『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第九章:「衰退と再生の章」

第百十八話:「烈陽国の三武官」

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烈陽国には、民から絶大な信頼を寄せられる三人の将がいた。
彼らはそれぞれ異なる力と心を備え、国を支える柱として「三武官」と呼ばれている。

ひとりは――炎迅の武官。
赤き衣を纏い、烈火のごとき勢いで戦場を駆け抜ける。
その剣が一度振るわれれば十にも二十にも及ぶ兵が退けられ、勇猛果敢な姿は兵たちの心を奮い立たせた。
烈陽の炎を象徴するように、彼は常に先陣を切り、勝利の火を灯す存在であった。

もうひとりは――水鏡の武官。
蒼き衣を纏い、戦場においては決して激情に呑まれることがない。
静かに戦況を見渡すその瞳は、鏡のように正確に物事を映し出す。
彼の采配には無駄がなく、流れる水のごとく自然に軍を導いた。
また、言葉の力を重んじ、調停や和議においても欠かせぬ存在とされている。

そして最後に――剛嶺の武官。
岩のごとき体躯を誇り、黒鉄の鎧を纏えばまるで山そのものが戦場を歩むかのようであった。
その一歩ごとに大地が鳴動するかのごとき迫力を放ち、盾と矛を携えて兵たちを守護する。
彼の防御は鉄壁であり、万軍をもってしても破れぬと称された。
だが彼は己の力を誇示するよりも、兵を庇い護ることにこそ己の価値を見出していた。

炎迅は烈火の先駆け、水鏡は蒼流の叡智、剛嶺は大地の守護。
三者三様の個性を備えながらも、烈陽国の安寧を護らんとする心はひとつであった。

この三武官と天翔、星華、リンの三武神の存在こそが、烈陽国を周辺諸国から畏敬され、信頼される国家たらしめていたのである。
大広間には、烈陽国の三武官をはじめ、藍峯、守武財、そして両国の重臣らが整然と並び立っていた。
紅と蒼の絹布が左右に垂らされ、その中央には両国の紋章が新たに並べ掲げられている。
それは、これまで幾度も剣を交えてきた両国が、今日より一つの道を歩むことを象徴する印であった。

壇上に進み出たのはヴェルリカ国王・アルデリオス三世。
長き病に蝕まれ、顔色は青白い。だが、この日のために気力を振り絞り、毅然と立つ。
その姿に、広間に集まった人々は自然と頭を垂れた。

「本日をもって、我らは争いを忘れ、互いの力を合わせ、新たな未来を築く」
アルデリオス三世の声はかすれていたが、確かに広間の隅々にまで響いた。
その言葉に、両国の重臣たちは静かに頷き、兵たちは胸を張る。

続いてアルテリスの代表が口を開いた。
「これより先、我らは血で争うのではなく、共に汗を流すことを誓う。
 両国の民に、秩序と安寧を与えんために。」

調停役として烈陽国の藍峯が進み出る。
「烈陽は、この盟約の証人としてここに立つ。互いの誓いを違えることあらば、我が烈陽が正義をもって裁きを下そう。」
彼の厳然たる言葉に、場は一層引き締まる。

やがて、重々しい調印の刻が訪れる。
大理石の机に広げられた羊皮紙には、新国家設立の条文が細やかに記されていた。
アルデリオス三世とアルテリス代表が、それぞれ筆を執り、署名を加える。

その瞬間、広間に歓声が湧き上がった。
「万歳! 新国家の誕生に栄光あれ!」
兵も民も声を揃え、涙する者すらいた。

壇上の端からその光景を見つめていたルシアは、胸の奥から熱いものが込み上げるのを感じた。
過去の苦しみも、父から受けた厳しい言葉も、この瞬間にはすべてが報われる気がした。

景嵐はその横顔を見守りながら、静かに心中で誓った。
「この姫の未来を、必ず守る。」

こうしてヴェルリカとアルテリスは、長きにわたる争いに終止符を打ち、新たなる一大国家として歩み始めたのであった。

調印から幾日も経たぬうちに、烈陽国より派遣された三武官――炎迅のカガリ、水鏡のシュエイ、剛嶺のゴウバが中心となり、新国家の基盤を築くための施策が次々と打ち出された。

第一の課題は「国境の撤廃」であった。
これまで両国を隔てていた砦や関所は順次取り払われ、代わりに交易の拠点として市場や宿場町が整備される。
兵士たちは国境警備ではなく、新たに設けられた「治安維持軍」として再編され、治安と民衆の安全を守る役割を担うことになった。

第二の課題は「王制の維持と移行」である。
アルデリオス三世とアルテリス王が存命の間は、両国連立の方式を続け、それぞれの王を「大王」「副王」と位置付け、均衡を保つこととした。
だが、それは一時的なものであり、永続は望めぬ。
そこで烈陽の提案のもと、三武官の主導により「議会制」の導入が決められる。

「民の声を国政に反映させるには、これが最も良い」
水鏡が冷静に言うと、剛嶺のは腕を組み、力強く頷いた。
「力で押さえつける時代は終わった。秩序を守るのは武でなく法だ」

そして炎迅が笑みを浮かべ、言葉を継いだ。
「ならば、その法を生かすためにも民が選ぶ議会が要る。選挙こそが未来を繋ぐ火種だろう。」

こうして新国家では、初めて民衆が主権を担う仕組みが導入されることとなる。
両国の民は驚きと戸惑いの中にあったが、それでも「自らの意思で国を動かせる」という希望に胸を熱くする者は少なくなかった。

やがて初めての選挙が行われる日程が定められると、人々の心には次第に「敵国」ではなく「共に未来を築く仲間」という意識が芽生え始める。

景嵐はその流れを見つめ、心の奥で静かに呟いた。
「これこそが、ルシア姫が願っていた安らぎの未来なのかもしれぬ……」

ルシアもまた、窓の外に広がる人々の笑顔を見つめながら、小さく微笑んでいた。

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