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第九章:「衰退と再生の章」
第百二十三話:「ドレイヴァ国の要求」
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重苦しい空気が議場を覆っていた。
ドレイヴァ国からの最新の通達は、ヴェルテリスの議員たちにとって到底受け入れられるものではなかったからだ。
「ヴェルテリスの港湾近郊に、我が国の天然ガス供給施設を建設したい――」
それが彼らの要求であった。表向きには相互の利益を強調するものの、実際にはドレイヴァの権益を国内に根付かせる企みであることは明白だった。
「主権の侵害だ!」
「国土を売り渡すつもりか!」
反発の声が次々にあがり、議場は一時騒然となる。特に建設予定地に指定されたのは肥沃な農地と水源の近辺であり、環境破壊や住民の強制移転も避けられぬ計画であった。議員たちの憤りは当然であった。
一方で、ドレイヴァ国の圧力は容赦がなかった。
要求を拒むなら、ただちに天然ガスの供給を停止する――。彼らはそう通告してきたのだ。エネルギーの多くをドレイヴァに依存してきたヴェルテリスにとって、それは致命的な打撃となりうる。
やがて、国内には不穏な動きが広がり始める。停電、物流の停滞、燃料価格の高騰。混乱をあおるかのように、反政府を掲げる集団が突如として活動を活発化させた。背後にドレイヴァの影があることは、誰の目にも明らかだった。
そして、決定的な一報が届く。
「ドレイヴァ軍、国境を越えた!」
施設建設予定地を“護衛する”との名目で、武装した部隊が進駐を開始したのだ。
その瞬間、ヴェルテリスの議場は静まり返った。沈黙ののち、ただひとつの決断が下される。
――これは侵略である。
国土と民を守るため、ヴェルテリスはドレイヴァ国との戦争に踏み込むしかなかった。
議場を出た宣命は即座に現場へ走った。壮舷が書簡に署名し、三武官が互いに短く会釈を交わすと、命令は伝令を介して各地の将校へと一斉に流れた。
「建設予定地の確保と住民の避難、工事予定地周辺の哨戒強化。工兵隊は堅固な仮設防衛線を築け。海側は艦隊に哨戒を命ずる――あくまで防御、挑発は避けよ」
まず動いたのは工兵と補給部隊だった。荷馬や簡易台車で土嚢、杭、鋼板が運び込まれ、築堤と簡易塹壕が急ピッチで組み上げられる。山稜を利用して観測所が置かれ、狙撃手と軽火器小隊が要所に配される。火薬庫や燃料庫は村から離れた安全圏に厳重に隔てられた。
同時に医療班と救護所が設営され、民の避難所が整えられる。壮舷の指示で、法律に基づく補償と保護を約束する文書が配られ、住民の不安を少しでも和らげるよう努めた。
海上では、ヴェルテリスの沿岸哨戒艦が定礎線の外側を周回し、ドレイヴァの艦隊に過度な接近を許さない姿勢を示す。艦上の砲座は海域を見渡しつつも、発砲命令は厳格に制限された。水鏡の武官が艦隊指揮官に静かに言い渡す。
「示威はするが、初発は我らが取るべきではない。証拠を残しつつ、国際的な正当性を確保せよ」
陸上の指揮は剛嶺が担い、彼の下で一千余の歩兵、騎兵、小隊単位の機動部隊が配備された。丘陵の背後には予備の騎馬連隊が控え、夜間の襲撃に備えて巡回が厳しく行われる。補給線は魏志国・烈陽国との協力で確保され、食糧・弾薬・医療物資は三日分の余剰を持たせて運ばれた。壮舷は地元の法手続きを整え、軍の動きが民権を侵さぬよう法的根拠を明文化させる。
同時に情報戦が始まった。藍峯は諜報網を動かし、ドレイヴァ側の真意とその裏の工作員の動きを洗い出させる。偽造の痕跡、写真の出自、布片の織り方、宣伝文の出所――あらゆる断片が法廷で使える証拠へと収集される。壮舷はこれらを基に中立国を交えた現地検証を要求する書簡をドレイヴァへ送付した。外交は同時並行で、戦闘ではなく証拠と正当性で対抗する構えだ。
だが、軍は配備された以上、抑止以上の役割も負う。兵士たちは住民と接する際、節度を以て振る舞うよう命じられた。暴発を警戒して、武官たちは繰り返し「守るための力」であることを訓示する。景嵐やルシアの名は現場では囁かれ、兵の士気に複雑な影を落としたが、命令は忠実に遂行された。
夕暮れ、築かれた仮設線と見張り塔の上に、三武官が並んで立った。風が土嚢の埃を静かに巻き上げる。炎迅は短く息を吐き、剛嶺は拳をぎゅっと握る。水鏡は遠方の海を見据えたまま、低く言った。
「ここから先は、我らの手腕次第だ。戦は避けねばならぬが、国と民は守る。両立する道を示そう」
その夜、ヴェルテリスは建設予定地に防衛線を張り、住民の避難と補償を進めつつ、証拠の収集と外交の急展開で応じる態勢を整えた。戦端を開くのは最終手段だ――だが、今は確かに「守るための軍」が、そこにあった。
次の一手は、ドレイヴァ側の反応を見てからだ。だが、配備は完了した。綱渡りのような均衡の中、ヴェルテリスは静かに、しかし確固たる意思でその場所を堅持していた。
薄曇りの朝霧が谷を満たすころ、建設予定地を挟んで両軍はほぼ同じ時刻に姿を現した。東の丘陵の向こうからはヴェルテリスの旗が翻り、堅牢に組まれた仮設の塁線と哨戒塔が薄く天空の輪郭を描く。反対側、海寄りの低地にはドレイヴァの軍旗が列をなし、黒革の兜や重装の騎兵が砂埃を巻き上げながら進出してきた。
両軍の距離は、矢も銃も発射されぬほどの間合い――だが、そこには刃と火薬を孕んだ緊張が満ちている。風が旗をはためかせ、土の匂いと金属の冷たさが混じり合う。見張り塔の高所には望遠鏡を覗く者、地上には長い槍を携えた哨兵、馬上の将校たちは固い表情で互いの動静をうかがっていた。
ヴェルテリス側では、三武官が塁の最前列に並んでいた。炎迅は短く糸のように吐息を漏らし、黒い瞳に硬い星を灯す。水鏡は海面を見据え、艦隊からの報告を耳に入れつつ冷静に地勢を把握している。剛嶺は両腕を組み、ほとんど声を出さずに部隊の配置を見渡していた。壮舷はやや後方から全体を見て、法と条理の検討を胸に詰めている。藍峯は通信網の最終点検を行い、霧影や赤狼の報告を受け取っていた。
ドレイヴァ側の先頭には、老練な将軍が馬上に鎮座していた。彼の瞳は冷たく、口元には皮肉な笑みが浮かんでいる。老宰相の命を受けたその将は、進軍の意味を全兵に理解させているようだった。後方には輜重隊――軍務官や技術員が、まるで「守るべき施設の護衛団」として威圧的に配備されている。──この「護衛」の名目が、来るべき介入の既成事実を作る。
両軍の間には中立の幅が保たれ、いくつかの小隊が対峙し、互いの兵士が睨み合う。だが発砲はなかった。最初の一発が戦端を開くことを誰も望んでいなかったからではない。双方とも、初手を誤れば国際的に不利になり、計画が頓挫することを知っている。だからこそ、硬直した「お見合い」がそこにあるのだ。
やがて、双方の使者が中間点へ進み出るよう命じられた。壮舷は静かに一歩前に出て、汚れない白布で手袋をはめ、冷静な面持ちでドレイヴァの使節を迎えた。向こうから出てきたのは、将軍の側近であり、老宰相の意を受けた代表である。二つの影が、薄い霧のなかで重なり合う。
「我が国の民が流れ矢で被害を受けた。これは許しがたい挑発だ。貴国はまず謝罪し、被害の補償を行うべきではないか」──ドレイヴァ代表の声は低く、しかし不退転の響きを帯びる。
