94 / 146
第七章:「帝国の影」
第九十四話:「揺らぐ帝国、試される正義」
しおりを挟む
龍華帝国の大議会。
高い天井に声が響き渡り、白髪交じりの古老たちが椅子を叩きながら立ち上がる。
「魏志国も、壯国も、晋平国も! 三国とも我らが属国とすべきである!」
「弱き国どもを束ねるは当然! 龍華の覇を示すのだ!」
議場は熱気に包まれ、若い議員たちでさえ口を挟めぬほど古老たちの勢いは凄まじい。
リンは席を立ち、声を張った。
「諸侯、よく聞いてください! 三国は戦を望んでおらず、民もまた飢えと疲弊に苦しんでいる。
彼らを無理やり属国とすれば、血が流れ、民の怨嗟が帝国を覆うことになるのです!」
しかしその言葉は、怒号にかき消された。
「黙れ、青二才!」
「帝国に刃向かうとは何事か!」
「不忠者! 非国民!」
矢継ぎ早に飛び交うヤジに、リンの頬は紅潮した。それは怒りからではなく、民を守りたい一心で抑えてきた感情が揺さぶられたからだった。
壇上で拳を握りしめながら、リンは心で兄・景嵐の言葉を思い出す。
──「真の武は、弱きを守るためにある」──
その言葉が胸を貫き、リンはもう一度声を張る。
「私は民を守るために、ここに立っています!
たとえ不忠者と呼ばれようと、帝国を滅ぼす道には進ませません!」
議場に緊張が走った。
ヤジを飛ばしていた古老たちも、一瞬言葉を失い、場の空気が変わる。
その沈黙の中で、少数の若い議員が小さく拍手を始めた。
まだ帝国の意志は割れている。
だがリンの叫びが、少なくとも一部の心を揺さぶったのは確かだった。
リンは先日大広間の壇上で、勅命が読み上げられた時のことを思い出していた。全ての不幸な騒動の発端はここにある。
「本議会は魏志国を龍華帝国の属国とすることを、ここに決する──」
その瞬間、議場に拍手と歓声が巻き起こった。
古老たちは満足げに頷き合い、若い議員も従うように手を打つ。
満場一致で決定してしまった。
上院で決議したことを下院で転覆させるのは困難なことだ。
だが、ただ一人、リンだけは静かに首を振った。
「……私は反対です」
その声は小さくとも、はっきりと響き渡った。
場の空気が凍りつく。
「な、何を言うのだリン殿!」
「決議に逆らうなど、国家転覆を企む反逆者に等しい!」
「衛兵! 衛兵を呼べ!」
怒声が飛び交い、剣の柄に手をかける兵も現れた。
それでもリンは一歩も引かず、壇上から議場を見渡した。
「魏志国は自らの意志で我らと共に歩むと決めた国です。
それを無理やり属国とするのは、ただの横暴です!
帝国の威光とは、民の血で築くものではありません!」
胸を張り、まっすぐに言い放つ。
「たとえ国家転覆罪に問われようと──私は、この決議に従いません!」
議場に響くその言葉は、剣よりも鋭く、矢よりも深く突き刺さった。
彼女の姿は孤立して見えたが、その背には兄・景嵐の教えと、守るべき民の声があった。
衛兵! あの男を捕えよ!」
古老の一人が叫ぶと、屈強な兵が数名、剣を抜いて壇上へと駆け寄った。
その瞬間だった。
リンの全身から、眩いほどの圧が溢れ出した。
目には見えぬはずの気が、炎のように揺らめき、広間全体を包み込む。
「──ッ!」
兵たちは剣を構えることすらできず、次々と膝を折った。
古老たちの顔は蒼白に染まり、口を開こうとしても声が出ない。
リンは一歩、静かに踏み出した。
ただそれだけで大理石の床が軋み、誰もが息を呑む。
「これが……武神の力……」
誰かが震える声で呟いた。
議場は一瞬にして沈黙に包まれる。
そこに立つ男の姿は、ただの議員ではなく、神々しき存在であった。
「私は民を守るために立っている。
その信念を、誰も封じることはできません」
リンの声は広間の隅々まで響き渡り、古老たちですら頭を垂れずにはいられなかった。
しかし気を取り直した古老の一人が再度
「衛兵! あの男を捕えよ!」
叫ぶや否や、屈強な兵たちが剣を抜き、壇上のリンへと殺到した。
だがその刹那、空気が震えた。
リンの全身から奔流のような圧が噴き出し、広間を覆いつくす。
見えぬはずの気が蒼炎のごとく揺らぎ、議場の壁や柱を震わせた。
「な、何だこれは……!」
兵たちは一歩も近づけず、剣を握る手が痺れ、次々と膝を折る。
