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第九章:「衰退と再生の章」
第百十七話:「衰退の王国と復興の兆し」
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アルテリス国とヴェルリカ国――。
二つの国はともに深い疲弊の中にあった。
ヴェルリカは、アルデリオス三世の病とファルトの死により、王族の血筋が絶たれ、未来を失いかけていた。かつての威勢ある大国の姿はそこになく、民は不安の影に怯えていた。
一方のアルテリス国もまた、後継者を欠いた王の老いが国の行く末を曇らせていた。交易路は細り、海に面した地の利も活かせず、隣国の侵攻を恐れるばかりの日々であった。
そんな二国の間に、烈陽国が調停役として立つ。
リンは使者を送り、藍峯もまた知恵を巡らせ、両国の重臣を烈陽に招いて密談の場を設けた。
「いずれ滅びゆくと恐れるよりも、手を携え、再び立ち上がる道を選ぶべきです」
リンの声は静かに、しかし確かな力を帯びていた。
藍峯は現実を突きつける。
「両国は今や軍も財も足りぬ。だが、互いに欠けたものを補い合えば、まだ立て直すことは可能だ。海に面したアルテリスの港は交易の要。ヴェルリカの大地は農の力を蓄えている。烈陽が中立として調停に立ち、交易と防衛を保証しよう。」
重臣たちは初めこそ互いを疑い、言葉を荒げもした。
だが、烈陽国がかつて魏志国を立ち直らせた実績を示し、具体的な交易や防衛の案を示すと、次第に頷く声が増えていく。
「……我らの国に、まだ未来はあるのか」
アルテリス王は深い溜息の後、苦渋の声でそう呟いた。
「未来は、選ぶものです」
藍峯は王を真っ直ぐに見据えて答える。
やがて両国の間に小さな合意が生まれる。
互いに民を食わせることを第一に据え、烈陽の支援のもと、交易と農を復興の軸とすることで意見が一致したのである。
その報せは魏志国にも届いた。
景嵐とルシアは胸を撫で下ろす。
「父上の国も……ヴェルリカも……まだ、立ち直る道があるのですね」
ルシアの目に安堵の涙が浮かぶ。
景嵐はその手を取って静かに頷いた。
「もう姫が一人で背負う必要はない。烈陽が導き、両国は再び立ち上がる。ここ魏志国で、我らは新しい未来を築こう。」
その夜、二人は魏志国の灯りに照らされながら、ようやく心安らぐひとときを過ごした。
魏志国の都には、今までにない華やぎが満ちていた。
大路には色とりどりの布が飾られ、楼閣には絹の旗がはためく。市井の人々は口々に噂した。
「烈陽を震わせた武神と、異国の姫の婚礼だ」
「苦難を乗り越えた二人に、幸あれ」
景嵐とルシア姫の婚礼の儀は、魏志国の王城にて盛大に執り行われた。
王と后自らが立ち会い、国を挙げての祝福となったのである。
広間には楽の音が響き渡り、絹をまとった舞姫たちが祝舞を披露する。香炉からは甘やかな香りが漂い、天井に吊られた灯籠が煌々と輝きを放っていた。
景嵐は凛とした姿で礼装に身を包み、深い決意をその眼に宿していた。
対するルシアは、純白に紅の織りを重ねた花嫁衣装に身を包み、かつての苦悩をすべて洗い流したかのように、晴れやかな笑みを浮かべていた。
誓いの盃が交わされると、広間に集った人々から歓声が湧き起こった。
「武神に祝福を!」
「姫に永遠の幸せを!」
その声はやがて大通りへと広がり、都は一夜にして祝祭の渦となった。
ルシアは小さな声で景嵐に囁く。
「……私がここまで来られたのは、あなたが共にいてくれたからです」
景嵐はその手を強く握り返し、短く答えた。
「これからも、ずっと共に。」
夜空には花火が打ち上げられ、光が魏志国の城を照らす。
それは、苦難を越えた二人に訪れた新たな始まりを告げる光であった。
ヴェルリカ王城の大広間。高い天井からは燭台が幾重にも吊るされ、威厳と荘厳さを漂わせる。壁には両国の紋章が並べて掲げられ、今はまだ別の旗であれど、やがて一つに重なる未来を暗示していた。
会議卓の上座には、ヴェルリカ国王とアルテリス国王が並び立つ。その両脇には烈陽国からの使節団として、三武官が威風堂々と座していた。赤き衣を纏った炎迅の武官、蒼を纏う水鏡の武官、そして岩のごとき体躯を誇る剛嶺の武官。その隣には、冷静な藍峯が身を正し、守武財が筆を取り準備を整えている。
重臣たちが次々と進み出て、統合の是非を論じ始めた。
⸻
「我がヴェルリカは、芸術と文化の都として栄えてきた。しかし財政は衰退し、このままでは民を飢えさせるだけ……。アルテリスと手を携えることこそ、未来の活路である」
ヴェルリカ宰相の言葉は静かだが切実だった。
対してアルテリスの老臣は眉をひそめる。
「だが、我らは騎士道を重んじる国。武を誇りとしてきた。文化を重んずるヴェルリカと一つになれば、我が矜持が薄れるのではないか?」
その場に微かなざわめきが走る。だが烈陽の三武官の一人、剛嶺が低い声で言った。
「誇りを捨てる必要はない。むしろ互いの強みを一つにすれば、誰にも負けぬ大国となろう。武なき文化は脆く、文化なき武は荒む。両者が並び立ってこそ、真の国だ」
藍峯は静かに続けた。
「烈陽国もかつて同じ道を歩みました。相異なる流派や民をまとめ上げるには、互いを否定するのではなく、尊び合うことが肝要なのです。魏志国が秩序を立て直せたのも、国を縛るのではなく広く文化を受け入れたからこそ」
守武財が広げた巻物には、統合後の体制案が記されていた。
「両国は一つの国家とする。ただし、初代の統合評議会にはヴェルリカ・アルテリス双方の重臣を等しく配し、文化と武の均衡を保つ。その上で王位は両国王の合議により次代を選出する。これが烈陽国からの提案です」
一瞬の沈黙。
やがて、アルテリスの老臣が深く頷いた。
「……民を飢えさせぬためならば、我らも矜持を守りつつ歩むべきか」
ヴェルリカ王が席を立ち、声を張った。
「この日をもって、我ら二国は一つとなる! 文化と武、剣と筆を携えて、新たな未来を築かん!」
大広間に割れるような歓声が響く。烈陽国の三武官もまた頷き、藍峯の視線が一瞬、魏志国へと渡った景嵐とルシア姫の安寧を思うように遠くを見つめていた。
二つの国はともに深い疲弊の中にあった。
ヴェルリカは、アルデリオス三世の病とファルトの死により、王族の血筋が絶たれ、未来を失いかけていた。かつての威勢ある大国の姿はそこになく、民は不安の影に怯えていた。
一方のアルテリス国もまた、後継者を欠いた王の老いが国の行く末を曇らせていた。交易路は細り、海に面した地の利も活かせず、隣国の侵攻を恐れるばかりの日々であった。
そんな二国の間に、烈陽国が調停役として立つ。
リンは使者を送り、藍峯もまた知恵を巡らせ、両国の重臣を烈陽に招いて密談の場を設けた。
「いずれ滅びゆくと恐れるよりも、手を携え、再び立ち上がる道を選ぶべきです」
リンの声は静かに、しかし確かな力を帯びていた。
藍峯は現実を突きつける。
「両国は今や軍も財も足りぬ。だが、互いに欠けたものを補い合えば、まだ立て直すことは可能だ。海に面したアルテリスの港は交易の要。ヴェルリカの大地は農の力を蓄えている。烈陽が中立として調停に立ち、交易と防衛を保証しよう。」
重臣たちは初めこそ互いを疑い、言葉を荒げもした。
だが、烈陽国がかつて魏志国を立ち直らせた実績を示し、具体的な交易や防衛の案を示すと、次第に頷く声が増えていく。
「……我らの国に、まだ未来はあるのか」
アルテリス王は深い溜息の後、苦渋の声でそう呟いた。
「未来は、選ぶものです」
藍峯は王を真っ直ぐに見据えて答える。
やがて両国の間に小さな合意が生まれる。
互いに民を食わせることを第一に据え、烈陽の支援のもと、交易と農を復興の軸とすることで意見が一致したのである。
その報せは魏志国にも届いた。
景嵐とルシアは胸を撫で下ろす。
「父上の国も……ヴェルリカも……まだ、立ち直る道があるのですね」
ルシアの目に安堵の涙が浮かぶ。
景嵐はその手を取って静かに頷いた。
「もう姫が一人で背負う必要はない。烈陽が導き、両国は再び立ち上がる。ここ魏志国で、我らは新しい未来を築こう。」
