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第一章
選んで
しおりを挟む「……どうして、そんなに俺のこと」
聞かれると思っていなかったのか、僅かに目を見開くと、目尻を下げた。
「言ったでしょ?真昼くんのその目が僕に焼きついて離れないからだよ」
「目……?」
「そうだよ。僕がこうなっちゃったのは真昼くんのせい。真昼くんじゃないとダメになっちゃったの」
投げやりな割に恍惚とした響きのある声は、次には低く無機質になる。
「でも君はそうじゃない」
じろりと睨まれて体が竦み上がる。
そんな風に見られたことがなかったから余計に怖くて、無意識に後退ろうとすると、伸びてきた手に肩を強くつかまれる。
「だからさ、選んで。春日を捨てるか僕を捨てるか」
「えら、ぶ…、?」
「そう、君の中に要らないものがなくなるまで」
「……で、でも」
春日さんを選んだらお前は春日さんを殺すんだろう?なんてとても言えたものではなかった。
なら、最初から歩める道は一つしかなくて。
…………。
俺はナイフと鎖を引き連れて歩くしかなかった。
ナイフの持ち手が汗で濡れて不快で仕方ない。
こんな状況なのに普段だったら今頃、朔夜の作った温かいご飯を食べてるはずなのに、なんて。
この状況に陥れた犯人を思い浮かべる俺は、もうどこまでも手遅れだった。
こちらを見上げる春日さんの瞳は恐怖で濡れていた。必死に体を捻じって逃れようとしている。
ごめんなさいごめんなさい。でも俺がやらなきゃ、あなたは死んでしまうんだ。
震えてまともに動かない足を使って近づいていく。
やり方なんて分からない。けど俺がやらなきゃ。
俺が……俺が……
「大丈夫だよ真昼くん。最初は軽く傷をつけてみよう?僕が手伝ってあげるから」
春日さんの目の前に立った俺にそう言ってナイフを持った俺の手ごと包み込む。ひんやりとした冷たい手の感触が脳を刺す。
どんどん外堀を埋められていく。
このままじゃ本当に
「お、俺、やっぱりっ」
「できるよね。真昼くん」
俺の言葉を遮ると、ナイフを握った俺の手に力を入れ始める。
「ほら、一緒にしてあげるからよく覚えておいて」
焦る俺を置いて春日さんの手の甲へと近づいてく刃先に慌てて力を込めて反抗するが、どんどんナイフは沈んでいく。
汗がだらだらと全身から流れ出ていく。
怖い。なぜこんな事を望むんだいや分かってるけどこんな事したくない今だってナイフを放り出して逃げ出したいけど下手に動くと先輩に怪我を負わせるかもしれないそれぐらい刃先が皮膚に食い込んでああ俺はどうしたらいいどうし朔夜と、目が合った。
凍えてしまいそうな恐ろしい瞳だった。
ガリ
「ん゙ゥ゙ーッ!?」
拘束された腕を必死に捻ろうとしながら苦痛を訴える春日さんに、自分のしでかした事に気づいた。
「!?せ、せんぱっすみません!」
しまった力が抜けてっ…!どうしよう怪我してる!!
あんな一瞬のことだったのに、裂けた皮膚の間からじわりと赤い血が滲んできていて、とても痛そうで。可哀想で、でも、それをやったのが………おれ?
え?
「あ、あち、ちが…!おれは…!」
自分がやった事が信じられない。
どうして?どうしてこうなって…?
現実を受け止めきれずに後退りすると、手からナイフが滑り落ちる。
春日さんはガタガタと震えている。俺のせいで。
頭がガンガンする。こんなの頭がおかしくなる。
血が……血が赤くて鉄臭くてぼたぼた垂れてて逃げたいここからいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
ああだめだ
「ひっ…!ひゅっ…!はっ!ひゅっ…!」
勝手に口から空気が逃げていく。それが怖くて次から次へと息を吸うのに苦しくて怖くて、体が震える。
な、なんだ…!?い、息がうまく吸えない…!なんで…苦しいっ…
口を手で塞いでも隙間から漏れ出ていく。追いかけるように手を伸ばしても何も返ってこない。
どくどくとくと耳元で鳴っているような心臓に囚われて周りの音が遠のいていく。
意識が朦朧としてきていることにとてつもない恐れを抱いた。
俺はこのまま息ができなくなって死ぬのか?
じわじわと体を蝕む恐怖と汗が嫌で嫌で
助けて
だれかっ
「真昼くん」
ぎゅうっと抱きしめられる感覚。
目の前が真っ暗になった。
「ゆっくり深呼吸して。ちょっとずつでいいから。大丈夫だよ。僕がいるから」
…深呼吸?深呼吸って…どうやってやるっけ…?苦しい苦しいたすけて
「はっ…!はひゅ…!はっ…!ひゅっ…!はっんんっ!?」
突然顎を持ち上げられ、キスをされる。
な、なに!?なんで…っ…息が吸えなくてっくるしい!
そう思ったら口を離される。
「吸って」
苦しくて息を吸うとまた口づけされる。
「吐いて」
息を吸いすぎて苦しいから口を離された隙に吐く。
「吸って」
また同じ理由で息を吸う。
男の言う通りにコントロールされ、動く体はもはや俺の物ではなくなっていた。
「吐いて」
何度も何度も口付けされる度に自然な呼吸に戻っていく。どうして…なんだこれ…
「はっ…はぁ…はぁ…」
「頑張ったね」
優しく頭を撫でられると、力が抜けて目の前の体にもたれかかってしまう。
全ての元凶はこの男だと言うのに呼吸一つすらままならず、助けられた自分が情けなかった。
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