命をちょうだい【第一章完結】

あべむ

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第一章

うさぎちゃん





「ちょっと刺激が強かったかな。でも大丈夫だよ。僕がいるからね。寂しくないよ」


俺そんなの心情を知ってか知らずか、諭すかのように言葉を紡ぐ男にカチンとくる。目の前の胸板を押して離れながら激情のまま口を開く。

「ごほっ!こほ!俺は!あんたなんかいなくてもっ…!」

先ほどの衝撃が抜けきらない頭で必死に抗議しているのに相手はきょとんとした顔をしただけだった。


「え?無理だよ。僕は真昼くんが望む全てを叶えてあげてる。ハグも、キスも、一緒に寝るのだって。今さら元の生活に戻れるわけないでしょ?」

さも当然かのように語る様子に、行き場をなくした激情は霧散して、俺は動揺を隠せないまま口を開くしかなかった。

「…なにを、言って…それはあなたが勝手に…お、俺は…」

「望んでない?ほんとうにそうかなぁ?……じゃあ一つ質問してあげる。そうしたら分かってくれるよ」

悪戯を企む子供のような楽しげな表情でこちらを見つめる朔夜に鳥肌が立つ。

とてつもなく嫌な予感がした。それを聞かれてしまったら、何かが壊れてしまう。


「ねぇ」


聞きたくない

言わないで

やめろ!



「真昼くんはさ、昨日の夜何してたの?」


「は……あ?」

なんの変哲もないその質問に俺は何故かガンと頭をなぐられた感覚がした。

ずきりと脳の奥が疼き出す。必死に抑え込んでいた何かがもう我慢できないと暴れ出したような痛みだった。

それは早く俺に思い出せと扉を叩く。開けてはいけない扉を。



昨日の夜?



ダメだ思い出すな。



昨日は朔夜が去った後、俺はどうしてた?



思い出したら




俺は、誰かを呼んでた。




戻れなくなる!



バタン!と扉が開く。その暗闇の中から濁流のように記憶が溢れ出ててくる。 


俺は朔夜を呼んでた。

あの夜ベットの隅でガタガタ震えながらずっとずっと呼んでいた。

二度と戻ってこないんじゃないか、捨てられたんじゃないか、そういう妄想に取り憑かれて怨嗟を吐いて、まだ朔夜の匂いの残る枕に泣き縋っていた。

寂しい寒い怖い誰か今すぐ俺を抱きしめて、傍に居て、置いて行かないで

そんな考えがさっきからずっとぐるぐるして理性を噛みちぎろうとしている。

「なんだ、これ……こんなの俺じゃ」

「真昼くんだよ。寂しくて眠れない。人肌恋しい真昼くん」

「は?ちが、おれは」

「パワハラ上司から庇った後輩に慕われるの気持ちよかった?」

責め立てる口調じゃないのに、胸がぎゅっと痛んだ。


「ちがう!……ただ俺は、助け、たくて……」


その先は続けられなかった。あまりにも事実とかけ離れたそれを口にするのが憚らられて。

?事実じゃない?ならなんだ。本当に朔夜の言う通りだってのか。そんなわけ




「猫の抱き枕」




ひゅっと息を吸い込んだまま吐けなくなった。 
固まったままの俺の腰に腕を回し抱き寄せて耳元に囁く。

「何か縋るものがないと眠れない、だっけ?可愛いね。一人じゃ寂しくて眠れないんだもんね」

言われた瞬間、カアッと顔が熱くなって心臓が暴れ出す。

これじゃほんとうにその通りだと認めるようなものじゃないか

でも違うんだ俺はただ不眠症なだけで、その対処法がたまたまそれだっただけで、てかなんで知ってる?なんで!

そんな事はすらすらと浮かぶのに、何一つ意味のある音声を羅列できなかった。

「ぁ…、…う、」

言葉に詰まる俺を見て俺のが移ったみたいに頬を染めた朔夜は穏やかに話し出す。

「僕の大切な大切な真昼くん。そろそろ気づいて。君の本質は人に、触れられ、求めてもらないと死んじゃいそうになる、うさぎちゃんなんだよ?」


「……う、さぎ……?」

何を言っているのか分からない。さっきから頭がまともに働かない。ただ、俺を抱き寄せる腕の感触だけがジクジクと皮膚を焼き続けている。

ウサギ?兎?俺が?寂しくて一人でなんにもできないやつだって?そんな、そんなの……

黙り込む俺の背中を、とん…とん…と心音に合わせるかのような感覚で優しく叩かれる。

いやに心臓に響くからやめてほしくて振り払おうと体に力を入れても、動いてくれたのは指先だけだった。

…………。

…だめだ。振り払えない…どうして……。


「うさぎちゃん。誰でもいいなら僕にしなよ。僕だけ。僕だけが君を満たしてやれる」

耳に吐息がかかる。ゾクリとした痺れが体に走って、力が抜けて朔夜の胸に倒れ込んでしまいそうだった。

満たす?俺を?朔夜が。今まで以上に近くに来てくれる?一人で苦しまなくていい?それって……

なにを、考えてるんだ俺は。

ただでさえ朔夜の言葉を否定できない自分が恐ろしいのに、尚も毒入りの蜜に惹きつけられている自分に愕然とした。

ずきずきと脈打つ頭の痛む度に必死に閉じ籠もっていた殻が剥がれ落ちていく。

目眩がしそうなほどの頭の浮つきに必死に耐える。

だめだ、これ以上はおかしくなる。

ぐるぐると回る思考に溺れかけていると


「まだ決めれないんだ」


低くなった声にビクッと肩が震える。怒らせた……?どうしようどうしよう……っだから違う俺はこいつになんて思われてても良いはずだろ!?

なのに朔夜に肩を撫でられるまで体が震えて止まらなかったのが情けなくて。

「大丈夫。怒ってないよ。そんなに辛いならもっと簡単に考えてみてよ。『春日さん』の価値を。それってさ、僕に抱きしめて貰うより大事なのかなぁ?」

「…………え」

なに、言って?そんなの


「返答次第で僕はもう二度と君を抱きしめない」


「手を繋ぐのも、撫でるのも、キスも」



そんなの




「や、やだ、まって、いや」



え?

俺なに言って


「あいつを選べば一人で眠れない夜を過ごして、誰とも話さず終わる毎日。これからいっぱい寂しいの我慢することになるんだよ」

「ぃや!いやだ!」

考えるより先に拒絶してた。そんなクソみたいな世界に戻ってたまるかって。あんな寒くて喉が締まるような感覚は二度と味わいたくないって。

でも、でも、その代償は目の前の人を犠牲にすることでそんなの許されないことで……

だけど確かに俺の中には醜い何かがどろどろと何かが不満気に嘯く。

なんで春日さんの為にそんな我慢しなきゃいけないんだ?

どうせ俺が選んでも選ばなくても春日さんは害される。

なら俺がやってあげよう。死なない程度に痛めつけて。殺されるより断然ましだ。春日さんだってそっちのほうがいいって言うはず。

それに、うまく行けば俺はまた甘露に包まれる生活に戻れる。


朔夜に抱きしめてもらえる。






なぁ






寂しいのは、もう嫌だろ?






「ね、どっちが大事?」


 




あれ





なんで俺










春日さんのこと庇ってたんだっけ?







その時の幸福に満ちた朔夜の顔を俺は忘れられない





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