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第七章:「帝国の影」
第百四話:「龍華帝国の裁き」
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烈陽国の港に凱旋の旗が翻る一方で、龍華帝国の宮廷は嵐のように揺れ動いていた。
帝国の威信を盾に、烈陽国を討とうと画策した老古議員たち。その背後には奸臣どもが蠢き、地方都市の兵を強引に徴発し、南の国境から烈陽に侵攻を開始した。
だが――その野望は脆くも崩れ去る。
魏志国・壯国・晋平国の三国が一斉に龍華帝国に攻め入り、各地の守備線は崩壊。国内は混乱に包まれ、やがて帝国は分裂の道を辿った。
烈陽を含めた四国は戦勝国として新たな秩序を築き、敗戦国となった龍華は、もはやかつての大国の姿を留めていなかった。
やがて開かれた裁判の場。
老古議員たちと奸臣は、民を顧みぬ謀略の責めを問われ、一人残らず裁かれることとなった。
その時、玉座に立つ龍華帝は静かに口を開いた。
「民を苦しみに沈めた責は朕にもある。如何様にも裁くが良い。」
威厳を失わぬ声音、胸に響く帝王の覚悟。
それは連合国の代表たちの心を打ち、やがて議場に深い沈黙が広がった。
烈陽国王は静かに頷いた。
「この帝を罰することは容易い。だが、この堂々たる姿と、真に民を思う心を葬ってはならぬ。」
結果、帝王に対するお咎めは無しとされた。
しかし同時に、新たな体制を敷くことが決定される。帝王制は廃止され、国家の中枢に大臣を置き、地方には議会を設け、民意を反映する知事が選ばれることとなった。
玉座を降りるその時、龍華帝は静かに天を仰ぎ、深く一礼した。
「龍華の新たなる世に、光あれ。」
こうして、千年続いた帝王の血統は終焉を迎え、龍華帝国は新たな政の道へと歩み出すのであった。
…こうして、千年続いた帝王の血統は終焉を迎え、龍華帝国は新たな政の道へと歩み出すのであった。
だが、まだ大きな裁きが残されていた。
今回の戦乱を引き起こした奸臣ども――数十名に及ぶ者たちが、一堂に裁判の場へと引き立てられる。
今回の裁判は、公平を期すために戦勝国が直接裁くのではなく、龍華の地に生きる者たち自身の手で行われることとなった。
敗戦国をこれ以上叩くのは、倫理にも道義にも反する――そうした四国の共通した思いがあった。
ゆえに戦勝国の代表者たちは傍らから見守るだけとし、あくまで龍華の民自身の正義によって断罪が下されることになったのである。
廷に響く声は厳しくも、どこか哀しみに満ちていた。
「国を誤らせた罪、民を踏みにじった罪、その報いを今ここで受けよ。」
民のための裁きが、龍華の大地に新たな歴史を刻み始めていた。
数日にわたる裁判ののち、奸臣どもにはそれぞれの罪に応じた刑が言い渡された。
民を飢えさせ戦を煽った者、財を私腹に肥やした者、敵国と通じ国を売った者――その罪状は余すところなく読み上げられた。
刑の執行は即日行われた。
民衆の前にて首を刎ねられる者、遠方の地へ流される者、財を没収され家門ごと断絶となる者――彼らが背負った報いは重く、また必然でもあった。
刑が終わると、裁判廷には張り詰めた沈黙が落ちた。
次に呼び出されたのは、国の根を蝕んできた老古議員たちであった。
「帝国を支えるべき重鎮が、民を顧みず権勢と利に溺れ、奸臣どもと結び、国を泥沼へと引きずった。その責任、万死に値す。」
廷吏の言葉に、傍聴していた民衆からどよめきが起こる。
老古議員たちは蒼白な顔で互いを見やった。
かつて議場で声高に「国のため」と叫んでいた彼らの姿はそこになく、ただ己の老命を惜しむ哀れな姿が晒されていた。
戦勝国の代表者たちは、依然として言葉を挟まなかった。
それは龍華の民自身に、国を正す機会を与えるためである。
裁判は、より一層厳しいものとなっていった。
廷内には、張り詰めた空気が漂っていた。
老古議員たちは列を成して並び、その顔には恐怖と後悔が交錯していた。
「朕は国の主として、汝らに民を導く役目を託してきた。だがその信を裏切り、民を餓えさせ、奸臣と結託して利に走った。……その罪、いかに弁じるか」
元帝王の問いかけに、老古議員の一人が震える声で口を開いた。
「わ、我らはただ……国のためと……」
「国のため、とな。ならば問う。民を犠牲にし、財を我が物とすることが国のためか?」
鋭い叱責に、議員は言葉を失い、肩を落とした。
中には泣きながら懺悔する者もいた。
「……私は己の老い先を守ることばかり考えていた。民の苦しみを知りながら、耳を塞いでいた。帝王陛下、どうか……」
しかし裁判官たちの表情は揺るがなかった。
「悔い改めた言葉に価値はある。だが罪を帳消しにするものではない。」
やがて判決が読み上げられた。
「――老古議員数名には極刑を、他の者には財産没収の上での終身禁固、あるいは辺境への流刑とする。」
判決を聞いた民衆は一斉に声を上げた。
「正しき裁きだ!」
「二度とこのような者たちに国を乱されてはならぬ!」
廷内に響くその声は、龍華帝国が新たな時代へと歩み出すための、確かな一歩となった。
老古議員と奸臣たちの裁判が終わり、龍華帝国には大きな節目が訪れていた。
帝王が退き、帝王制が廃され、新たに大臣を国の中枢に置く体制が始まったのである。
中央には「大議院」と呼ばれる国の意思決定機関が設立され、各地方には議会が置かれ、その代表が「知事」として選ばれることとなった。これまで声を持たなかった民衆の意見も、段階を経て国政に反映される道が開かれたのだ。
街では、人々が互いに顔を見合わせていた。
「本当に……俺たちの声が国に届くようになるのか?」
「今までは上の者たちが好き勝手に決めていた。だが、これからは違うらしい。」
不安と期待が入り混じる声が溢れた。
さらに、新政府は真っ先に「税制の是正」に着手した。
これまで豪族や老古議員が握っていた不正な徴税を廃止し、民にとって公平な負担とする。余った資金は道路の整備や農地の灌漑に用いられ、目に見える形で生活を支える基盤が築かれていった。
民衆は少しずつ、それを「信じて良い」と思い始めた。
子供たちは未来を語り合い、商人たちは新しい交易の道を探し、農夫たちは汗を流す甲斐を感じるようになった。
帝王の姿を見て胸を打たれた人々も少なくなかった。
「陛下は罪を引き受けて退かれた……あのような姿勢を示せる方であったなら……」
そう語る声が、民の間で噂のように広がっていた。
龍華帝国は、かつての専制の闇を抜け出し、新たな時代の胎動を迎えたのである。
帝国の威信を盾に、烈陽国を討とうと画策した老古議員たち。その背後には奸臣どもが蠢き、地方都市の兵を強引に徴発し、南の国境から烈陽に侵攻を開始した。
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魏志国・壯国・晋平国の三国が一斉に龍華帝国に攻め入り、各地の守備線は崩壊。国内は混乱に包まれ、やがて帝国は分裂の道を辿った。
烈陽を含めた四国は戦勝国として新たな秩序を築き、敗戦国となった龍華は、もはやかつての大国の姿を留めていなかった。
やがて開かれた裁判の場。
老古議員たちと奸臣は、民を顧みぬ謀略の責めを問われ、一人残らず裁かれることとなった。
その時、玉座に立つ龍華帝は静かに口を開いた。
「民を苦しみに沈めた責は朕にもある。如何様にも裁くが良い。」
威厳を失わぬ声音、胸に響く帝王の覚悟。
それは連合国の代表たちの心を打ち、やがて議場に深い沈黙が広がった。
烈陽国王は静かに頷いた。
「この帝を罰することは容易い。だが、この堂々たる姿と、真に民を思う心を葬ってはならぬ。」
結果、帝王に対するお咎めは無しとされた。
しかし同時に、新たな体制を敷くことが決定される。帝王制は廃止され、国家の中枢に大臣を置き、地方には議会を設け、民意を反映する知事が選ばれることとなった。
玉座を降りるその時、龍華帝は静かに天を仰ぎ、深く一礼した。
「龍華の新たなる世に、光あれ。」
こうして、千年続いた帝王の血統は終焉を迎え、龍華帝国は新たな政の道へと歩み出すのであった。
…こうして、千年続いた帝王の血統は終焉を迎え、龍華帝国は新たな政の道へと歩み出すのであった。
だが、まだ大きな裁きが残されていた。
今回の戦乱を引き起こした奸臣ども――数十名に及ぶ者たちが、一堂に裁判の場へと引き立てられる。
