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ロボット少女

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わたしは、藍原ゆかり。

高校2年生です。

クラスメイトからは『ロボット』と呼ばれています。

おそらくわたしが、無表情で喋らないからでしょう。

必要最低限の会話はしますがそれ以外は話しません。

あの日から感情なんて忘れてしまいました。

『気持ち悪い声』
中学の頃、そう言われたのをきっかけにわたしは喋らなくなりました。
親にも無視されるようになり、
感情は枯れていきました。

「ロボットちゃーん、宿題写させて?」

クラスメイトの佐藤さんがニコニコしながら
聞いてきます。

「はい、いいですよ」

わたしはいつものように、宿題をカバンから取り出し
佐藤さんに渡します。

「ありがとー!」

佐藤さんは自分の席に戻り、友達と談笑しています。

「ロボット、これ、職員室に届けておいて」

山積みのノートがわたしの机に置かれます。

「はい、いいですよ」

わたしは山積みのノートを持って教室を
出ていきます。

引き戸を閉めたとき、くすくす笑う声がしました。


わたしは、職員室に入ると担任の山田先生に
声を掛けました。

「山田先生、ノートを持ってきました」

山田先生はチラッとこちらを一瞥すると
また、国語の先生との会話に戻りました。

わたしは、山田先生のデスクにノートを置きました。

「失礼しました」

職員室を出ると、誰かと肩がぶつかりました。

同じクラスの原田くんです。

原田くんは顔に怒りを滲ませ「いってーな、謝れよ」と強い口調で言いました。

「すみません」

わたしはぺこりと頭を下げました。

顔を上げると原田くんはもう、
そこにはいませんでした。

「ロボットって結構使えるよね」
佐藤さんの声が教室から聞こえてきました。

「喋らないし やな感じけどパシリとしては
役に立つよね!」
「この調子でどんどんいじめてやろ」

クラス全体が笑っています。

わたしが教室に入ると笑い声はピタリと止みました。

席に着いて、本を読みます。

今日もまたいつもと変わらない 
日常が過ぎていきます。

◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

「ただいま」

返事はありません。
わたしはリビングの扉を開けました。

電気をつけると、散らばった洗濯物が
目に入りました。

わたしは、床に座り、洗濯物を畳みます。

ちなみに両親は離婚していて、
母はシングルマザーです。

ここ何日か帰ってきていません。
恋人の元へ行っているのでしょう。

洗濯物を畳み終えると、わたしは料理の準備を
始めました。

今日は、肉じゃがにします。

わたしはじゃがいもの皮をピーラーで
剥き始めました。


肉じゃがができると同時にご飯も炊き上がりました。

わたしはお皿に肉じゃがを盛り、ご飯をよそいます。

「いただきます」

誰もいない部屋にわたしの言葉が響きます。

わたしは、じゃがいもを口に入れ咀嚼しました。

ガチャリ

玄関が開いた音がしました。

お母さんが帰ってきたのでしょう。

わたしはお母さんの分の夕食をよそい
食卓に出しました。

けれど、お母さんは料理に見向きもせず、
寝室に行ってしまいました。

わたしは仕方なく肉じゃがをフライパンに戻し、
ご飯にラップをして、冷蔵庫に入れました。

明日もまたこんな一日が過ぎていくのでしょう。

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