その夜、二人は魏志国の灯りに照らされながら、ようやく心安らぐひとときを過ごした。
魏志国の都には、今までにない華やぎが満ちていた。
大路には色とりどりの布が飾られ、楼閣には絹の旗がはためく。市井の人々は口々に噂した。
「烈陽を震わせた武神と、異国の姫の婚礼だ」
「苦難を乗り越えた二人に、幸あれ」
景嵐とルシア姫の婚礼の儀は、魏志国の王城にて盛大に執り行われた。
王と后自らが立ち会い、国を挙げての祝福となったのである。
広間には楽の音が響き渡り、絹をまとった舞姫たちが祝舞を披露する。香炉からは甘やかな香りが漂い、天井に吊られた灯籠が煌々と輝きを放っていた。
景嵐は凛とした姿で礼装に身を包み、深い決意をその眼に宿していた。
対するルシアは、純白に紅の織りを重ねた花嫁衣装に身を包み、かつての苦悩をすべて洗い流したかのように、晴れやかな笑みを浮かべていた。
誓いの盃が交わされると、広間に集った人々から歓声が湧き起こった。
「武神に祝福を!」
「姫に永遠の幸せを!」
その声はやがて大通りへと広がり、都は一夜にして祝祭の渦となった。
ルシアは小さな声で景嵐に囁く。
「……私がここまで来られたのは、あなたが共にいてくれたからです」
景嵐はその手を強く握り返し、短く答えた。
「これからも、ずっと共に。」
夜空には花火が打ち上げられ、光が魏志国の城を照らす。
それは、苦難を越えた二人に訪れた新たな始まりを告げる光であった。
ヴェルリカ王城の大広間。高い天井からは燭台が幾重にも吊るされ、威厳と荘厳さを漂わせる。壁には両国の紋章が並べて掲げられ、今はまだ別の旗であれど、やがて一つに重なる未来を暗示していた。
会議卓の上座には、ヴェルリカ国王とアルテリス国王が並び立つ。その両脇には烈陽国からの使節団として、三武官が威風堂々と座していた。赤き衣を纏った炎迅の武官、蒼を纏う水鏡の武官、そして岩のごとき体躯を誇る剛嶺の武官。その隣には、冷静な藍峯が身を正し、守武財が筆を取り準備を整えている。
重臣たちが次々と進み出て、統合の是非を論じ始めた。
⸻
「我がヴェルリカは、芸術と文化の都として栄えてきた。しかし財政は衰退し、このままでは民を飢えさせるだけ……。アルテリスと手を携えることこそ、未来の活路である」
ヴェルリカ宰相の言葉は静かだが切実だった。
対してアルテリスの老臣は眉をひそめる。
「だが、我らは騎士道を重んじる国。武を誇りとしてきた。文化を重んずるヴェルリカと一つになれば、我が矜持が薄れるのではないか?」
その場に微かなざわめきが走る。だが烈陽の三武官の一人、剛嶺が低い声で言った。
「誇りを捨てる必要はない。むしろ互いの強みを一つにすれば、誰にも負けぬ大国となろう。武なき文化は脆く、文化なき武は荒む。両者が並び立ってこそ、真の国だ」
藍峯は静かに続けた。
「烈陽国もかつて同じ道を歩みました。相異なる流派や民をまとめ上げるには、互いを否定するのではなく、尊び合うことが肝要なのです。魏志国が秩序を立て直せたのも、国を縛るのではなく広く文化を受け入れたからこそ」
守武財が広げた巻物には、統合後の体制案が記されていた。
「両国は一つの国家とする。ただし、初代の統合評議会にはヴェルリカ・アルテリス双方の重臣を等しく配し、文化と武の均衡を保つ。その上で王位は両国王の合議により次代を選出する。これが烈陽国からの提案です」
一瞬の沈黙。
やがて、アルテリスの老臣が深く頷いた。
「……民を飢えさせぬためならば、我らも矜持を守りつつ歩むべきか」
ヴェルリカ王が席を立ち、声を張った。
「この日をもって、我ら二国は一つとなる! 文化と武、剣と筆を携えて、新たな未来を築かん!」
大広間に割れるような歓声が響く。烈陽国の三武官もまた頷き、藍峯の視線が一瞬、魏志国へと渡った景嵐とルシア姫の安寧を思うように遠くを見つめていた。
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