かつて非情に武を追い求め、数多の命を奪った兄が、異国の地でようやく本当の強さを悟りました。弱き者を守るためにこそ、武は振るわれるべきだと」
孟厳首長が手紙を手に取り、震える声で呟いた。
「……景嵐。あの血に飢えた男が、ここまで成長するとは……。リン殿、おぬしが彼を変えたのだな」
朱雀門の蘭は涙を堪えながら微笑んだ。
「かつては憎しみと恐れを集めた景嵐殿……でも、今の彼の言葉は、心から人を思う者のものですわ」
蒼龍門の彩琳は真剣な眼差しで頷く。
「強さを正義にするのではなく、弱き者を守る正義のために強さを使う……。これは、我らすべてが忘れてはならぬ戒めです」
白蓮老師もまた、長い沈黙の末に口を開いた。
「……景嵐がここまで辿り着いたのは、命を賭して歩んできた証であろう。ならば我らも応えねばならぬ」
部屋に漂う緊張は、やがて一つの決意へと収束していった。
「まずは魏志国、壯国、晋平国に散り、それぞれの国を説得する。三国が団結し、龍華帝国との正面衝突を避ける道を探らねばならぬ」
孟厳が力強く言い放ち、蘭、彩琳、老師も深く頷いた。
リンは兄の手紙に目を落とし、静かに拳を握りしめた。
「景嵐……あなたが異国で掴んだ真実を、今度は私たちがこの大地で示してみせます」
こうして四門は一枚岩となり、戦火を避けるための行動を起こすことを決意した。
「では……三国を動かすため、誰がどの国に赴くかを決めねばなりませんな」
白蓮老師が静かに言葉を発すると、場に再び緊張が走った。
孟厳首長が一歩前に出る。
「魏志国へは、この孟厳が行こう。魏志国は古来より玄武門と関わりが深い。彼らは我らを信じるであろうし、儂もまた彼らの言葉を重く受け止めさせることができる」
朱雀門の蘭は微笑を浮かべ、軽やかに手を挙げた。
「では、私は壯国へ参りましょう。壯国の王族には若き王子がいて、以前武術の試合を見た折、私に敬意を払ってくれました。熱き血を持つ彼らを説得するなら、私の役目かと」
蒼龍門の彩琳は腕を組み、考え込んでから言葉を発した。
「ならば晋平国は私が行こう。晋平国は経済的に困窮していると聞く。武よりも理を重んじる国……。言葉と誠意を尽くせば、必ずや道は開けるはず」
三人の言葉を受け、白蓮老師はうなずいた。
「よいでしょう。わたしは帝国内に残り、リンを補佐しよう。もし説得が失敗に終わった場合、帝国内で戦火を抑える術を講じねばなりません」
リンは彼らを見渡し、深く頭を下げた。
「皆の決意、ありがたく思います。兄上の言葉を胸に、それぞれが務めを果たしましょう。戦を避け、民を守るために」
こうして四門はそれぞれの道を定めた。
孟厳は魏志国へ、蘭は壯国へ、彩琳は晋平国へ――そして老師はリンと共に帝国内に残り、内なる混乱を収める役目を担うこととなった。
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