古老たちは蒼白になり、椅子から立ち上がることすらできなかった。
リンはゆるやかに歩み出る。
その一歩ごとに床が軋み、ただ立つだけで広間全体を圧倒する。
夜の龍華帝国。
宮殿の奥深く、灯火の届かぬ一室にて、黒鷹派の一派が古老たちと密談を交わしていた。
「リンは武神と称されているが……奴は暴走すれば国家を滅ぼしかねぬ」
「藍峯もまた危険だ。以前から彼奴の存在は鼻につく。将来必ず我らの障害となる」
「ならば、この手で葬ろう。明晩、議場からの帰途を狙う。兵を装った刺客を差し向けよ」
陰謀は静かに進められた。
──翌晩。
リンと藍峯が宮殿を後にした瞬間、闇に潜んでいた影が一斉に飛び出した。
刃が閃き、毒矢が唸り、火薬の閃光が夜を裂く。
しかし、次の瞬間。
リンの全身から奔流の如き光が迸った。
その気迫は嵐を呼び、迫る刃を弾き、毒矢を焼き尽くし、火薬をも呑み込む。
刺客たちは目すら開けられず、地に叩き伏せられた。
「これが……武神……」
震える声が夜の闇に消える。
リンは一歩、前へ。
「藍峯殿を狙ったこと──許しはせぬ。だが、お前たちが何者に唆されたかは、すでに見抜いている」
その黒き瞳には、古老と黒鷹派の影が映っていた。
圧倒的な力の前に、刺客たちは武器を捨て、膝をつき、ただ震えるしかなかった。
「これが……武神……」
誰かが呻くように呟いた。
リンの黒い瞳が議場を射抜く。
「私は帝国のために在る。だが、民を犠牲にする決議に従うことは断じてない。
この力は、民を守るために振るう──
誰一人として、私の信念を封じることはできぬ!」
その声は雷鳴のように響き渡り、広間を満たした。
議員たちは誰一人反駁できず、ただ圧倒され、沈黙した。
リン自身、己にこれほどのチカラが具わっているとは露ほども知らなかった。
リンに敵わぬと知った龍華帝国の奸臣は、玲霞に目をつける──。
高い天井に声が響き渡り、白髪交じりの古老たちが椅子を叩きながら立ち上がる。
「魏志国も、壯国も、晋平国も! 三国とも我らが属国とすべきである!」
「弱き国どもを束ねるは当然! 龍華の覇を示すのだ!」
議場は熱気に包まれ、若い議員たちでさえ口を挟めぬほど古老たちの勢いは凄まじい。
リンは席を立ち、声を張った。
「諸侯、よく聞いてください! 三国は戦を望んでおらず、民もまた飢えと疲弊に苦しんでいる。
彼らを無理やり属国とすれば、血が流れ、民の怨嗟が帝国を覆うことになるのです!」
しかしその言葉は、怒号にかき消された。
「黙れ、青二才!」
「帝国に刃向かうとは何事か!」
「不忠者! 非国民!」
矢継ぎ早に飛び交うヤジに、リンの頬は紅潮した。それは怒りからではなく、民を守りたい一心で抑えてきた感情が揺さぶられたからだった。
壇上で拳を握りしめながら、リンは心で兄・景嵐の言葉を思い出す。
──「真の武は、弱きを守るためにある」──
その言葉が胸を貫き、リンはもう一度声を張る。
「私は民を守るために、ここに立っています!
たとえ不忠者と呼ばれようと、帝国を滅ぼす道には進ませません!」
議場に緊張が走った。
ヤジを飛ばしていた古老たちも、一瞬言葉を失い、場の空気が変わる。
その沈黙の中で、少数の若い議員が小さく拍手を始めた。
まだ帝国の意志は割れている。
だがリンの叫びが、少なくとも一部の心を揺さぶったのは確かだった。
リンは先日大広間の壇上で、勅命が読み上げられた時のことを思い出していた。全ての不幸な騒動の発端はここにある。
「本議会は魏志国を龍華帝国の属国とすることを、ここに決する──」
その瞬間、議場に拍手と歓声が巻き起こった。
古老たちは満足げに頷き合い、若い議員も従うように手を打つ。
満場一致で決定してしまった。
上院で決議したことを下院で転覆させるのは困難なことだ。
だが、ただ一人、リンだけは静かに首を振った。
「……私は反対です」
その声は小さくとも、はっきりと響き渡った。
場の空気が凍りつく。
「な、何を言うのだリン殿!」
「決議に逆らうなど、国家転覆を企む反逆者に等しい!」
「衛兵! 衛兵を呼べ!」
怒声が飛び交い、剣の柄に手をかける兵も現れた。
それでもリンは一歩も引かず、壇上から議場を見渡した。
「魏志国は自らの意志で我らと共に歩むと決めた国です。
それを無理やり属国とするのは、ただの横暴です!
