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第九章:「衰退と再生の章」
第百二十話:「ヴェルテリス憲法の制定」
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ヴェルテリス建国のため、憲法制定の大議会が始まった。議場に姿を現したのは、烈陽国からの特使として招かれた壮舷である。
彼は藍峯の配下に名を連ねる者であり、かつて魏志国や晋平国の法体系の制定に携わった経験を持つ。その知識と手腕は、すでに烈陽国でも高く評価されていた。
壮舷は壇上に進み出て、ゆったりとした口調で語り始める。
「ヴェルテリスが目指すのは、ヴェルリカとアルテリスの枠を越えた新たな国。ならば、憲法は双方の伝統と誇りを共に映すものでなければならぬ」
議員たちは黙って耳を傾ける。壮舷の言葉には、烈陽国に根を下ろしつつも、数多の国の法を知り尽くした者ならではの重みがあった。
「かつて魏志では、強き者が民を押さえつけた。晋平では、法を複雑にして混乱を招いた。だが、烈陽は違う。法を秩序と信義の証とし、民の暮らしを守るために磨いてきた。ヴェルテリスも、その道を選ぶべきだ」
彼は用意した草案を掲げる。それは「統治権は選ばれた代表に帰属する」「信仰と言論の自由を保障する」「王侯・武官も法に従う」といった根本理念を骨子とするものだった。
やがて壮舷は深く一礼した。
「私は藍峯様の配下として、また烈陽の一市民として、この憲法が新たなる国を導く羅針盤となることを願っている」
議場には重々しい沈黙が広がり、続いて大きな拍手が湧き起こった。ヴェルテリス憲法制定の道は、壮舷の言葉によって確かな形を帯び始めたのである。
憲法が制定されて間もなく、ヴェルテリスは新たな規律の下で歩みを始めた。そこには「法を犯した者には重罰を、国に尽くす者には厚き賞を」という明快な理念が刻まれていた。
だが、その理念が試されるのは早かった。
市の市場で盗みを働いた男が捕らえられたのである。
「ヴェルテリス憲法の下では、民衆の財産は尊重されねばならぬ」
裁きを下す役人は冷然と告げた。
男は小さな盗みを軽んじていた。だが新国家の法は妥協を許さない。判決は、盗人の前歯を抜き、再び罪を犯せぬよう指の一本を折るという厳罰であった。
その処断が公の場で執り行われると、広場に集った群衆は息を呑み、やがて厳粛な空気の中に言葉を失った。新たな国が掲げる「賞罰」の方針は、もはや建前ではなく、現実として人々の前に示されたのである。
一方で、別の場では、荒れた大地を耕し、民の糧を増やした農夫に褒賞が与えられていた。彼には金貨と新たな耕地が与えられ、その家族は人々の称賛に包まれた。
罰と賞。その両輪が並び立つことで、ヴェルテリスは規律を確立しつつあった。
壮舷はその様子を見届け、静かに言葉を漏らす。
「法は血を流すためではなく、民を正すためにある。これを守り続けることこそ、国を強くする礎となろう」
三武官は広場を見渡し、群衆の中に芽生えた緊張感と秩序を感じ取っていた。新しき国ヴェルテリスは、まさに法と規律の国家として歩み出したのだった。
処罰と褒賞が同じ日に示されたことで、ヴェルテリスの民衆は揺れていた。
広場で盗賊の罰を目の当たりにした者たちは、恐怖に顔を強張らせながらも、心のどこかで安堵を覚えていた。
「これで夜道を歩いても安心できるかもしれぬ」
「だが、あのような罰はあまりに残酷ではないか」
ささやき声が人々の間を行き交う。
一方、農夫が褒賞を受けた場面を目撃した者たちは、羨望と希望の入り混じった眼差しを向けた。
「努力すれば報われる国なのだ」
「ならば我らも力を尽くすしかあるまい」
子どもたちは拍手をし、大人たちは黙してその光景を胸に刻んだ。
――恐れと期待。