壮舷は冷たく微笑を抑え、法の書簡を鞄から取り出す。その指先は震えていない。「我らは現場検分と中立的な第三者の立会いを求める。宣伝で世論を煽る前に、事実を明らかにするのが先だ。演習の射程は物理的に確認済みだ。ここでの感情論は無益だ。」
応酬は言葉の刃となって交わされる。ドレイヴァ側は、既に国内の群衆を煽るための材料を手にしており、謝罪や賠償を引き出すことで政治的な「勝ち」を得る腹積もりが透けている。ヴェルテリス側は真実の暴露と外交での正当性を重視する。両者の利害は完全に食い違っていた。
空には艦砲の陰影がちらりと映り、海上ではドレイヴァの護送艦がゆっくりと姿勢を変える。岸辺の民は高台から下界の様子を固唾を呑んで見守り、子どもは母の膝に顔を埋めた。どこかの村では老人が静かに祈りを捧げ、別の一方では興奮した群衆が「戦の歌」を口ずさみはじめる。緊張は社会の各層へと浸透していく。
合図となる太鼓の音は、誰も叩かなかった。代わりに伝令が駆ける。三武官は命令を下した──「厳守せよ。挑発を避け、しかし位置は堅持せよ。交渉路を開け。撮影、記録、証拠の収集を最優先に」。ドレイヴァ将もまた、同様に部隊に静止命令を下す。両軍ともに兵の拳を抑え、火を出す者には厳罰を示した。
しかし、沈黙が永久に続くわけではない。背後の政治は既に動いており、どちらかの議会が臨時評議を開いて「最後通牒」を出す準備を進めている。遠くの通信塔からは続々と書簡が飛び、烈陽や魏志国にも緊急依頼が送られた。連携国の反応次第で、この「お見合い」は破られるだろう。
午後の陽が傾き始めるころ、両軍の顔ぶれは変わらぬまま、場は静かな緊迫で満たされていた。人々は息を殺し、歴史が次に示す一手を待つ。だがその場に立つ者は皆、ひとつだけを深く理解していた――ここでの一歩が、国の命運を決するということを。
ドレイヴァ国からの最新の通達は、ヴェルテリスの議員たちにとって到底受け入れられるものではなかったからだ。
「ヴェルテリスの港湾近郊に、我が国の天然ガス供給施設を建設したい――」
それが彼らの要求であった。表向きには相互の利益を強調するものの、実際にはドレイヴァの権益を国内に根付かせる企みであることは明白だった。
「主権の侵害だ!」
「国土を売り渡すつもりか!」
反発の声が次々にあがり、議場は一時騒然となる。特に建設予定地に指定されたのは肥沃な農地と水源の近辺であり、環境破壊や住民の強制移転も避けられぬ計画であった。議員たちの憤りは当然であった。
一方で、ドレイヴァ国の圧力は容赦がなかった。
要求を拒むなら、ただちに天然ガスの供給を停止する――。彼らはそう通告してきたのだ。エネルギーの多くをドレイヴァに依存してきたヴェルテリスにとって、それは致命的な打撃となりうる。
やがて、国内には不穏な動きが広がり始める。停電、物流の停滞、燃料価格の高騰。混乱をあおるかのように、反政府を掲げる集団が突如として活動を活発化させた。背後にドレイヴァの影があることは、誰の目にも明らかだった。
そして、決定的な一報が届く。
「ドレイヴァ軍、国境を越えた!」
施設建設予定地を“護衛する”との名目で、武装した部隊が進駐を開始したのだ。
その瞬間、ヴェルテリスの議場は静まり返った。沈黙ののち、ただひとつの決断が下される。
――これは侵略である。
国土と民を守るため、ヴェルテリスはドレイヴァ国との戦争に踏み込むしかなかった。
議場を出た宣命は即座に現場へ走った。壮舷が書簡に署名し、三武官が互いに短く会釈を交わすと、命令は伝令を介して各地の将校へと一斉に流れた。
「建設予定地の確保と住民の避難、工事予定地周辺の哨戒強化。工兵隊は堅固な仮設防衛線を築け。海側は艦隊に哨戒を命ずる――あくまで防御、挑発は避けよ」
まず動いたのは工兵と補給部隊だった。荷馬や簡易台車で土嚢、杭、鋼板が運び込まれ、築堤と簡易塹壕が急ピッチで組み上げられる。山稜を利用して観測所が置かれ、狙撃手と軽火器小隊が要所に配される。火薬庫や燃料庫は村から離れた安全圏に厳重に隔てられた。
同時に医療班と救護所が設営され、民の避難所が整えられる。壮舷の指示で、法律に基づく補償と保護を約束する文書が配られ、住民の不安を少しでも和らげるよう努めた。
海上では、ヴェルテリスの沿岸哨戒艦が定礎線の外側を周回し、ドレイヴァの艦隊に過度な接近を許さない姿勢を示す。艦上の砲座は海域を見渡しつつも、発砲命令は厳格に制限された。水鏡の武官が艦隊指揮官に静かに言い渡す。
「示威はするが、初発は我らが取るべきではない。証拠を残しつつ、国際的な正当性を確保せよ」
陸上の指揮は剛嶺が担い、彼の下で一千余の歩兵、騎兵、小隊単位の機動部隊が配備された。丘陵の背後には予備の騎馬連隊が控え、夜間の襲撃に備えて巡回が厳しく行われる。補給線は魏志国・烈陽国との協力で確保され、食糧・弾薬・医療物資は三日分の余剰を持たせて運ばれた。壮舷は地元の法手続きを整え、軍の動きが民権を侵さぬよう法的根拠を明文化させる。
同時に情報戦が始まった。藍峯は諜報網を動かし、ドレイヴァ側の真意とその裏の工作員の動きを洗い出させる。偽造の痕跡、写真の出自、布片の織り方、宣伝文の出所――あらゆる断片が法廷で使える証拠へと収集される。壮舷はこれらを基に中立国を交えた現地検証を要求する書簡をドレイヴァへ送付した。外交は同時並行で、戦闘ではなく証拠と正当性で対抗する構えだ。
だが、軍は配備された以上、抑止以上の役割も負う。兵士たちは住民と接する際、節度を以て振る舞うよう命じられた。暴発を警戒して、武官たちは繰り返し「守るための力」であることを訓示する。景嵐やルシアの名は現場では囁かれ、兵の士気に複雑な影を落としたが、命令は忠実に遂行された。
夕暮れ、築かれた仮設線と見張り塔の上に、三武官が並んで立った。風が土嚢の埃を静かに巻き上げる。炎迅は短く息を吐き、剛嶺は拳をぎゅっと握る。水鏡は遠方の海を見据えたまま、低く言った。
「ここから先は、我らの手腕次第だ。戦は避けねばならぬが、国と民は守る。両立する道を示そう」
その夜、ヴェルテリスは建設予定地に防衛線を張り、住民の避難と補償を進めつつ、証拠の収集と外交の急展開で応じる態勢を整えた。戦端を開くのは最終手段だ――だが、今は確かに「守るための軍」が、そこにあった。
次の一手は、ドレイヴァ側の反応を見てからだ。だが、配備は完了した。綱渡りのような均衡の中、ヴェルテリスは静かに、しかし確固たる意思でその場所を堅持していた。
薄曇りの朝霧が谷を満たすころ、建設予定地を挟んで両軍はほぼ同じ時刻に姿を現した。東の丘陵の向こうからはヴェルテリスの旗が翻り、堅牢に組まれた仮設の塁線と哨戒塔が薄く天空の輪郭を描く。反対側、海寄りの低地にはドレイヴァの軍旗が列をなし、黒革の兜や重装の騎兵が砂埃を巻き上げながら進出してきた。
両軍の距離は、矢も銃も発射されぬほどの間合い――だが、そこには刃と火薬を孕んだ緊張が満ちている。風が旗をはためかせ、土の匂いと金属の冷たさが混じり合う。見張り塔の高所には望遠鏡を覗く者、地上には長い槍を携えた哨兵、馬上の将校たちは固い表情で互いの動静をうかがっていた。
ヴェルテリス側では、三武官が塁の最前列に並んでいた。炎迅は短く糸のように吐息を漏らし、黒い瞳に硬い星を灯す。水鏡は海面を見据え、艦隊からの報告を耳に入れつつ冷静に地勢を把握している。剛嶺は両腕を組み、ほとんど声を出さずに部隊の配置を見渡していた。壮舷はやや後方から全体を見て、法と条理の検討を胸に詰めている。藍峯は通信網の最終点検を行い、霧影や赤狼の報告を受け取っていた。
ドレイヴァ側の先頭には、老練な将軍が馬上に鎮座していた。彼の瞳は冷たく、口元には皮肉な笑みが浮かんでいる。老宰相の命を受けたその将は、進軍の意味を全兵に理解させているようだった。後方には輜重隊――軍務官や技術員が、まるで「守るべき施設の護衛団」として威圧的に配備されている。──この「護衛」の名目が、来るべき介入の既成事実を作る。
両軍の間には中立の幅が保たれ、いくつかの小隊が対峙し、互いの兵士が睨み合う。だが発砲はなかった。最初の一発が戦端を開くことを誰も望んでいなかったからではない。双方とも、初手を誤れば国際的に不利になり、計画が頓挫することを知っている。だからこそ、硬直した「お見合い」がそこにあるのだ。
やがて、双方の使者が中間点へ進み出るよう命じられた。壮舷は静かに一歩前に出て、汚れない白布で手袋をはめ、冷静な面持ちでドレイヴァの使節を迎えた。向こうから出てきたのは、将軍の側近であり、老宰相の意を受けた代表である。二つの影が、薄い霧のなかで重なり合う。
「我が国の民が流れ矢で被害を受けた。これは許しがたい挑発だ。貴国はまず謝罪し、被害の補償を行うべきではないか」──ドレイヴァ代表の声は低く、しかし不退転の響きを帯びる。
壮舷は冷たく微笑を抑え、法の書簡を鞄から取り出す。その指先は震えていない。「我らは現場検分と中立的な第三者の立会いを求める。宣伝で世論を煽る前に、事実を明らかにするのが先だ。演習の射程は物理的に確認済みだ。ここでの感情論は無益だ。」
応酬は言葉の刃となって交わされる。ドレイヴァ側は、既に国内の群衆を煽るための材料を手にしており、謝罪や賠償を引き出すことで政治的な「勝ち」を得る腹積もりが透けている。ヴェルテリス側は真実の暴露と外交での正当性を重視する。両者の利害は完全に食い違っていた。
空には艦砲の陰影がちらりと映り、海上ではドレイヴァの護送艦がゆっくりと姿勢を変える。岸辺の民は高台から下界の様子を固唾を呑んで見守り、子どもは母の膝に顔を埋めた。どこかの村では老人が静かに祈りを捧げ、別の一方では興奮した群衆が「戦の歌」を口ずさみはじめる。緊張は社会の各層へと浸透していく。
合図となる太鼓の音は、誰も叩かなかった。代わりに伝令が駆ける。三武官は命令を下した──「厳守せよ。挑発を避け、しかし位置は堅持せよ。交渉路を開け。撮影、記録、証拠の収集を最優先に」。ドレイヴァ将もまた、同様に部隊に静止命令を下す。両軍ともに兵の拳を抑え、火を出す者には厳罰を示した。
しかし、沈黙が永久に続くわけではない。背後の政治は既に動いており、どちらかの議会が臨時評議を開いて「最後通牒」を出す準備を進めている。遠くの通信塔からは続々と書簡が飛び、烈陽や魏志国にも緊急依頼が送られた。連携国の反応次第で、この「お見合い」は破られるだろう。
午後の陽が傾き始めるころ、両軍の顔ぶれは変わらぬまま、場は静かな緊迫で満たされていた。人々は息を殺し、歴史が次に示す一手を待つ。だがその場に立つ者は皆、ひとつだけを深く理解していた――ここでの一歩が、国の命運を決するということを。
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