帝国の威光とは、民の血で築くものではありません!」
胸を張り、まっすぐに言い放つ。
「たとえ国家転覆罪に問われようと──私は、この決議に従いません!」
議場に響くその言葉は、剣よりも鋭く、矢よりも深く突き刺さった。
彼女の姿は孤立して見えたが、その背には兄・景嵐の教えと、守るべき民の声があった。
衛兵! あの男を捕えよ!」
古老の一人が叫ぶと、屈強な兵が数名、剣を抜いて壇上へと駆け寄った。
その瞬間だった。
リンの全身から、眩いほどの圧が溢れ出した。
目には見えぬはずの気が、炎のように揺らめき、広間全体を包み込む。
「──ッ!」
兵たちは剣を構えることすらできず、次々と膝を折った。
古老たちの顔は蒼白に染まり、口を開こうとしても声が出ない。
リンは一歩、静かに踏み出した。
ただそれだけで大理石の床が軋み、誰もが息を呑む。
「これが……武神の力……」
誰かが震える声で呟いた。
議場は一瞬にして沈黙に包まれる。
そこに立つ男の姿は、ただの議員ではなく、神々しき存在であった。
「私は民を守るために立っている。
その信念を、誰も封じることはできません」
リンの声は広間の隅々まで響き渡り、古老たちですら頭を垂れずにはいられなかった。
しかし気を取り直した古老の一人が再度
「衛兵! あの男を捕えよ!」
叫ぶや否や、屈強な兵たちが剣を抜き、壇上のリンへと殺到した。
だがその刹那、空気が震えた。
リンの全身から奔流のような圧が噴き出し、広間を覆いつくす。
見えぬはずの気が蒼炎のごとく揺らぎ、議場の壁や柱を震わせた。
「な、何だこれは……!」
兵たちは一歩も近づけず、剣を握る手が痺れ、次々と膝を折る。
古老たちは蒼白になり、椅子から立ち上がることすらできなかった。
リンはゆるやかに歩み出る。
その一歩ごとに床が軋み、ただ立つだけで広間全体を圧倒する。
夜の龍華帝国。
宮殿の奥深く、灯火の届かぬ一室にて、黒鷹派の一派が古老たちと密談を交わしていた。
「リンは武神と称されているが……奴は暴走すれば国家を滅ぼしかねぬ」
「藍峯もまた危険だ。以前から彼奴の存在は鼻につく。将来必ず我らの障害となる」
「ならば、この手で葬ろう。明晩、議場からの帰途を狙う。兵を装った刺客を差し向けよ」
陰謀は静かに進められた。
──翌晩。
リンと藍峯が宮殿を後にした瞬間、闇に潜んでいた影が一斉に飛び出した。
刃が閃き、毒矢が唸り、火薬の閃光が夜を裂く。
しかし、次の瞬間。
リンの全身から奔流の如き光が迸った。
その気迫は嵐を呼び、迫る刃を弾き、毒矢を焼き尽くし、火薬をも呑み込む。
刺客たちは目すら開けられず、地に叩き伏せられた。
「これが……武神……」
震える声が夜の闇に消える。
リンは一歩、前へ。
「藍峯殿を狙ったこと──許しはせぬ。だが、お前たちが何者に唆されたかは、すでに見抜いている」
その黒き瞳には、古老と黒鷹派の影が映っていた。
圧倒的な力の前に、刺客たちは武器を捨て、膝をつき、ただ震えるしかなかった。
「これが……武神……」
誰かが呻くように呟いた。
リンの黒い瞳が議場を射抜く。
「私は帝国のために在る。だが、民を犠牲にする決議に従うことは断じてない。
この力は、民を守るために振るう──
誰一人として、私の信念を封じることはできぬ!」
その声は雷鳴のように響き渡り、広間を満たした。
議員たちは誰一人反駁できず、ただ圧倒され、沈黙した。
リン自身、己にこれほどのチカラが具わっているとは露ほども知らなかった。
リンに敵わぬと知った龍華帝国の奸臣は、玲霞に目をつける──。
10
あなたにおすすめの小説
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる