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第八章:「景嵐とルシア」
第百十五話:「ファルトの殺害」
しおりを挟む景嵐と霧影、赤狼がアルテリスの城に持ち帰った物品は、慎重に布で包まれ、埃一つ立たぬ書斎に置かれた。
「これがファルトの計画の全貌か……」
景嵐は静かに息をつき、手にした書類や小箱の中身を順に広げていく。紙片には細かい筆跡で、毒の入手経路、王宮内での動きの指示、さらにはアルデリオス三世を揺さぶるための策略が書き込まれていた。
霧影が一つ一つの内容を確認する。
「この書き込みを見る限り、ファルトは自国王を弱らせることも目的の一つとしていたようです。まさに計画的……。」
赤狼は低く唸った。
「面倒な奴だ。だがこれでルシア姫が王の疑念を晴らす材料は揃った。」
赤狼が言葉を続ける。
「次は、どう動くかだな。表立っては動けぬ以上、慎重に、だ。」
景嵐は深く頷き、窓の外を見つめる。月明かりが静かに城下町を照らす中、彼の瞳には決意の光が宿っていた。
「ルシア姫の信頼を取り戻し、アルデリオス三世の疑念を晴らす――それが、今の我々の使命だ。」
霧影と赤狼もそれぞれ覚悟を新たにする。
「全ては姫と王のために。」
夜は静かだ。しかしその静寂の奥では、ファルトの陰謀を覆すための策が、密かに、確実に練られつつあった。
アルテリスの夜は深く、城下町に静寂が漂っていた。
霧影と赤狼は慎重に集めた情報や物品に目を通し、ファルトの行動や意図を一つ一つ確認していた。書簡、帳簿、異国の染料に関する文書――全てが、アルデリオス三世への毒盛りと婚姻解消工作の手掛かりとなる。
「ここに……明らかに外部の者との接触の形跡があります」
霧影が小さく呟き、赤狼は目を細めて紙面を覗き込む。
「なるほど。奴は独断で動いていたわけではないようだな……」
赤狼の低い声が部屋の静寂に響く。情報は確かに揃いつつあった。
そんな時ルシアが部屋に飛び込んできた。
「ファルト王子が何者かに殺害されました」
「え?」
景嵐達は顔を見合わせた。霧影と赤狼はその場に凍りつく。赤狼は低く唸った。
「……やられたか……。だが、誰の手によるものか……」
霧影は冷静に目を細める。「わからん。だがこのままでは全ての計画が狂う。」
ファルトの死により、ヴェルリカ国内は瞬く間に混乱に包まれた。アルデリオス三世は病床に伏せたまま、継子の不在によって国家の未来は危ういものとなる。
しかし、誰が、どのようにして王子を――。
事態は夜の街の片隅に答えを残していた。
ファルトは夜な夜な、王室御用達の娼館に通っていた。そこに集うのは、敗戦国ドレイヴァから連れてこられた女たち。恨みを抱きつつも、日々の暮らしに耐えるしかない女たちだった。
娼館の一角で、ノミという娼婦は腹に宿した子を悩んでいた。ファルトの子を――堕胎しようとするが、周囲の女たちは止める。「子に罪は無い」
そんな折、新たにドレイヴァから送られた女――ビスが館に現れる。彼女はただの娼婦ではなかった。刺客として訓練され、王子を狙う任務を帯びていた。
ファルトはいつものように女を物色し、ビスに近づく。
その瞬間、ビスは小刀を抜き、王子の脇腹を突いた。致命の一撃。ファルトは倒れ、あっけなく息絶える。
夜の闇に、赤い刃が静かに消えた。
資料を握る手が、重くなる。景嵐は静かに瞳を閉じ、思案する。
「……これで、ファルトの影響は消えた。しかし、誰の手で……国家は……」
霧影も赤狼も、沈黙の中で事態の重さを噛み締めた。
暗殺によって陰謀は阻止されたが、その死はさらに予測不能な波紋を広げる――。
アルテリスの夜は深く、街の灯は揺れる。
ビスは任務を終えた後も、冷静なままその場を離れる。暗殺は成功したが、その先に待つ混乱や報復の影を予測してか、彼女の表情には微かな影が落ちていた。
城の書斎でルシアは、遠く離れたその現場を思い描く。
「……どうして、こんなことに……」
言葉にならない嘆きと、無力感。だが彼女には、今できることはただ見守ることしかない。事態の成り行きが、国を、そして王をどう動かすのか。
景嵐はルシアの手をそっと握る。
「姫、焦らずに。全ては、まだ見極める時です。」
ルシアは小さく頷き、深く息をつく。心の中で、王子の死を悼むと同時に、国の未来と自らの使命を思う。
夜は深く、城下町は静寂に包まれる。
だが、その静寂の奥では、赤い刃が残した影が、確実に次の波を呼ぼうとしていた。
ファルト王子の死から数日後、ヴェルリカ国内では国葬の準備が静かに進められていた。国民の前に姿を見せることは控えられ、関係者だけが葬儀に参列する。
ルシア姫と景嵐は、この日ばかりは静かに葬列に加わった。二人にとって、王子の死は無念であり、同時に今後の国の行く末を案じる重い現実でもあった。
アルデリオス三世は、病を押して葬儀に臨んでいた。背筋を伸ばし、気丈に振る舞おうとするその姿は、王としての威厳を保とうとする意志の表れであった。しかし、目の端に景嵐とルシアの二人が見えた瞬間、王の体は一瞬にして崩れそうになる。
景嵐はすぐに駆け寄り、支えながら静かに言った。
「王様、どうかお体をお大事になさってください。」
アルデリオス三世は二人の腕に頼るようにして立ち、かすれた声で詫びた。
「赦してくれ……お前たちに、これほどの苦労を……」
ルシアは王の弱りを目の当たりにし、胸が詰まる。景嵐もまた、王の苦悩を痛感し、言葉を失った。二人の眼差しには同情と複雑な思いが入り混じるが、口に出す言葉はなかった。
葬列は静かに進み、王都の街角には重苦しい沈黙が漂う。王国の未来を思い、ルシアは景嵐の手を軽く握った。景嵐もその手を握り返し、互いに無言の覚悟を確認する。
夜の帳が降りるまで、二人は王のそばで静かに立ち続けた。国を守る者として、そして未来を見据える者として、できることは何かを胸に刻みながら。
ヴェルリカの影に沈む王の姿――その前で、ルシアと景嵐は、言葉にできぬ重さを抱きしめていた。
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