『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第七章:「帝国の影」

第九十三話:「三国への使者たち」

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王は相変わらず後宮に籠り、酒宴に明け暮れていた。
国の命運を決する場に現れることはなく、代わりに宰相・蘇瑛が会談の席へと臨む。

玄武門首長・孟厳は深く一礼し、真剣な声で訴えた。
「龍華帝国の言葉に従い、属国の列に並べば、魏志国の民は兵として駆り出され、農も商も立ち行かなくなります。どうか今は、帝国の口車に乗られませぬよう」

蘇瑛は沈痛な面持ちで頷いた。
「……宰相として、帝国の思惑が魏志国を危地に追いやることは重々承知している。だが、我が王は耳を貸さぬ」

孟厳はさらに踏み込む。
「王がどうであろうと、民は宰相殿の決断を待っております。帝国に従うことが魏志国を守る道ではありません」

しばし沈黙の後、蘇瑛は重く口を開いた。
「……分かった。戦に巻き込まれぬよう、私が全力で王を諫めよう。魏志国は帝国に安易に与せぬ――そのことを貴殿らに約そう」

その言葉に孟厳は深く頭を下げる。
会談の間に、かすかな安堵の空気が流れた。

豪壮な柱が並ぶ謁見の間。武将たちが左右に控え、軍馬の嘶きが遠くから聞こえてくる。
壯国王・康烈は豪胆な笑みを浮かべ、蘭を見下ろしていた。

「龍華帝国が我らに声をかけてきた。戦を共にすれば、領土はさらに広がる。そなたらはそれを止めに来たと?」

蘭は一歩も引かず、真紅の衣を翻して前に進み出た。
「王よ、広がる領土の陰で、民の血と汗は乾き果てるでしょう。いま国中で飢えに泣く子供たちの声が届いておらぬのですか?」

王は笑い飛ばす。
「民は常に苦しむものだ。だが領土が増えれば富も増す。それが力だ!」

蘭の瞳が炎のように輝いた。
「力とは、弱き者を守るためにあるのです! 帝国の傀儡となり、壯国の名を汚すのが王の望みですか?」

場に緊張が走る。
側近の老臣がそっと進み出て、王に進言する。
「陛下、朱雀門首長の言葉、一理ございます。今は疲弊した民を立て直す時。戦を望む帝国に従えば、壯国はただの兵の供給地にされましょう」

康烈王の眉がぴくりと動いた。豪放な笑みが、わずかに陰を帯びる。
「……帝国に従わずとも、壯国の力を保てるというのか?」

蘭は力強く頷く。
「ええ。いまこそ民を守り、内を固める時です。壯国が帝国に屈せず自立を貫けば、周辺国の信頼を得ましょう」

王はしばし黙考し、やがて大きく笑った。
「よかろう! ならば帝国の誘いには軽々しく応じぬ。壯国は壯国の道を行く!」

謁見の間に、蘭の凛とした声が響いた。
「そのお言葉、必ずや壯国の未来を救いましょう!」
薄暗い会議室。晋平王・岳麟は疲弊した民衆の現状に頭を抱えていた。
「……龍華帝国に従えば、魏志国や壯国と共に戦うことになる。しかし、我らには余力がない。国民は飢え、税も滞る」

彩琳は静かに一歩前に進む。
「その通りです。晋平国は豊かではありません。戦に加われば、農民も商人も若者も皆、血を流すだけです。国は疲弊し、国民は困窮のどん底に落ちるでしょう」

側近の大臣も加わる。
「首長の言う通りです。今は国力を守るべき時。無理に戦に加われば、我らが国は存続すら危うくなる」

岳麟王は深く息をつき、窓の外の街を見つめる。
「……分かった。戦には加わらぬ。彩琳よ、おぬしの言葉が理にかなっておる」

彩琳は穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます。戦を避け、国民を守ることこそ、最も賢明な選択です」

こうして、経済的困窮のため消極的だった晋平国も、戦争を避ける方向に舵を切った。

四門の代表者たちは、それぞれの国で説得を終え、再びリンの元へと集まった。
魏志国、壯国、晋平国――三国とも、戦争には加わらず、理性と民の生活を優先する決定を下したという報告である。

孟厳は重々しく頭を下げ、蘇瑛宰相の協力もあって魏志国が戦を避けたことを報告した。
「魏志国は王こそ暗君なれど、宰相の尽力により理性ある判断が下されました。戦に加わることはありません」

蘭は笑みを浮かべ、壯国の康烈王が民の声を聞き、帝国に従わぬ決断をしたことを伝える。
「戦を選ばぬという勇気が、壯国の未来を守るのです」

彩琳は淡々と、晋平国の現状を説明した。
「経済的困窮ゆえに、王も側近も戦を避けるしかありませんでした。晋平国もまた、民と国を守る理性的な決定を下しました」

白蓮老師は柔らかく微笑み、リンの肩に手を置いた。
「よくやった、リン殿。かつて私があなたを連れ出したのは、今日のような日を夢見ていたからかもしれない。国と民を守るその心が、真の武の証だ」

孟厳、蘭、彩琳は互いに頷き合い、静かに笑みを交わす。
各国での説得は終わり、次は龍華帝国全体での最終調整と、戦を避けた平和の道を確実にする作業が待っている。

その日、リンは確かに感じた。
血と涙に染まった過去の戦いの記憶も、悲しみも、全てが今、この瞬間の平和のために活かされていると。

夜空には静かに星が瞬き、風が柔らかく大地を撫でた。
戦を避け、民を守るために四門の力が一つとなった、この日――その道は、確かに光を帯びていた。

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