今回の裁判は、公平を期すために戦勝国が直接裁くのではなく、龍華の地に生きる者たち自身の手で行われることとなった。
敗戦国をこれ以上叩くのは、倫理にも道義にも反する――そうした四国の共通した思いがあった。
ゆえに戦勝国の代表者たちは傍らから見守るだけとし、あくまで龍華の民自身の正義によって断罪が下されることになったのである。
廷に響く声は厳しくも、どこか哀しみに満ちていた。
「国を誤らせた罪、民を踏みにじった罪、その報いを今ここで受けよ。」
民のための裁きが、龍華の大地に新たな歴史を刻み始めていた。
数日にわたる裁判ののち、奸臣どもにはそれぞれの罪に応じた刑が言い渡された。
民を飢えさせ戦を煽った者、財を私腹に肥やした者、敵国と通じ国を売った者――その罪状は余すところなく読み上げられた。
刑の執行は即日行われた。
民衆の前にて首を刎ねられる者、遠方の地へ流される者、財を没収され家門ごと断絶となる者――彼らが背負った報いは重く、また必然でもあった。
刑が終わると、裁判廷には張り詰めた沈黙が落ちた。
次に呼び出されたのは、国の根を蝕んできた老古議員たちであった。
「帝国を支えるべき重鎮が、民を顧みず権勢と利に溺れ、奸臣どもと結び、国を泥沼へと引きずった。その責任、万死に値す。」
廷吏の言葉に、傍聴していた民衆からどよめきが起こる。
老古議員たちは蒼白な顔で互いを見やった。
かつて議場で声高に「国のため」と叫んでいた彼らの姿はそこになく、ただ己の老命を惜しむ哀れな姿が晒されていた。
戦勝国の代表者たちは、依然として言葉を挟まなかった。
それは龍華の民自身に、国を正す機会を与えるためである。
裁判は、より一層厳しいものとなっていった。
廷内には、張り詰めた空気が漂っていた。
老古議員たちは列を成して並び、その顔には恐怖と後悔が交錯していた。
「朕は国の主として、汝らに民を導く役目を託してきた。だがその信を裏切り、民を餓えさせ、奸臣と結託して利に走った。……その罪、いかに弁じるか」
元帝王の問いかけに、老古議員の一人が震える声で口を開いた。
「わ、我らはただ……国のためと……」
「国のため、とな。ならば問う。民を犠牲にし、財を我が物とすることが国のためか?」
鋭い叱責に、議員は言葉を失い、肩を落とした。
中には泣きながら懺悔する者もいた。
「……私は己の老い先を守ることばかり考えていた。民の苦しみを知りながら、耳を塞いでいた。帝王陛下、どうか……」
しかし裁判官たちの表情は揺るがなかった。
「悔い改めた言葉に価値はある。だが罪を帳消しにするものではない。」
やがて判決が読み上げられた。
「――老古議員数名には極刑を、他の者には財産没収の上での終身禁固、あるいは辺境への流刑とする。」
判決を聞いた民衆は一斉に声を上げた。
「正しき裁きだ!」
「二度とこのような者たちに国を乱されてはならぬ!」
廷内に響くその声は、龍華帝国が新たな時代へと歩み出すための、確かな一歩となった。
老古議員と奸臣たちの裁判が終わり、龍華帝国には大きな節目が訪れていた。
帝王が退き、帝王制が廃され、新たに大臣を国の中枢に置く体制が始まったのである。
中央には「大議院」と呼ばれる国の意思決定機関が設立され、各地方には議会が置かれ、その代表が「知事」として選ばれることとなった。これまで声を持たなかった民衆の意見も、段階を経て国政に反映される道が開かれたのだ。
街では、人々が互いに顔を見合わせていた。
「本当に……俺たちの声が国に届くようになるのか?」
「今までは上の者たちが好き勝手に決めていた。だが、これからは違うらしい。」
不安と期待が入り混じる声が溢れた。
さらに、新政府は真っ先に「税制の是正」に着手した。
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民衆は少しずつ、それを「信じて良い」と思い始めた。
子供たちは未来を語り合い、商人たちは新しい交易の道を探し、農夫たちは汗を流す甲斐を感じるようになった。
帝王の姿を見て胸を打たれた人々も少なくなかった。
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