両者は相反するようでありながら、奇妙な均衡を保ち、新たな国に独特の空気をもたらしていた。
壮舷は広場を後にしながら、藍峯へと語った。
「この国はまだ幼子のようなものです。罰で恐れを知り、賞で希望を知る。だが、やがて民自らが正しきを選び取れるよう、我らは導かねばなりません」
藍峯は深くうなずき、烈陽国からの使者としての使命を改めて胸に刻んだ。
そして三武官は、民衆のざわめきを背に広場を後にしつつ、新国家ヴェルテリスの未来を静かに見守るのだった。
ヴェルテリス憲法が公布され、最初の賞罰が実施された報は瞬く間に周辺諸国へと伝わった。
烈陽国や魏志国は、「規律と秩序を尊ぶ国家」として評価を与え、安定を望む立場から静観の姿勢を示した。
しかし、隣国ドレイヴァ国は違った。
「苛烈な賞罰をもって民を統べる新国家が隣に生まれた……いずれ矛先が我らに向くやもしれぬ」
国王のもとに集った重臣たちは声をひそめ、やがて警戒の色を強めた。
国境の砦には増兵が命じられ、偵察兵が密かにヴェルテリスの動向を探り始める。
その一方で、ヴェルテリス国内でも備えは進められた。
三武官を中心に、国境の要所に新たな兵営が築かれ、兵士たちは日々鍛錬を重ねた。
「ただの軍備ではない。民の暮らしを守るための兵だ」
と壮舷は訴え、兵力の増強が恐怖ではなく安心として伝わるよう心を砕いた。
さらに国を潤すための政策も始まった。
豊かな海に面した沿岸部では漁港の整備が進められ、遠洋に出る船団が組織された。
農村では用水路が改修され、新たな耕作地が開かれた。
「魚も穀も豊かに育てば、腹を満たし心も安らぐ」
藍峯はそう言い、産業と食糧の安定こそ国の基盤と説いた。
商いもまた、かつての国境を越えて活気を取り戻しつつあった。
市場にはヴェルリカの織物とアルテリスの葡萄酒が並び、互いの民は自由に売り買いを楽しむ。
かつて憎しみ合った民が、同じ貨幣を用いて笑顔で取引する姿は、国の未来を象徴する光景となった。
――だがその陰で、ドレイヴァ国の影が忍び寄っていた。
彼らの警戒と増兵は、やがてヴェルテリスに新たな試練をもたらすことになる。
彼は藍峯の配下に名を連ねる者であり、かつて魏志国や晋平国の法体系の制定に携わった経験を持つ。その知識と手腕は、すでに烈陽国でも高く評価されていた。
壮舷は壇上に進み出て、ゆったりとした口調で語り始める。
「ヴェルテリスが目指すのは、ヴェルリカとアルテリスの枠を越えた新たな国。ならば、憲法は双方の伝統と誇りを共に映すものでなければならぬ」
議員たちは黙って耳を傾ける。壮舷の言葉には、烈陽国に根を下ろしつつも、数多の国の法を知り尽くした者ならではの重みがあった。
「かつて魏志では、強き者が民を押さえつけた。晋平では、法を複雑にして混乱を招いた。だが、烈陽は違う。法を秩序と信義の証とし、民の暮らしを守るために磨いてきた。ヴェルテリスも、その道を選ぶべきだ」
彼は用意した草案を掲げる。それは「統治権は選ばれた代表に帰属する」「信仰と言論の自由を保障する」「王侯・武官も法に従う」といった根本理念を骨子とするものだった。
やがて壮舷は深く一礼した。
「私は藍峯様の配下として、また烈陽の一市民として、この憲法が新たなる国を導く羅針盤となることを願っている」
議場には重々しい沈黙が広がり、続いて大きな拍手が湧き起こった。ヴェルテリス憲法制定の道は、壮舷の言葉によって確かな形を帯び始めたのである。
憲法が制定されて間もなく、ヴェルテリスは新たな規律の下で歩みを始めた。そこには「法を犯した者には重罰を、国に尽くす者には厚き賞を」という明快な理念が刻まれていた。
だが、その理念が試されるのは早かった。
市の市場で盗みを働いた男が捕らえられたのである。
「ヴェルテリス憲法の下では、民衆の財産は尊重されねばならぬ」
裁きを下す役人は冷然と告げた。
男は小さな盗みを軽んじていた。だが新国家の法は妥協を許さない。判決は、盗人の前歯を抜き、再び罪を犯せぬよう指の一本を折るという厳罰であった。
その処断が公の場で執り行われると、広場に集った群衆は息を呑み、やがて厳粛な空気の中に言葉を失った。新たな国が掲げる「賞罰」の方針は、もはや建前ではなく、現実として人々の前に示されたのである。
一方で、別の場では、荒れた大地を耕し、民の糧を増やした農夫に褒賞が与えられていた。彼には金貨と新たな耕地が与えられ、その家族は人々の称賛に包まれた。
罰と賞。その両輪が並び立つことで、ヴェルテリスは規律を確立しつつあった。
壮舷はその様子を見届け、静かに言葉を漏らす。
「法は血を流すためではなく、民を正すためにある。これを守り続けることこそ、国を強くする礎となろう」
三武官は広場を見渡し、群衆の中に芽生えた緊張感と秩序を感じ取っていた。新しき国ヴェルテリスは、まさに法と規律の国家として歩み出したのだった。
処罰と褒賞が同じ日に示されたことで、ヴェルテリスの民衆は揺れていた。
広場で盗賊の罰を目の当たりにした者たちは、恐怖に顔を強張らせながらも、心のどこかで安堵を覚えていた。
「これで夜道を歩いても安心できるかもしれぬ」
「だが、あのような罰はあまりに残酷ではないか」
ささやき声が人々の間を行き交う。
一方、農夫が褒賞を受けた場面を目撃した者たちは、羨望と希望の入り混じった眼差しを向けた。
「努力すれば報われる国なのだ」
「ならば我らも力を尽くすしかあるまい」
子どもたちは拍手をし、大人たちは黙してその光景を胸に刻んだ。
――恐れと期待。
両者は相反するようでありながら、奇妙な均衡を保ち、新たな国に独特の空気をもたらしていた。
壮舷は広場を後にしながら、藍峯へと語った。
「この国はまだ幼子のようなものです。罰で恐れを知り、賞で希望を知る。だが、やがて民自らが正しきを選び取れるよう、我らは導かねばなりません」
藍峯は深くうなずき、烈陽国からの使者としての使命を改めて胸に刻んだ。
そして三武官は、民衆のざわめきを背に広場を後にしつつ、新国家ヴェルテリスの未来を静かに見守るのだった。
ヴェルテリス憲法が公布され、最初の賞罰が実施された報は瞬く間に周辺諸国へと伝わった。
烈陽国や魏志国は、「規律と秩序を尊ぶ国家」として評価を与え、安定を望む立場から静観の姿勢を示した。
しかし、隣国ドレイヴァ国は違った。
「苛烈な賞罰をもって民を統べる新国家が隣に生まれた……いずれ矛先が我らに向くやもしれぬ」
国王のもとに集った重臣たちは声をひそめ、やがて警戒の色を強めた。
国境の砦には増兵が命じられ、偵察兵が密かにヴェルテリスの動向を探り始める。
その一方で、ヴェルテリス国内でも備えは進められた。
三武官を中心に、国境の要所に新たな兵営が築かれ、兵士たちは日々鍛錬を重ねた。
「ただの軍備ではない。民の暮らしを守るための兵だ」
と壮舷は訴え、兵力の増強が恐怖ではなく安心として伝わるよう心を砕いた。
さらに国を潤すための政策も始まった。
豊かな海に面した沿岸部では漁港の整備が進められ、遠洋に出る船団が組織された。
農村では用水路が改修され、新たな耕作地が開かれた。
「魚も穀も豊かに育てば、腹を満たし心も安らぐ」
藍峯はそう言い、産業と食糧の安定こそ国の基盤と説いた。
商いもまた、かつての国境を越えて活気を取り戻しつつあった。
市場にはヴェルリカの織物とアルテリスの葡萄酒が並び、互いの民は自由に売り買いを楽しむ。
かつて憎しみ合った民が、同じ貨幣を用いて笑顔で取引する姿は、国の未来を象徴する光景となった。
――だがその陰で、ドレイヴァ国の影が忍び寄っていた。
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